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昼。
町はいつも通り騒がしい。
なのに、どこか違う。
パン屋の前に行列がない。
粉屋の扉が閉まっている。
そして丘の上。
風車。
止まっている。
今日は風が強い。
旗が千切れそうなほど揺れている。
なのに。
羽根だけが、完全に静止。
「参謀を呼べ」
だからやめろ。
丘に着いた瞬間、
町人が道を開ける。
なぜ赤い絨毯みたいな空気を出す。
「原因を」
「構造的に」
「戦略的に」
戦略的な風車ってなんだ。
俺は見上げる。
羽根は固定されているように見える。
風を受けているのに、微動だにしない。
嫌だ。
嫌な止まり方だ。
粉挽き小屋の中。
歯車。
軸。
巨大な木製機構。
そして――
異様な静けさ。
風が強い日は、
ここは本来、うるさいらしい。
今は無音。
「壊れてる?」
粉屋が首を振る。
「いや……昨日までは普通だった」
昨日。
嫌な単語。
俺は床を見る。
粉。
いつもより多い。
積もっている。
いや――
舞っている。
光に照らされて、
微粒子が漂っている。
「換気は?」
「してない」
なぜ。
「風が強い日は逆流するから」
嫌だ。
本当に嫌な条件が揃っている。
軸を触る。
重い。
回らない。
外を見る。
羽根の付け根に、
太い縄が巻き付いている。
誰かが意図的に固定している。
下でざわつく。
「誰が?」
「悪戯か?」
「魔物か?」
魔物が縄を結ぶな。
俺は屋根に登る。
高い。
本当に高い。
風が強い。
縄は固く縛られている。
切る。
その瞬間。
風が噛む。
ドォン!!
風車が一気に動き出す。
だが。
――中が詰まっている。
ゴゴゴゴゴゴ……
内部の歯車が悲鳴を上げる。
粉が舞う。
さらに舞う。
舞いすぎる。
中が白い霧。
町人が叫ぶ。
「火を使うな!!」
誰も使ってない!
だが火花は出る。
軸の摩擦。
バチッ。
一瞬の光。
全員が凍る。
ドンッ!!
小規模。
だが十分。
粉が爆ぜる。
屋根が揺れる。
俺は落ちる。
下の干し草に突っ込む。
粉まみれ。
耳鳴り。
町人全員、白い。
幽霊の集団みたいだ。
爆発で歯車が外れた。
外れた歯車が転がる。
坂を転がる。
下へ。
町へ。
「止めろぉぉぉ!」
無理だ。
巨大な円盤が坂を疾走する。
屋台をなぎ倒し、
洗濯桶を弾き飛ばし、
最後に――
井戸の縁で止まる。
奇跡的に止まる。
静寂。
風車半壊。
粉屋半泣き。
パン屋絶望。
町、真っ白。
怪我人、軽傷数名。
俺、全身粉。
町人がゆっくり振り向く。
「参謀……」
その目やめろ。
縄を結んだのは
粉屋本人。
「昨日な」
「風が強くて怖くて止めた」
止めるな。
内部の掃除をせずに放置。
粉が溜まり。
換気なし。
摩擦。
爆発。
完璧な流れ。
俺はただ縄を切っただけだ。
掲示板。
【風車事故を最小限に抑えた参謀】
抑えてない。
【危機管理講習会開催】
俺が?
町長が握手してくる。
「最悪を避けた」
最悪を呼んだ側だ。
宿。
粉がまだ鼻から出る。
町は復旧作業で忙しい。
パンは配給制。
俺の報酬。
銅貨八枚。
なぜ増える。
そして翌朝。
丘を見る。
仮設の小型風車が回っている。
町人が言う。
「参謀、次は水車だな」
俺は思った。
風も水も、
俺に関わるな。
さらに広げる?




