何もしない人材回
畑依頼が生活費枠として定着してから、俺は一つだけやらないようにしていることがあった。
反省を口に出さないことだ。
理由は単純で、この世界では反省がそのまま再現性として扱われる。
その日も畑だった。
ヒルダと二人、いつもの端の畑、いつもの静けさ。
俺は内心、完全に後悔していた。
昨日、俺は余計なことを言った。
「今日は風向き悪いですね」
ただの世間話だった。
ヒルダが「そうですね」と返した。
それだけの会話だ。
だが、それを聞いていた農家が勝手に解釈した。
「なるほど、風下に人を置いたのか!」
置いてない。
「魔獣は風に敏感だからな!」
知らない。
「さすがだ!」
誰だそれは。
俺はその場で訂正すべきだった。
だが訂正すると話が長くなる。
話が長くなると畑が増える。
だから黙った。
それが間違いだった。
翌日、ギルド。
掲示板の前。
【畑の警戒:風向きを考慮できる者】
増えている。
俺は見なかったことにした。
ヒルダは見てしまった。
「……あの」
「私たち、風、見てました?」
「見てません」
「ですよね」
一瞬、安心した顔。
だがすぐに、こう続いた。
「でも、結果的に安全でしたよね」
「……結果的に」
ヒルダは少し考える。
「じゃあ、合ってたんじゃないですか?」
この世界の怖いところがそこだ。
その日の畑。
新顔がいた。
若い冒険者。
装備が軽く、声がでかい。
「よろしくお願いします!」
嫌な元気さだ。
「俺は補助で!」
補助とは。
「采配役がいるって聞いて!」
聞くな。
俺は即座に否定する。
「俺は立ってるだけです」
「それが采配なんですよね!」
違う。
ヒルダが小声で言った。
「……否定しない方が楽ですよ」
もう順応している。
畑。
いつもの時間。
静か。
若い冒険者が落ち着かない。
「何か来ますかね?」
「来ないと思います」
「根拠は?」
「来たら嫌だからです」
真顔で言った。
沈黙。
若い冒険者がうなずく。
「……なるほど」
「気配を読んでる……」
読んでない。
ヒルダが祈る準備をする。
完全に流れができている。
その夜、何も起きなかった。
翌朝、農家は大興奮だった。
「やはり!」
「何も起きなかった!」
「最善の配置だった!」
俺は何もしていない。
報酬。
銅貨五枚。
なぜか俺が四枚。
「……増えてません?」
「采配分」
「何の」
ギルド。
掲示板。
【畑の警戒:采配役常駐】
常駐。
ヒルダが掲示板を見て言う。
「……これ」
「私たち、畑専門職ですよね」
俺は否定しようとしてやめた。
否定すると説明が必要になる。
説明すると評価が固まる。
だから。
「……生活できてますし」
ヒルダは少し笑った。
その瞬間、俺は確信した。
俺は戦術家でも冒険者でもない。
失敗を起こさないために、何もしない人材。
それがこの世界では最高評価らしい。
理不尽だ。




