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どうも、角 秋也というものです。これから毎日更新で終わりまでいくのでよろしければお気に入り登録などよろしくお願いします。
中学の入学式の朝。私は姿見の前で新品のセーラー服を纏って変な所が無いか確認していた。体を回すと自慢のブロンドがふわりと広がった。
「お母さん、制服似合ってる? 変な所ないかな?」
「うん、似合ってるわアンナ。お父さんにも見せてあげなさい」
「お父さん! どうかな?」
リビングでソファに座って待っているお父さんに制服姿の私を見せた。するとお父さんからは、
「おお、似合ってるぞ! でも、無理はするんじゃないぞ。お母さんとお父さんはいつでも杏南の味方だからな」
と、頼もしい言葉を貰った。
「うん! それじゃ行ってくるね! 勇人の事待たせるわけにいかないし」
朝に強い勇人はきっともう表で待っているはず。あんまり待たせるわけにはいかない。
「頑張れ。頑張りすぎは、禁物だがな」
お父さんは大きく頷いて言った。
「今度は号泣しないでよね。小学生の時のアレ、恥ずかしかったんだから!」
もう中学生なのだ。父親が号泣していたなんて知れたら居づらくなるのは目に見えている。
「それは……まあ、善処する」
自信がないらしいお父さんは苦笑いしながら答えた。まあ、小学校では不登校だった娘が無事中学に入学できたというのは十分に泣く理由になるだろうし、仕方ないか。
「じゃあ今度こそ行ってくる!」
新品の鞄を持ち、私は玄関のドアノブに手をかけ、一度深呼吸をした。ただ外に出るだけ。それだけのことが、私には戦場に向かうのと同じくらい恐ろしい。 でも、大丈夫。ドアを開ければ『彼』がいる。
震える手で扉を開けると、そこには予想通り、制服からはみ出しそうな巨体が仁王立ちしていた。私の視界から、通行人の視線を物理的に遮断する肉の壁。私が一歩外に出るのと同時に、勇人は自然な動作で私の前に立ち、通りからの視線を遮るように位置取った。その動きには一分の隙もない。まるで、要人を警護するSPのようだ。高校生どころか大学生と言っても通りそうな巨体の彼は、私を見るとその巨躯に似合わない優しい目で口を開いた。
「おはよう杏南。制服、似合うね。……顔色悪いけど、昨日はよく眠れた?」
「う、うん。怖いけど、勇人がいるから」
「そっか、良かった。安心して。何があっても俺が守るから」
「ありがとう」
勇人は私の鞄を持つと、車道側を確保して歩き出した。
私の世界は、いつだってこの頼もしい背中に守られている。数年前の『あの日』から、彼は片時も離れず、私の最強の盾になってくれているのだ。
ふと、私は自室の窓を見上げた。
かつて私は外が怖くて引きこもっていた。そんな私をこの世につなげるアンカーは、毎朝カーテンを開けるといつもそこにいる勇人とのアイコンタクトだった。
彼は雨の日も風の日もそこにいて、目を合わせると小さく手を振ってくれた。『あの事件』以来私を現実につなぎとめる唯一の命綱だった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「杏南! 久しぶり! もう外出ても大丈夫なの?」
入学式が終わって、教室へ着いた後、有希ちゃんが話しかけてきた。幸い昔いつも遊んでいたメンバーは全員同じクラスだった。
お父さんは相変わらず泣いていたけどうるさくはなかったしまあ許せる範囲だった。
「うん。やっぱり距離が近いと怖いけど、それなりの距離があれば平気、かな」
勇人の影から恐る恐る出てこう答えた。金髪碧眼の私は珍しいらしく、他の人は遠巻きにこちらを眺めている。
「なら良かった。勇人のことは平気なんだ?」
不思議そうな顔で有希ちゃんは言った。アイコンタクトは私と勇人の秘密だ。それを知らなければ不思議にも思うだろう。
「あー、うん。家近いから、慣れるために何回か付き合ってもらってさ。勇人は大丈夫なんだ」
私が適当に誤魔化すと、
「そうなんだ。佐助が待ってるんだけど、連れてきて大丈夫?」
扉の陰からこちらを伺っている佐助君を振り返って有希ちゃんは言った。
「適度な距離があれば大丈夫だよ」
私は佐助君に向かって微笑んで言った。すると佐助君は恐る恐るといった風に近づいてきた。
「ええと、このくらいの距離なら大丈夫?」
結構遠目に距離を置いて佐助君は言った。
「もう少し近くても大丈夫。腕一本分くらいまでなら多分平気かな」
昔からの知り合いだし、それなりに耐性はある。
「そっか。でも、外出られるようになったんだな。本当に良かった」
佐助君も昔よりも成長したらしく、悪戯などはせず言われた通りの距離で接してくれた。
「うん。あっ、先生来たから座らなきゃだね」
初めてのホームルームは長かったけれど、なんだか新鮮で、先生の話を一生懸命に聞いた。
◇◆◇◆◇◆◇◆
ホームルームの後、私たちは部活体験に向かった。
行くアテもなく歩いているとグラウンドの近くへ辿り着いた。ドスッ、といった鈍い音やズザーッといった砂の上をすべる音が聞こえてきた。音の方向を見ると、巨体の生徒達が楕円形のボールを持ってなにやらぶつかりあっていた。
「うわっ、痛そー」
佐助君が呟いた。
「すごい迫力ね……」
有希ちゃんも呟く。
「あの部は大変そうだね、別行く?」
あまりの迫力に思わず勇人の袖を掴んだ時、
「俺はあの部にする」
勇人は毅然とした態度で言った。勇人は練習する先輩たちをジッと見つめていたが、その目はもっと遠い何かを見つめているようだった。
「えっ? ラグビーなんて危ないよ!」
驚いて勇人の方を見ると、勇人は袖を握る私の手を一瞥し、
「俺には強くて頑丈な体が必要だから」
勇人はキッパリと言った。その理由は私を見つめる彼の視線で痛いほど分かった。
「杏南はどうする?」
「わ、私もラグビー部! マネージャーとして勇人を支えたい!」
あんな危ない競技だ。知らないところで怪我でもされたら辛すぎる。せめてできることはしてあげたい。
でも、大丈夫だろうか。練習風景を見る限り、屈強な男子生徒が沢山いた。
「杏南、無理しなくていい。見てわかる通り、あの部は男、しかも屈強な男ばっかだ。杏南がそんな環境に身を置く必要はないよ」
勇人は少し厳しい口調で言った。
「勇人がいるから大丈夫! むしろ、勇人がいない放課後の方が嫌!」
「……」
勇人は少し黙り込んだ後、
「分かった。そこまで言うのなら」
と言った。
「んじゃ私もそうしよっかなー。佐助は?」
と有希ちゃんは便乗してきた。
「こうなったらラグビー部入るしかないじゃねえか。一人だけハブは嫌だぜ」
渋々といった様子で佐助君は言った。
「んじゃ、今からラグビー部に部活体験だね!」
有希ちゃんは明るく言った。




