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昼下がり。
俺はギルドの隅で、安いパンをちぎっていた。
依頼は不作。
財布は軽い。
心も軽い。いや重い。
そのとき。
バン!!
扉が開く。
「で、出たぁぁぁ!!巨大猪!!」
またかよ。
町の空気が凍る。
受付嬢が叫ぶ。
「緊急討伐依頼です!」
冒険者たちが顔を見合わせる。
誰も動かない。
おい。
さっきまで「俺なら余裕」とか言ってたやつら、どこ行った。
剣士が小声で言う。
「……どのサイズだ?」
伝令が答える。
「家くらいです」
解散。
「参謀、どう思う?」
思わない。
「俺、武器持ってないですけど」
「それはいつもだろ」
ひどい。
外が揺れる。
ドゴォン!!
北門の方向から土煙。
町人が逃げてくる。
「畑がぁぁ!!」
あー。
また畑。
俺の生活費の源。
複雑だ。
巨大猪、見えた。
でかい。
本当に家くらいある。
屋台を踏み潰す。
屋台のおじさんが泣いている。
「三日かけて仕込んだスープがぁ!」
知らん。
だが同情はする。
冒険者十数名。
数だけはいる。
でも誰も前に出ない。
なぜなら。
「どう止めるんだ、あれ」
正面に立てば終わり。
横に回る?
速い。
魔法?
当たる前に轢かれる。
町の真ん中。
逃げ場がない。
そしてなぜか。
視線が集まる。
俺に。
やめろ。
「参謀、プランは」
プランってなんだ。
俺はパンの残りを持っている。
武器、パン。
勝てるか。
巨大猪が突進。
石畳が割れる。
冒険者たち、散る。
統率ゼロ。
「ほら見ろ!」
俺は思わず叫ぶ。
「固まるな!」
誰も聞いてない。
聞け。
猪が方向転換。
露店を踏み潰す。
リンゴが飛ぶ。
そこで、なぜか。
子供が一人、固まっている。
やめろ。
そういう展開やめろ。
俺は一番近い。
なんでだ。
「うわあああ!」
走る。
人生で一番速く走る。
子供を掴む。
転ぶ。
猪の影が迫る。
終わった。
その瞬間。
猪が滑る。
石畳の上。
さっき潰れたリンゴ。
ぐしゃ。
巨体がバランスを崩す。
横転。
町が揺れる。
全員、静止。
「……今だろ!!」
誰かが叫ぶ。
今しかない。
冒険者たちが一斉に飛びかかる。
魔法。
槍。
斬撃。
猪が暴れるが、体勢が悪い。
立ち上がる前に集中攻撃。
俺は子供の下敷き。
戦ってない。
ただ震えている。
やがて。
巨大猪、沈黙。
町、静寂。
冒険者たち、息切れ。
俺、まだ地面。
子供が言う。
「お兄ちゃん、すごい」
違う。
リンゴだ。
剣士が笑う。
「滑らせるとはな」
違う。
偶然だ。
リンゴ屋のおじさんが泣きながら叫ぶ。
「参謀様ぁ!」
やめろ。
俺は叫ぶ。
「俺じゃない! リンゴだ!」
だが誰も聞かない。
受付嬢がメモしている。
【巨大猪討伐:機転により転倒成功】
やめろ。
その表現。
夜。
酒場。
今日は奢られる。
なぜだ。
「参謀が時間を稼いだ」
違う。
転んだだけだ。
「冷静だった」
冷静じゃない。
足震えてた。
俺は思う。
俺は冒険者だ。
英雄じゃない。
でもなぜか。
現場にいる。
そしてなぜか。
偶然が味方する。
本当に怖いのは猪じゃない。
町の解釈だ。
そして翌日。
掲示板。
【対巨大猪:作戦名“果実落とし”】【発案者:参謀】
発案してない。
俺はパンを握りつぶす。
これが俺の武器だ。




