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プロローグ-旅立ち-(3)

「――そうか。とうとう出動か」


「はい、お父様」


 丸い椅子に座っている、顎に髭を蓄えた白衣の似合う小太りの男は、女性を見上げて喜びを見せる。


「……しかし、旦那様……」


 執事が悲しい視線で男を見つめる。


 男は頷き、先ほどの表情を一変させ、娘に真剣な眼差しで、


「……本当にいいのか? この先、ここに戻れる保証はどこにもないんだぞ」


 と心配そうに訊ねる。


 女性は「何よ今さら」と思わせるような――黒髪をかきあげて、


「お父様。そんなの、前々から言っている通り、この島を救うには、この方法しかないと重々承知のはずです。私はこの島の未来を変えたい。それを動かしているのは、この島を大切に想う私の『心』。その『心』のままに、突っ走るだけですわ!」


 岩のように固い一人娘の信念に、父親は言葉が思うように浮かばない。


「わかった」


 ――という四文字のみ以外は。


 父の一言が重々しく感じた女性は、彼をやさしく抱きしめ、目を閉じる。その瞳には涙で滲んでいた。


 その姿は、「必ず戻ってくる」と父に誓っているようだった。




 翌朝。


 女性は薄いベージュのコートを着て、彼女の美貌と釣り合わないリュックサックを背負い、廃墟ビルの前に立っていた。


 地下にいた大勢の研究者たちが彼女を見守っている。


「お嬢様、これを」


「ああ」


 執事から、青い球体が革製の赤いリングで固定されたものと、機械仕掛けむき出しの腕時計を渡される。


 女性はそれらを左腕に装着する。


「使い方は心得ているな」


 小太りの父親が、娘を見つめる。


 女性は、「うん」と父親を微笑みながら頷き、見つめる。少しでも、彼の不安を和らげるために。


 そして昨日とは逆に、父親が娘の華奢な体を、図体を活かして優しく包み込む。


「いってきます」


 父親のぬくもりを身体に刻み、女性は父親に背を向ける。


 そして、


「時空管理時計<タイムシフト>、開場<ゲート・オン>!」


 左腕に装着した、機械仕掛けむき出しの腕時計が青く光り、彼女の前に薄暗いゲート―時間空間道(タイム・ゲート)が現れる。


「よし。安定しているな」


 空間が安定していることを確認し、少女は往く。


 この島の未来を救う、救世主となるために――。

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