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小物の異世界生活  作者: おこげ


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53/70

53

その日、ギルドに珍しく静かな空気が流れていた。

理由はひとつ。

入口で受付嬢と口論している女がいる。

軽装。 剣あり。 背は高め。 目つきが悪い。

いかにも「ちゃんと強い人」だ。

「だから、パーティ紹介はいらないって言ってるでしょ」

「でも、この町には“参謀”が」

受付嬢が俺を指す。

やめろ。

女が振り向く。

俺を見る。

三秒。

そして一言。

「誰?」

空気が凍る。

俺は内心ガッツポーズ。

そうだ。 それでいい。 それが正常だ。

受付嬢が慌てる。

「この町の参謀で……戦わずに勝つというか……」

女は首をかしげる。

「戦わないのに勝つ? じゃあ戦ってないじゃない」

正論やめろ。

ざわつく周囲。

「いや、あの人は……」

「偶然を利用して……」

「武器を封じた……」

女は腕を組む。

「つまり、弱いってこと?」

やめろ。

刺さる。

だが正しい。

俺は静かに言う。

「そうだが?」

ギルドがどよめく。

言うなって顔をするな。

事実だ。

女は一瞬だけ目を細める。

「へえ。自覚はあるんだ」

初めて少しだけ興味を持たれた。

「私はレナ」

短い。

名乗りも簡潔。

「強い依頼があれば受ける。弱いのはいらない」

俺と真逆だ。

その日の依頼。

【森の奥で狼型魔物出没】

中堅向け。

レナが即決で受ける。

「単独で行く」

受付嬢が慌てる。

「せめて補助を」

周囲の視線がまた俺に向く。

やめろ。

だがレナが言う。

「いらない」

空気がさらに凍る。

俺、初めて“いらない”扱いされた。

少しだけ心が軽い。

森。

なぜか俺もいる。

理由は簡単だ。

町の連中が言った。

「比較しよう」

やめろ。

レナは前を歩く。

迷いがない。

俺は後ろ。

安心する位置。

狼型魔物が現れる。

速い。

レナは一歩踏み込む。

剣が光る。

一撃。

終了。

速すぎる。

理屈も偶然もない。

ただ強い。

俺は何もしていない。

レナが振り向く。

「終わり」

それだけ。

帰り道、俺は聞く。

「王都か?」

「違う。流れ者」

短い会話。

「参謀って呼ばれてるらしいけど」

「呼ばれてるだけだ」

レナは鼻で笑う。

「なら楽でいいね」

何がだ。

「期待されるより、普通の方が」

その言葉に少しだけ詰まる。

翌日。

ギルド。

レナはまた依頼を受ける。

難易度高め。

誰も止めない。

俺は壁際。

久しぶりの定位置。

だが。

新人が俺にささやく。

「参謀、どう思います?」

知らない。

普通に強い。

それだけだ。

俺は言う。

「問題ない」

新人が驚く。

「止めないんですか?」

止める理由がない。

レナは振り返る。

「何か言った?」

「いや」

目が合う。

彼女は言う。

「あなた、逃げるの上手そう」

なぜだ。

「位置取りが綺麗」

評価の方向がおかしい。

だが今までの“持ち上げ”とは違う。

過剰でも皮肉でもない。

事実だけ。

少しだけ居心地がいい。

数日後。

町の空気が変わる。

「参謀最強」ではなく。

「参謀は参謀、レナは前衛」

役割が分かれ始める。

誇張が減る。

俺は壁際で静かに立つ。

レナが横に来る。

「今日は?」

「何もない」

「平和ね」

そうだな。

彼女は言う。

「私は前に出る。あなたは後ろ」

当然だ。

「それでいいじゃない」

簡単に言うな。

だが。

それはずっと俺が望んでいた形だ。

過剰な評価も、理論化もない。

ただ。

できることをやる。

レナは依頼書を取る。

「行く?」

俺を見る。

その目に期待はない。

ただ確認。

俺は答える。

「後ろでな」

レナが少しだけ笑う。

「勝手にしな」

その距離感。

悪くない。

新キャラ登場。

強くて、ドライで、持ち上げない。

そして初めて。

俺は“参謀”という言葉に振り回されずに済みそうだった。

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