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第二章-時を超えた女性-(2)


                   ※※※


 壁に映された映像が終わる。


「――これが、五〇年後の宮島だ」


 乙姫は、左腕にインスペクトを装着する。


「政府の強硬な手段によって固められた計画――『未来技術推進計画』に則り、宮島を『未来科学開発研究基地』にした結果、このような悲惨な状態になったのだ。もちろん、政府は何も動こうともしない。私たち宮島の民を捨て駒にしやがったんだ……!」


「捨て駒……」


 自分の故郷を捨て駒にした恨みが、彼女からふつふつと湧き上がってきているのが光大には分かった。『夢』を追いかけた大人たちの末路が、『道具扱い』として終わらせてしまう無念と憎悪。光大は乙姫の気持ちが分からなくはなかった。


 自分も『夢』ばかり語る大人たちの戯言、『夢』がないものは見捨てられると思わせる発言を何度も聞いてきたから。


 それが未来では、あんだけ『夢』を語っといて、結局は大人たちの思い通りに使われ、捨てられる――そんな『夢』が中心で、矛盾ばかりが溢れていることが何よりも悲しくて、憎かった。これでは、『夢』に向かって輝いている幼馴染み――花楓と葦貴があまりにも惨めになってしまうではないか。


「ヒドイ」


 この苛立つ気持ちを三文字の言葉に集約する光大。


 乙姫は、ため息交じりに、


「ああ、全くだ。大人たちは私たちを良いように使い、良いように捨てる。私利私欲のためだけに。チェスの騎馬のように、な……」


 ふぅ、と息が漏れる。


 光大は胸に込みあがる想いを抑え込みながら、


「……なあ。確認するけど、本当に五〇年後の世界、なんだよな!?」


「無論だ」


 乙姫は、「何度も言っているだろう」と思わせる口ぶりで答える。やっぱり本当なんだ、と光大は確信する。


「と、いうことはこの先……」


 乙姫は頷きながら、


「そうだ。あの映像のように、近々自然は何もかもなくなり、ポルターガイストだらけになって、人々は島から逃げるか、地下で隠れ住むことになるな」


「つまり、乙姫の目的は、その、ポルタ―ガイスト? を始末するってことか?」


「それもあるが、何故ポルターガイストという異霊どもが出現したのも気になる。その調査も含めて、私はここに来たのだが……」


 すると、突然――


 ピポ、ピポ、ピンポーン!


 玄関から、「急いで出てくれ!」と言わんばかりに、インターホンが鳴り響く。


「こんなときに誰だよ!? ……ごめん、ちょっと待ってな」


 乙姫に一言告げ、狭い家の中を走って、ガラガラッと玄関を開ける。


「こ、コウ!」


 そこにいたのは、葦貴だった。


「よっしー!? こんな夜にどうしたんだよ」


「だ、団地が……おれと花楓の住んでいる団地が……火事が、火事が発生したんだ!」


「なんだって!?」


 突然の出来事に光大は驚愕する。


 普段、火事だとか、泥棒沙汰だとか――島でそんな物騒な事件は起こらないので、珍しいのだ。


「そ、それで、どんな状況なんだ?」


「……とても、不思議なことに……」


「不思議なこと!? それは何だ!?」


「お、乙姫!?」


「わぁっ!」


 光大の大声で見も知らない女性――突然、乙姫が出てきたことに、葦貴はこんな時でも思わず、ドキッ! とする。


「いいから、教えろ!」


 乙姫は葦貴の両肩を強くもって揺さぶる。


「わああっ! 分かったよ、分かったから~」


「とりあえず乙姫、落ちつけ!」


 光大は乙姫を落ちつかせ、二人の間に割って入る。まずは落ち着いて状況を理解することが大切だ。これじゃあ、話が進まない。


「あ、ああ。分かった。すまない」


「ふう~」


 理解した乙姫は、葦貴の方から離れる。これで話が進む。


「で、不思議なことって、一体なんなんだ」


 光大は冷静に葦貴を訊ねる。


「何もない空から突然、火の粉が落ちてきたんだ。すると、団地の様々な家に燃え移って……」


「!」


 いても立ってもいられなくなった乙姫は、すぐさま外へと飛び出していく!


「ちょ、乙姫!」


 彼女は目も眩むほどの猛スピードで家を後にした。


「あ~もう! 少しは落ち着けっつーの!」


 髪をくしゃくしゃにしながら、落ち着きのない彼女の行動に呆れる光大。面倒くさいと思いながらも、彼女のことが気になる光大は、


「しょうがねぇ! 俺たちも行こう! ちょっと待ってろ!」


 光大は急いで二階にある自室へ向かい、支度をする。もし、彼女の言ってるポルターガイストの仕業だったら、一人では危険だ。


 あいつ一人では心配だ! そう感じた光大は、剣道で使う竹刀が入ったケースを背負う。


「よし、あとは……」


 いつもお守りにしている、亡くなった祖父の形見――白い球体が浮き出ている、リストバンドのようなものを左腕に身につける。光大はいつも、外出するときにはこれをお守り代わりとしているのだ。


(そういえば、これ、乙姫のものと似ているような)


 確かに、見た目がやや違っても、乙姫がつけていたもの――インスペクトに似ているような。まさかとは思うが……。


 ――いや、今はそんな詮索はしている暇はない。早くしないと!


 光大は急いで、玄関の外で待っている葦貴のもとへと向かった。

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