第1章 第3話:素数じゃないと即死する呪い
崖からほうほうの体で逃げ出した二人は、ようやく人里に通じる街道へ辿り着いた。遠くに見えるのは赤煉瓦の屋根が並ぶ「はじまりの村・ポルカ」だ。
「ふぅ……。ようやく村が見えてきたね、ログくん! あそこの宿屋には美味しいパイがあるんだよぉ」
「……待て。エクセル。あの街道を歩いている行商人を見ろ」
ログが指差した先では、一人の男が奇妙な動きをしていた。一歩、二歩、三歩。そこでピタリと止まる。そして反復横跳びのように一歩戻り、また二歩進む。
「……あいつ、何をやっているんだ? 酔っ払いか?」
「きっとこの世界独自のダンスだよ! 流行ってるのかなぁ」
「なわけあるか。……おい、デバッグコンソールに妙なログが流れてるぞ」
空中の黒い画面には、凄まじい速度で『Physical Damage: 9999』の文字列が赤く点滅していた。
「……現在位置の座標と歩数の変数を参照……。おい、エクセル。移動ルーチンに余計な条件分岐(If文)を足したな?」
「えっ!? な、なんでバレたの!? ……あのね、素数ってカッコいいでしょ? だから、歩数が素数じゃない時に最大HPの99%のダメージを与えるボーナスを入れておいたの!」
ログの眼鏡がパリンと割れそうになった。
「……お前は、馬鹿か。それは『ボーナス』じゃなくて『死の宣告』だ!」
「えっ? だって、2、3、5、7、11……ってたくさん数字あるよ?」
「1は素数じゃない! つまり歩き出した瞬間に死ぬだろ! 4歩目も6歩目も8歩目もダメだ。この世界の住人は、素数の歩数でしか生存を許されないのか!? 数学の暴力にも程があるぞ!」
「あうぅ……。でも、みんな元気に歩いてるよ? ほら、あの行商人さんも……」
その時だった。リズムを刻んでいた行商人が小石に躓き、意図せず「4歩目」を踏み出した。
「ぎゃあぁぁぁぁぁ!」
ドゴォーン! という爆発音とともに、行商人の体が派手に吹き飛んだ。HPゲージが一瞬でミリ単位まで削れ、彼は白目を剥いて倒れ伏す。
「見ろ! 案の定デバッグ不足だ! ……今すぐそのクソ仕様をパッチ修正しろ。If文を丸ごと削除だ」
「それが……書き換えようとしたら、この世界の根幹システム(カーネル)が『素数じゃないと不安定』になっちゃってて、消すと世界がクラッシュしちゃうみたいなのぉ!」
「スパゲッティコードかよ……!」
ログは頭を抱えた。一度組み込んでしまった「素数判定」が重力や慣性の計算式にまで癒着しているらしい。無理に消せばこの世界の住人は全員空中に霧散するだろう。
「……わかった。仕様を消せないなら、インターフェースで回避する」
ログはコンソールを高速で叩き、自分とエクセルの足元に「特殊なグリッド」を描写した。
「これは?」
「『素数ナビゲーター』だ。次に踏むべき安全な座標を可視化した。いいか、エクセル。青く光っている地面以外には絶対に触れるな。一歩でも間違えたら、俺もお前も符号反転するぞ」
「えぇーっ! 怖いよぉ!」
二人は、チェス盤の上を歩くような奇妙な足取りで街道を進み始めた。右へ二歩、斜め前に三歩。途中「一、二、三……うわぁぁ!」と叫びながら倒れている冒険者を横目に、ログは冷徹に計算を続ける。
「ログくん、あのアリさんまで爆発してるよ……。世界が地獄絵図だよ……」
「当然だ。昆虫の歩数まで判定に入れてるんだろ。……あ。おい、見ろ。村の入り口の門番たち、動きが妙だぞ」
村の門番たちは、熟練のダンサーのように複雑なステップを踏みながら侵入者をチェックしていた。
「……なるほど。この世界の強者とは、武力がある奴じゃない。『暗算能力が高い奴』のことだったんだな」
「なんか、私の想像してたファンタジーと違う方向でみんな頑張ってるぅ……」
ようやく村の門に辿り着いたログ。門番の衛兵が、息を切らしながら「素数ステップ」を止めずに問いかけてくる。
「……はぁ、はぁ……。止まるなよ、旅人! くっ、29! 次は31歩目だ! ……身分証を見せろ!」
「……大変だな、お疲れ様。エクセル、こいつの歩数カウンターを『複素数』に偽装して、常に素数判定を通るようにパッチを当てるぞ」
「えっ、そんなズルしていいの?」
「ズルじゃない。これは『最適化』だ。……それと門番、一つ教えてくれ。この村に、最近『アライメント(性格)』が変わった奴はいないか?」
ログのコンソールには、村の内部から「異常な論理値(True/False)」の衝突によるエラーログが届き始めていた。
「ああ……。宿屋の親父だ。昨日、パンを左から食べたせいで『極悪』判定になり、今、自警団に包囲されてる……」
ログは天を仰いだ。「……次から次へと。エクセル、お前、後でマジで物理的な説教をするからな」
「ふえぇぇ……ごめんなさいぃ……!」
【第1章3話・デバッグログ】
▶ 事象:歩行時に突発的な致死ダメージが発生。
▶ 原因:歩数が素数でない場合に最大HPの99%を削るIf文の実装(神の悪趣味)。
▶ 対策:安全な歩行経路を表示するUIを構築。根本治療には至らず対症療法を継続。
【次回予告】
第4話「アライメント(性格)の強制スクロール」──「おい、今右足から靴を履いたな? 殺人鬼として指名手配されるぞ!」
【約10万字完結済】月・水・土 21時更新。
※初回5話公開。最初の1週間は毎日更新の予定。
※本作はAIを執筆補助に使用しています。




