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「何ですか。その浮腫んだ顔は。」
朝から呼び出した私の顔を見たメルリーサ様は開口一番、片眉を上げてそう言った。
「いやぁ、少し、寝るのが遅くなってしまいまして。」
「まあ、そう言えば隈もありますね。」
いろいろ顔に出やすいお年頃なんです。
「やはり、朝から呼び出して正解でした。」
そう言うと、おっとり微笑んだメルリーサ様は片手を上げ、サッとその白魚のような手を下ろした。
すると、周りに控えていた侍女達が私を取り囲み、がっちりホールドしてきた。こう、「逃さんぞ」的なガッチリ具合だ。
こ、これは何が起こっているのでしょう?
「いよいよ今日は決戦の日ですからね。準備は念入りにしなくてはなりませんよ。」
「じゅ、準備ですか?」
「ええ。しっかり磨き上げてくるのですよ。連れて行きなさい。」
メルリーサ様の指示に合わせ、侍女達は私を有無を言わさず連行し始めた。
結構、力強いですねお姉さん達。抵抗できないんですけど。
て、いやいや、連れていかれている場合じゃなかった。仕事仕事。私には仕事があるんだ。
「あ、ああ、あの!仕事!私、護衛の仕事がありまして。」
「この時間のニーナの仕事は私に磨き上げられることです。」
私の知らない私のシフトが組み込まれていた!
シフトくらい教えてよ!
メルリーサ様が笑顔で私の抵抗を一刀両断し、それに会心の一撃を食らった私は大人しく侍女達に引きずられて行くのだった。
連れていかれた先はお風呂で、そこで私はピッカピカに磨き上げられ、その後はエステさながらに(行ったことないけど)ビッカビカに磨き上げられた。文字通り、本当に磨かれた。すごい擦られた。痛くはなかったけど。
「メルリーサ様、いかがでしょうか?」
「血色もくなって肌にも艶が出ましたね。いいでしょう。」
私をビッカビカに磨き上げた侍女さんがメルリーサ様に私の出来を確認すると、メルリーサ様は真剣な顔で一つ頷いた。
「次はドレスを合わせましょうか。」
メルリーサ様がそう言うと、侍女達がハンガーにかけられたドレスをいくつもザザザッと、どこからともなく持って来た。
ここまで来て、寝ぼけた私の頭は今の状況を理解した。
「あ、夜会って今日だったけ。」
決戦の準備をすると言われても、イマイチ分かってなかったが、そうか、今日か。
私は今日―――
「まあ、ニーナ。忘れていたの?」
呆れた様に言うメルリーサ様に私は少し肩を竦めた。
忘れていたわけじゃないんだけど、記憶の片隅に行きがちではあったかな。
「何と言いますか、色々と私の容量を超えることがありまして。」
「容量を超えることですか?」
不思議そうにメルリーサ様に問いかけられ、私は思わず、移動の馬車の中でのことや視察中に起きたことを思い出した。
「まあまあ!楽しい乙女のお話のようね。」
私の反応を見たメルリーサ様は華やいだ声を上げた。
う、思い出し恥ずかしをしてしまった。どうやら私の顔は赤くなってるようだ。
「どんなことがあったのかしら?せっかくだからお話して頂戴?」
そう言ったメルリーサ様はいつも通りのおっとり笑顔だったが、全て吐けという圧も感じた。不思議。
どの世界でも、女子って恋バナ好きだよね。
そして、あれよあれという間に私は、全部ゲロってしまいました。
べ、別に圧に負けたわけじゃないし。尋も―――じゃなかった、誘ど―――でもなくて、聞き上手、そう、メルリーサ様が聞き上手だっただけだもん。
「あの後、そんな風に過ごしていたのね。やりますわね、フェルーク様。」
もう、私は穴があったら入りたい。ホントに全部話しちゃったんだもん。私が眠れぬ夜を過ごした理由とか、全部、そう、全部!
今から掘ろうかな?穴。
「もしかして、あちらも今夜……」
「ところでメルリーサ様たちはあの後……」
どうしたのか?という言葉を私は続けることができなかった。
私の問いかけようとした言葉に、メルリーサ様は輝かんばかりの笑顔を向けてくださったのだから。
その笑顔で答えは十分です。
私の問いかけでかき消されてしまったメルリーサ様の呟きは、誰に聞かれることもなく消えていった。
毎週水曜日更新予定で頑張ってます。(予定は未定)
今日は、ギリギリ間に合った(;'∀')
え、いや、今日が水曜日だったことを忘れていたわk...




