転移
「いいかい、君。これは『拷問』などという下劣な行為なんかじゃぁない。『実験』だよ。私達の国が戦争で勝つためのね」
これは、医者の言葉。
私が務めているのは国の最も安全と言える場所に位置する病院。
そう、病院なのだ。
ここは、病院のハズなのだ。
人の怪我を治し、人の病気を治し、人の命を救う施設なのだ。
「だからって、敵の傷を治してどうする?」
この病院の地下二階。
階段を下るだけでも時間がかなりかかるが、それでも地下二階と言うのだから地下二階なのだろう。
「この施設は仲間に対しては充分に役立っている。それに、どうせ死ぬであろう敵国の女子供を生かしてやっているのだ。これほど有意義な再利用があるか?」
その地下二階にたどり着くには、階段を下りてすぐの重々しい扉を専用の鍵で開けなければならない。
「当たり前だ。叫び声が夜中にうるさく眠れないのは不快だからな」
そして、その扉を開けたら目の前には長い廊下が果てしないほど続いている。
その長い廊下の左右に、ほぼ均等に四畳半ほどの個室が用意されている。
「もう休み時間は終わった。さっさと持ち場にもどるがいい」
その個室は私達の為の部屋ではなく、敵国の女子供の監禁部屋に間違いない。
そこでは、ある『実験』が行われている。
『人体に最も影響を与える苦痛』の実験で、はっきり言えば女子供を拷問する方法の他に無い。
そして人体の痛みの感覚が麻痺した場合、その者は『出来損ない』として殺される。
私の仕事はその者達が自殺するのを防ぎ、止めなければならない。
口を布で縛り舌を噛めないようにし、必要最低限の自殺に使用できる道具は個室には置かない。
あとは、毎晩の悲鳴を我慢すればいいだけだ。
我慢できれば、いいだけだ。