53
その日、ギルドに珍しく静かな空気が流れていた。
理由はひとつ。
入口で受付嬢と口論している女がいる。
軽装。 剣あり。 背は高め。 目つきが悪い。
いかにも「ちゃんと強い人」だ。
「だから、パーティ紹介はいらないって言ってるでしょ」
「でも、この町には“参謀”が」
受付嬢が俺を指す。
やめろ。
女が振り向く。
俺を見る。
三秒。
そして一言。
「誰?」
空気が凍る。
俺は内心ガッツポーズ。
そうだ。 それでいい。 それが正常だ。
受付嬢が慌てる。
「この町の参謀で……戦わずに勝つというか……」
女は首をかしげる。
「戦わないのに勝つ? じゃあ戦ってないじゃない」
正論やめろ。
ざわつく周囲。
「いや、あの人は……」
「偶然を利用して……」
「武器を封じた……」
女は腕を組む。
「つまり、弱いってこと?」
やめろ。
刺さる。
だが正しい。
俺は静かに言う。
「そうだが?」
ギルドがどよめく。
言うなって顔をするな。
事実だ。
女は一瞬だけ目を細める。
「へえ。自覚はあるんだ」
初めて少しだけ興味を持たれた。
「私はレナ」
短い。
名乗りも簡潔。
「強い依頼があれば受ける。弱いのはいらない」
俺と真逆だ。
その日の依頼。
【森の奥で狼型魔物出没】
中堅向け。
レナが即決で受ける。
「単独で行く」
受付嬢が慌てる。
「せめて補助を」
周囲の視線がまた俺に向く。
やめろ。
だがレナが言う。
「いらない」
空気がさらに凍る。
俺、初めて“いらない”扱いされた。
少しだけ心が軽い。
森。
なぜか俺もいる。
理由は簡単だ。
町の連中が言った。
「比較しよう」
やめろ。
レナは前を歩く。
迷いがない。
俺は後ろ。
安心する位置。
狼型魔物が現れる。
速い。
レナは一歩踏み込む。
剣が光る。
一撃。
終了。
速すぎる。
理屈も偶然もない。
ただ強い。
俺は何もしていない。
レナが振り向く。
「終わり」
それだけ。
帰り道、俺は聞く。
「王都か?」
「違う。流れ者」
短い会話。
「参謀って呼ばれてるらしいけど」
「呼ばれてるだけだ」
レナは鼻で笑う。
「なら楽でいいね」
何がだ。
「期待されるより、普通の方が」
その言葉に少しだけ詰まる。
翌日。
ギルド。
レナはまた依頼を受ける。
難易度高め。
誰も止めない。
俺は壁際。
久しぶりの定位置。
だが。
新人が俺にささやく。
「参謀、どう思います?」
知らない。
普通に強い。
それだけだ。
俺は言う。
「問題ない」
新人が驚く。
「止めないんですか?」
止める理由がない。
レナは振り返る。
「何か言った?」
「いや」
目が合う。
彼女は言う。
「あなた、逃げるの上手そう」
なぜだ。
「位置取りが綺麗」
評価の方向がおかしい。
だが今までの“持ち上げ”とは違う。
過剰でも皮肉でもない。
事実だけ。
少しだけ居心地がいい。
数日後。
町の空気が変わる。
「参謀最強」ではなく。
「参謀は参謀、レナは前衛」
役割が分かれ始める。
誇張が減る。
俺は壁際で静かに立つ。
レナが横に来る。
「今日は?」
「何もない」
「平和ね」
そうだな。
彼女は言う。
「私は前に出る。あなたは後ろ」
当然だ。
「それでいいじゃない」
簡単に言うな。
だが。
それはずっと俺が望んでいた形だ。
過剰な評価も、理論化もない。
ただ。
できることをやる。
レナは依頼書を取る。
「行く?」
俺を見る。
その目に期待はない。
ただ確認。
俺は答える。
「後ろでな」
レナが少しだけ笑う。
「勝手にしな」
その距離感。
悪くない。
新キャラ登場。
強くて、ドライで、持ち上げない。
そして初めて。
俺は“参謀”という言葉に振り回されずに済みそうだった。




