27
始まりは最悪だった。
ギルドでいつものように壁に張り付いていた俺の前に、
筋肉質の冒険者が立った。
でかい。暑苦しい。
「参謀殿」
嫌な呼び方。
「恋の策を授けてほしい」
帰りたい。
「いや無理」
即答。
「相手は受付嬢だ」
地雷。
「どう攻めればいい?」
攻めるな。
俺は恋愛経験ゼロだ。
ミレアが横で本をめくる。
「人間関係も戦術の一種」
裏切り者。
仕方なく言う。
「……まず距離を詰めすぎるな」
普通。
筋肉が目を見開く。
「なるほど……包囲しない、と」
違う。
翌日。
受付前に整然と並ぶ筋肉。
三歩下がって待機。
無言。
圧。
受付嬢が怯えている。
「参謀殿の策だ!」
やめろ。
噂は一瞬で広がった。
「参謀、恋も操る」
やめろ。
次に来たのは魔法使い。
「幼なじみと進展がない」
知らん。
「何か刺激が欲しい」
危険ワード。
俺は面倒になって言った。
「一回、距離置け」
適当。
翌週。
魔法使い、泣きながら報告。
「向こうに彼氏できました」
俺のせいじゃない。
でもなぜか。
「参謀の試練だな……」
前向き解釈やめろ。
ギルドの片隅に机が置かれた。
札。
【参謀の恋愛戦略室】
誰が作った。
椅子まである。
逃げ場がない。
列ができる。
なぜ。
冒険者、商人、なぜかパン屋。
「妻が怒っている」 「婚約者が冷たい」 「告白のタイミングは?」
俺は壁になりたい。
ミレアが横でメモを取る。
「興味深い」
何が。
俺は全部、適当に答える。
「謝れ」 「待て」 「様子見」
九割それ。
だが。
なぜか成功報告が増える。
「謝ったら許された!」 「待ったら向こうから来た!」
偶然だ。
絶対偶然。
ついに。
町の掲示板に貼り紙。
【恋愛参謀・本日夕方まで】
違う。
俺は畑の人間だ。
そこへ。
見覚えのある影。
ヒルダ。
王都帰り。
有名人オーラ。
「久しぶりですね」
やめろ。
こんな場面で再会するな。
ヒルダが微笑む。
「恋愛も、静観ですか?」
やめろ。
深いこと言うな。
周囲がざわつく。
「元パーティー!?」 「参謀の元相棒!?」
誤解が増える。
ヒルダは言う。
「私も相談していいですか?」
心臓止まる。
「……何を」
「どうやったら距離を縮められますか?」
誰と。
聞きたくない。
ギルド全体が静まり返る。
俺、逃げ場なし。
ミレアが小声で言う。
「ここが山場」
何の。
俺は絞り出す。
「……無理に縮めなくていい」
静観理論。
「自然でいい」
無難。
ヒルダは少し考えて、
笑った。
「参謀らしいですね」
その笑顔に。
ギルド全体が勝手に感動。
「深い……」 「究極の策だ……」
違う。
ただ逃げただけだ。
その日以降。
俺の肩書きは増えた。
・内部監査参謀
・教育顧問
・恋愛軍師
もうやめて。
俺はただの小物だ。
畑でカラスを見ていた男だ。
なのに。
なぜか。
人生相談所になっている。
一番怖いのは。
俺が一番恋愛に向いてないことを、
俺だけが知っていることだった。




