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師匠と弟子3


 呪いが封印された球体が宙を舞って音もなく消えていく。

 私と師匠は再びソファに座ると、いつの間にか飲み干したはずの空だったティーカップに熱い紅茶が注がれていた。

 楽しい楽しいお喋りの続きを、と胸を弾ませるようにして彼女は私との談話を再開する。


「フフ……なんだか今回の旅で豪胆ごうたんさが増したんじゃない?」

「そうでしょうか? あんまり自分では自覚がないのですが」

「私なんかより独自性があって羨ましいわね。それにことわりを持つことは大事だわ、素晴らしいことよ」


 ん~、以前よりも柔軟性が増したってのは帰りの船でソフィアに言われて嬉しかったのを覚えているけど、独自性も身に付いたのかな? 独自性のかたまりみたいな師匠に言われてもなかなかに実感が湧かないのだが、あれから多生なりには成長できてるのかしら私?

 それにしても師匠からこんなにも褒められるなんて……なんだか怖いわ。

 私は砂糖を紅茶の中に入れてスプーンでゆっくりとかき混ぜた。


「……私は。今回の旅で私が得たものを大事にしてこれからの活力にしたいと思っています」

「うん、それが人なのよね。そんな面白くて価値のある存在を見続けるために、私は不滅で果てぬ幽霊として生まれたのかもしれないわ。アミュ……あなたのその純粋さ、今後も享受きょうじゅしてゆめゆめ忘れないようにね」

「はい!」


 この人たまに師匠として真面目な事を言ってくれるんだよなぁ。

 普段は私をからかってばかりだけど。


「そうだ。プラトーには会ったのでしょ? いつ彼女のお気に入りになったの?」

「彼女? 私が刺客から狙われ、助けてもらった話をした時に師匠がプラトーと知り合いなのは驚きましたが、彼女からは“あの人”としか聞いていません。女性なのですか?」

「そうよ……そう、あの子は彼女の名前を貴女に教えてないのね。あの子が言ってないなら私からも言えないわ」

「…………」

「大丈夫。いずれ知ることになるわよ。そういう運命ならね」


 彼女はクスッと笑い、温もりを感じさせるような穏やかな表情を浮かべた。

 しばらくして私は紅茶を飲み終え、そろそろ帰り支度をとソファから立ち上がる。

 師匠は私を見送る際、黒い髪をなびかせながらその幼い姿に似つかわしくない大人っぽい笑顔を見せた。

 普段は見た目相応に子供っぽく振る舞う事もある彼女だが、正直その美しさには女の私でも頬を赤く染めてしまう。


「改めてありがとう。アミュ愛してるわ」

「……知ってます」

一言メモ【私に弟子なんて。友達でもあるけれど。ま、素直にあの子の成長を見るのは喜ばしいことね】トルティ

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