エピローグ-夏の始まり-(1)
翌日。
夏休みが始まった。
澄み渡る海のように穏やか空の下、太陽がじりじりと照りつける。
昨日の出来事がまるでなかったかのように、虫たちは鳴き、平和を感じさせる。
この男以外は――
「――ったく、せっかく見舞いにきてやったのに、バチン! と平手打ちするほどのことでもないだろ」
手のひらの跡ができた右頬を擦りながら、光大は病院を出ていく。
「ふふふ、そうかもな」
その光大を笑いながら、一緒に来た乙姫が見つめる。
「あのなぁ……その原因を作ったのはおまえなんだぞ。自覚あるのかよ……」
「なんだと! 私のせいだと言いたいのか!?」
――全くだ。光大はそう言いたくてしょうがなかった。彼女のせいで、花楓があんな態度に……。
※※※
あの事件が終わった後、火の四聖神が正気に戻ったのからなのか、火が消えてしまっていた。
消防士たちも来ていたみたいだが、消化困難な火が消えてしまったことに、驚きを隠せなかった。
光大と乙姫は家から脱出した後、警察にコテンパンに叱られたが(なぜか葦貴は対象に入らなかった)、「あの子たちは私の娘を助けてくれた恩人です! それなのに、何故あなた方は助かる命を見捨てようとするのですか!?」と花楓の母親を始めとする、たくさんの島の住人たちによる反転攻勢により、警察からは、軽く注意を受けるだけで済んだ。
団地に住んでいる者たちは、宮島総合文化高校の講堂で、しばらくは過ごすことになった。もちろん、葦貴も。
しかし花楓は、背中のやけどと心労により、港の近くにある病院に、しばらくの間入院することになった。
それでお見舞いに行ったのだが……。
花楓は光大と一緒に後ろから病室に入ってくる、自分よりも明らかに品格の違う、お嬢様のような容姿の乙姫に驚愕する。
「あ……あなたは……」
思わず乙姫に指をさしてしまう。
「なんで驚いているのだ? おまえを助けたのはこの私だぞ」
「あ!」
不思議そうに花楓を見つめる乙姫の存在を花楓は思い出した。部屋中に火が燃え上がって、何処にも逃げ道がない中、窓ガラスを突き破って、助けた人だと。
「あの時の……!」
乙姫は、ふぅ、と一息ついて、
「ようやく思い出したか。まあ、疲労困憊状態だったから、うろ覚えになっているのも無理はないが……」
と肩を竦める。
「わわわ、ごめんなさい!」
花楓は慌てて、サッと顔を下に向け、謝る。
「ははは、謝ることはないさ。とにかく、生きていて良かったよ」
乙姫は笑いながら、怒ってない素振りを見せる。
彼女に笑われて、花楓は思わず顔を赤くする。
「まあ、おまえが相変わらずだってことが良かったよ」
微笑みながら、光大は花楓を見つめる。
「それはいいけど……」
花楓は乙姫と光大をキョロキョロ見つめる。
「?」
乙姫は、花楓の素振りを不思議そうに見つめる。
そして焦ったように、
「こ、コウちゃんは、こ、この方と……ど、どんな、関係、なの?」
と顔を赤らめて訊ねる。
「え?」
思わず、乙姫の顔を見つめる光大。
「!」
意識したのか、光大も顔を赤らめ、慌ててしまう。
「え、え、ええっ!? そ、それは……ねぇ」
横目で乙姫をちらっと一瞥する。
乙姫は顎を手に当て、少し考えて、
「ふむ、一言でいえば……パートナーだな!!」
わわわわ――――――っっっ!!
そ、そんな曖昧な発言をしたら、誤解を生むって!
案の定、光大が想っていたことが、現実のものになる。
「こうちゃん……ど、どういう、こ・と……?」
静かな怒りが――病人のくせに、インスペクトをつけていないのに、獄炎がメラメラと燃え上っているのが視える。
「ま、まて! これは、」
「知らないっ!!」
二日連続の鉄槌が――。




