叫ぶ回
ミレアが隣に立つようになって一週間。
畑の空気が変わった。
悪い方向に。
「今日は風速が弱い」
ミレアが本をめくりながら言う。
「だから何だ」
「威圧効率が下がる」
効率って何だ。
カラスもどきが一羽降りる。
ミレアが目を細める。
「今よ」
何がだ。
新人が後ろで立っている。
三人。
全員、無言。
異様。
畑が宗教施設みたいになっている。
カラスもどきが首をかしげる。
そして普通に作物をつついた。
「ほら来た!」
来たじゃない。
食ってる。
新人の一人が叫ぶ。
「どうすれば!」
全員、俺を見る。
やめろ。
「追えよ!」
思わず叫んだ。
全員が動く。
カラスもどき逃走。
新人が転ぶ。
ミレアがメモを取る。
「貴重なサンプル」
「反省しろ!」
自分で驚く。
声が大きい。
ミレアが目を丸くする。
「今の」
「良い指示だった」
違う。
普通のことだ。
その日の夕方。
ミレアが勝手に紙を貼る。
【無為威圧型・改訂版
緊急時は主導者の号令に従うこと】
主導者って誰だ。
俺を見るな。
翌日。
畑に新人五人。
ミレア中央。
俺がなぜか前。
隊列ができている。
やめろ。
「先生、合図を」
誰が先生だ。
カラスもどき三羽襲来。
全員固まる。
ミレアが囁く。
「今は静止」
いや多いだろ。
増えてるだろ。
作物が荒らされる。
新人が震える。
ミレアが真剣な顔で言う。
「これは高度な挑発」
違う。
普通に食事だ。
限界だった。
「走れ!」
全員が走る。
カラスもどき逃走。
畑が静まる。
新人が息を切らす。
ミレアがぽつりと言う。
「……あなた、普通の判断できますね」
失礼だろ。
「今まで何だと思ってた」
「超然型」
そんな型ない。
その日以降。
なぜか俺は前に立たされる。
ミレアは横で分析。
新人は後ろで緊張。
完全に構図が変わった。
カラスもどきが来る。
俺が言う。
「左回れ」
新人動く。
「今だ追え」
走る。
終わる。
普通。
ただ普通。
新人が感動する。
「的確……!」
どこがだ。
当たり前だ。
ミレアが本気の目で言う。
「やはりあなたは、状況対応型の指揮適性が高い」
やめろ。
言葉を盛るな。
ギルド掲示板。
新しい紙。
【畑臨時指揮補助】
俺の名前入り。
やめろ。
畑で出世するな。
受付が笑う。
「最近、声出てますね」
出したくて出してない。
夜。
宿。
ミレアが向かいに座る。
「自覚ないでしょ」
「何の」
「あなた、私が暴走すると止める役に最適」
それは認める。
「ヒルダさんのときも、きっとそうだった」
少し静かになる。
俺はパンをちぎる。
今日は厚い。
なぜか。
「私は伸びる」
ミレアが言う。
「あなたは支える」
勝手に決めるな。
「違う」
俺は言う。
「俺はただ、被害を減らしてるだけだ」
ミレアが笑う。
「それ、指揮官の発想」
やめろ。
翌日。
畑。
新人が緊張している。
ミレアが理論を語ろうとする。
俺が言う。
「静かに立て」
全員止まる。
風が吹く。
カラスもどきが様子を見る。
去る。
平和。
ミレアが小声で言う。
「……今の、完璧」
「偶然だ」
「最高」
何がだ。
こうして。
俺はいつの間にか
立つだけの男から
ツッコミ兼ストッパー兼臨時指揮役になっていた。
昇格なのか。
降格なのか。
分からない。
ただ一つ分かるのは。
俺の周りには
放っておくと暴走するタイプが集まるらしい。
ヒルダは光り。
ミレアは理論化する。
俺は今日も叫ぶ。
「だから違うって言ってるだろ!」
畑に俺の声が響く。




