本当にこの話はハッピーエンドだったのか?
こんどこそ最終話です。
楽しんでいただけると幸いです。
「あら、こういう別荘もあるのね、綺麗だわ」
由香子の事件から数年後、ローレッタは女王となったセシルの侍女とはなれなかったが、公式の愛人として寵愛され、コンラッドはコンラッド・ジャンセン伯爵としてローレッタが女王の愛人の為に都市から離れるわけにいかず、事業を相続した。ローレッタがサロンで築いた人脈とコンラッドの働きで事業は順調だった。
「本当に綺麗なところ。湖も綺麗」
「気に入ってくれてよかったよ。女王陛下から休みをもらえたのも」
「陛下はこういう時は身を引いてくれる人だから。あなたとの時間が取れなくて私の機嫌が悪くなるのが嫌なんですって」
クスリ、と笑うローレッタにコンラッドは愛しくなって彼女の肩を寄せさせてキスをした。
「この辺は人もあまりいないからゆっくりできるぞ」
「あら嬉しい。ひさびさの2人きりね」
ローレッタは笑った。そして言った。
「あの悪霊、元気にしているかしら?」
「ーーあんなのどうだっていいだろう」
「そうね、ねえ、コンラッド」
ローレッタがコンラッドに顔を近づけて言った。
「『私も』本来のローレッタではない、って言ったらどうする?」
「え?」
風が吹き、ローレッタの帽子が飛んでいった。日に照らされて輝く黄金の髪が風に揺られているが顔には影が落ちて表情が見えない。
「ローレッタってね、14歳の時にもう死んでいるのよ。オルブライト伯爵家で虐待されすぎて、頭打って死んでるの。それで、その死んだ瞬間に私が呼ばれて入ったの。最初は驚いたわ。だって中世の貴族の衣装着ている少女の姿になっているんですもの。家具も街も本もしきたりもルールもなにもかも当時研究していた中世ヨーロッパの貴族そっくり。驚いたわ」
「ローレッタ?何を言っている?疲れたのか?」
「ねえ、コンラッド、悪霊はどうしてほかは知らないくせにこの国の『言葉』だけは理解できたんでしょうね?おかしいと思わなかった?違う種族の悪霊なら言葉が違うはずなのに」
「......」
「私が少しだけ能力を貸してあげたの」
緑の眼がエメラルドのように輝いて見えた。そういえば緑は。
「でもまさかあの悪霊ーー由香子って言ったっけ。彼女も1人の肉体に2人も転生者が入っているとは思いもしなかったでしょうね。コンラッド、あなたも私のおかげでずいぶん良い思いをできるようになったでしょ?私が女王に寵愛されることで貴族社会でも有利に動けるし、事業もうまくいってるし。ーーねえ、そろそろ私に恩を返してもいいころだと思うの」
ローレッタはしゃがみ込んで、怯えたようにヘーゼルの眼を震わせているコンラッドに言った。
「私の本当の名前は松田典子。大学で中世ヨーロッパの文化について研究していたの。主に貴族社会についてね。年齢は...まあここではマダムと呼ばれるくらい、とだけ言っておきましょう。講義の際中に脳卒中起こしてね。それで相談なんだけど、私はまだまだこの貴族社会というものについて興味があるの。学究の徒の性よね。だからコンラッド、もっと私に時間をくれないかしら?舞踏会はともかく、サロンや文化研究、貴族の家の構造や階級の違いによる生活の違い、すべてを知りたいの。だからその時間と機会をちょうだい。正直書類仕事に時間を割いている時間はないの」
「君はしかし、侯爵夫人に...」
「ああ、あれ。ああ言っておいた方が家の中をつぶさに観察できるでしょう?当時の生活をこの目で見たかったのよ。私は中世貴族社会を主に研究している学者よ?見たいに決まっているじゃない。今までは十分な資産がたまって例えば離縁されても大丈夫なように動いていたけど、そろそろ大丈夫よね。ーー平気よコンラッド、あなたの地位も盤石だし、生活が崩れることもないわ。ただちょっと私に研究する時間をくれればいいだけよ。ーー最初はそうね、サロンに私はもう一度戻るわ」
そう言ってローレッタは緑の眼を細めて微笑んだ。そこでコンラッドは思い出した。
緑は毒と怪物の象徴だ。
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