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討伐から数日後。
ギルドに入った瞬間、空気が変だった。
ひそひそ。
ちらちら。
やめろ。
俺は壁際へ移動。
最近の定位置だ。
受付が満面の笑みで手を振る。
嫌な予感しかしない。
「参謀さん!」
やめろ。
「本日はこちらを」
差し出された依頼書。
【秋祭り 屋台配置の最適化】
……は?
「人の流れが滞ると売上が落ちるそうで」
「俺は地中魔物担当です」
「人も地面歩きますよね?」
帰りたい。
会場。
村の広場。
屋台がぐちゃぐちゃに並んでいる。
焼き串の煙が綿あめに直撃。
射的の音が演奏を妨害。
迷子が三人。
混沌。
「参謀様!」
商人が駆け寄る。
「どう配置すれば儲かる!?」
知らん。
俺はとりあえず腕を組む。
武器はない。
剣もない。
最初から持っていない。
あるのは“なんか考えてそうな顔”だけだ。
「甘いものは奥」
「匂い強いのは端」
「子ども向けは中央」
完全に雰囲気。
商人たちが一斉に動く。
本気で動くな。
三十分後。
人の流れが滑らかになる。
売上、爆上がり。
なぜ。
「さすが参謀!」
違う。
俺は串一本も食っていない。
帰ろうとしたら次。
【恋愛相談:告白の布陣】
帰らせろ。
依頼主、若い男。
「彼女は花屋の娘で!」
「いつ告白すれば成功率が高いでしょう!」
知らん。
「時間帯は?」
「夕方です!」
「なら閉店間際」
「なぜ!?」
「花が少ない方が視界が開ける」
適当。
男は本気で頷いた。
「視界の確保……!」
戦場じゃない。
翌日。
成功したらしい。
なぜ。
さらに次。
【商人間価格交渉 立会い】
もう冒険者じゃない。
俺は椅子に座らされる。
もちろん武器はない。
参謀なのに丸腰。
そもそも戦闘職じゃない。
二人の商人が睨み合う。
「どう思う参謀殿」
やめろ。
俺は言う。
「お互い一歩引け」
普通。
普通すぎる。
なぜか握手。
合意。
拍手。
夕方。
俺は宿の部屋で天井を見ていた。
今日は魔物と戦っていない。
なのに疲労は討伐並み。
部屋の隅。
武器はない。
剣もない。
最初から持っていない。
あるのは机の上の依頼メモ。
【屋台配置案】
【告白成功時間帯】
【値引き妥協ライン】
戦闘ログ、一行もなし。
翌朝。
ギルド前に列。
「参謀さんいます?」
やめろ。
本当にやめろ。
掲示板。
【生活戦略相談窓口(非公式)】
俺の似顔絵付き。
手に剣を持って描かれている。
持ってない。
誰だ描いたやつ。
子どもが言う。
「参謀って剣すごいんでしょ!」
「持ってない」
「え?」
「最初から持ってない」
沈黙。
三秒後。
「素手で止めたのか!」
やめろ。
伝説が勝手に進化するな。
俺の異世界生活。
戦闘力ゼロ。
武器ゼロ。
なのに街の期待値だけカンスト。
一番怖いのは
人間の想像力だった。




