私はレナの回
その日、ギルドに珍しく静かな空気が流れていた。
理由はひとつ。
入口で受付嬢と口論している女がいる。
軽装。 剣あり。 背は高め。 目つきが悪い。
いかにも「ちゃんと強い人」だ。
「だから、パーティ紹介はいらないって言ってるでしょ」
「でも、この町には“参謀”が」
受付嬢が俺を指す。
やめろ。
女が振り向く。
俺を見る。
三秒。
そして一言。
「誰?」
空気が凍る。
俺は内心ガッツポーズ。
そうだ。 それでいい。 それが正常だ。
受付嬢が慌てる。
「この町の参謀で……戦わずに勝つというか……」
女は首をかしげる。
「戦わないのに勝つ? じゃあ戦ってないじゃない」
正論やめろ。
ざわつく周囲。
「いや、あの人は……」
「偶然を利用して……」
「武器を封じた……」
女は腕を組む。
「つまり、弱いってこと?」
やめろ。
刺さる。
だが正しい。
俺は静かに言う。
「そうだが?」
ギルドがどよめく。
言うなって顔をするな。
事実だ。
女は一瞬だけ目を細める。
「へえ。自覚はあるんだ」
初めて少しだけ興味を持たれた。
「私はレナ」
短い。
名乗りも簡潔。
「強い依頼があれば受ける。弱いのはいらない」
俺と真逆だ。
その日の依頼。
【森の奥で狼型魔物出没】
中堅向け。
レナが即決で受ける。
「単独で行く」
受付嬢が慌てる。
「せめて補助を」
周囲の視線がまた俺に向く。
やめろ。
だがレナが言う。
「いらない」
空気がさらに凍る。
俺、初めて“いらない”扱いされた。
少しだけ心が軽い。
森。
なぜか俺もいる。
理由は簡単だ。
町の連中が言った。
「比較しよう」
やめろ。
レナは前を歩く。
迷いがない。
俺は後ろ。
安心する位置。
狼型魔物が現れる。
速い。
レナは一歩踏み込む。
剣が光る。
一撃。
終了。
速すぎる。
理屈も偶然もない。
ただ強い。
俺は何もしていない。
レナが振り向く。
「終わり」
それだけ。
帰り道、俺は聞く。
「王都か?」
「違う。流れ者」
短い会話。
「参謀って呼ばれてるらしいけど」
「呼ばれてるだけだ」
レナは鼻で笑う。
「なら楽でいいね」
何がだ。
「期待されるより、普通の方が」
その言葉に少しだけ詰まる。
翌日。
ギルド。
レナはまた依頼を受ける。
難易度高め。
誰も止めない。
俺は壁際。
久しぶりの定位置。
だが。
新人が俺にささやく。
「参謀、どう思います?」
知らない。
普通に強い。
それだけだ。
俺は言う。
「問題ない」
新人が驚く。
「止めないんですか?」
止める理由がない。
レナは振り返る。
「何か言った?」
「いや」
目が合う。
彼女は言う。
「あなた、逃げるの上手そう」
なぜだ。
「位置取りが綺麗」
評価の方向がおかしい。
だが今までの“持ち上げ”とは違う。
過剰でも皮肉でもない。
事実だけ。
少しだけ居心地がいい。
数日後。
町の空気が変わる。
「参謀最強」ではなく。
「参謀は参謀、レナは前衛」
役割が分かれ始める。
誇張が減る。
俺は壁際で静かに立つ。
レナが横に来る。
「今日は?」
「何もない」
「平和ね」
そうだな。
彼女は言う。
「私は前に出る。あなたは後ろ」
当然だ。
「それでいいじゃない」
簡単に言うな。
だが。
それはずっと俺が望んでいた形だ。
過剰な評価も、理論化もない。
ただ。
できることをやる。
レナは依頼書を取る。
「行く?」
俺を見る。
その目に期待はない。
ただ確認。
俺は答える。
「後ろでな」
レナが少しだけ笑う。
「勝手にしな」
その距離感。
悪くない。
新キャラ登場。
強くて、ドライで、持ち上げない。
そして初めて。
俺は“参謀”という言葉に振り回されずに済みそうだった。




