第1話 姉の背中
「姉ちゃんー!」
無邪気にはしゃぎながら走り回る少年、名はレン、無能力であるが騎士として能力者に協力して戦う姉に憧れている
「レン!走ると危ないぞ!」
少年を追いかける白銀の鎧を纏った赤髪の女性、名はアリナ、レンの姉であり、同じく無能力であるが、能力者も恐る程の剣術の使い手である
「へん!こんなんで危ないって言われちゃ騎士になんか慣れっこないよ! うわっ!」
曲がり角が出てきた背の小さいエルフとぶつかり、レンは尻もちをついてしまう
「だから言っただろう! すまない、怪我ない...ってなんだヒューナだったか」
「なんだとはなんだ?私ならぶつかってもいいってのか?」
見た目は幼いが、古代より悪魔と戦ってきたエルフ、名はヒューナ、エルフの中でもトップレベルの魔術の使い手であり、孤児であるアリナとレンの親代わりでもある
結界を破壊しようとする悪魔を騎士達と共に撃退する他、常に結界の強度の研究に勤しんでいる
「い、いや、そういう訳では無いんだが...どうも身内だと安堵してしまう所があってな、とにかくすまなかったヒューナ、ほらレンも謝れ」
「悪かったよ、ごめんなヒューナ」
「分かれば良いのさ、特にレンはまだ幼いんだから、今は騎士になろうだなんて夢を見てないで、座学に専念しなさい、私がちょっと研究で目を離した隙にすぐサボるんだから...いいか?剣術を学んでも知識や判断力が無いと騎士にはなれん、戦場でパニックになってしまった皆を導く力も必要なんだぞ?座学が嫌だからと言って逃げるなんてもってのほかなんだぞ、全くお前という奴は私が居ないと....」
「うえー...始まったよヒューナの説教...こうなると長いんだよなぁ...姉ちゃん何とかしてくれよー...」
「ふふ、それもまた人生経験だ、騎士になるんだったら怒られないように良い子にならないとな」
怒られてるレンを見て微笑むアリナだったが、そろそろ可哀想になり止めようとした時、都市に警報が鳴る
「緊急警報発令、悪魔達に結界を破られました、市民の皆様は急ぎ近くのシェルターに避難を、騎士達は悪魔の迎撃を、兵士達は逃げ遅れた市民を避難させてください」
「なに...!?私の結界が破られただと?...アリナ、レンを安全な所に連れてけ、早くしろ!」
「わ、分かってる、レン私と来い、幸いすぐ近くにシェルターがある、お前はそこで待っていろ」
「で、でもヒューナと姉ちゃんは?」
「ん?私は古くから悪魔と戦ってきたんだぞ?今更怖気付くものか、分からせてやるよ...誰の結界を破ってしまったのかをな」
ヒューナの周囲から6色の雷が出現し、空高く撃ち抜いた後雷は悪魔を狙うかのようにどこかへ飛んでいく
「流石最強の魔術使いと言われてきただけの事はあるな、レンを避難させたらすぐに戦場に戻る、ここは任せたぞヒューナ」
「任せろ、さあ早く行け!」
アリナはレンを抱き抱え走る
「姉ちゃん...街が...兵士が襲われてる...」
「くっ...もうここまで悪魔が迫っているのか」
無事にシェルターにつきレンを避難させるアリナ、シェルターの中には大怪我をしてる人もいれば、恐怖で震える人もいた
「なんでだよ...さっきまであんな平和だったのに...ちくしょう...」
悔しさのあまり涙を流すレンにアリナは優しく声をかける
「辛いかレン、だがその辛さがお前を強くさせる、人はそうして成長するんだ、ヒューナは反対していたが私はお前が騎士になる日を待ち望んでいるぞ、っと話してる場合ではなかったな、私は戦いに出る、直ぐにヒューナと戻ってくるさ、そんな不安そうな顔するな」
アリナはレンの頭をくしゃくしゃ撫で回し、分厚い鉄扉のシェルターを閉める
「姉ちゃーん!無事に帰ってこいよ!絶対だからな!!」
姉の返事は聞こえなかった、恐らくすぐに行ってしまったのだろう、それから何時間経ったのか分からない程の時が過ぎた頃、再び都市にアナウンスが鳴る
「無事悪魔の撃退に成功いたしました、結界は既に張り直した為、街に危険はありません、ただいまシェルターの扉を解放いたします」
アナウンスが終わった直後、重たい音を鳴らしながらシェルターのドアが開く、先程まで見ていた街は変わり果てた姿になっており、周囲は焼け跡が酷く建物も殆どが半壊してしまっていた
「俺達の街が...こんな...そうだ!ヒューナ!!姉ちゃん!!」
レンは2人の安否を確かめる為街を走る、街の隅には倒れて動かない兵士もいれば、大怪我をし瀕死な兵士もいた、沢山の衛生兵達が手当てをしてる中、1人の衛生兵が声をかける
「もしかして君、アリナ隊長の弟か?早く隊長に会ってさしあげろ!君のお姉さんは向こうの広場で戦っていたから、恐らくそこにいるだろう」
「ほんとか!ありがとう!」
レンは走る、とにかく走る、暫く走った後座り込んだヒューナが見えた
「ヒューナ!!おーい!ヒューナー!」
ヒューナは聞き耳を持たず、近くに来ると大量の涙を流していた
「クソッ...治れ...治れ治れ治れ...治ってくれ...!」
治療の魔術をかけるヒューナの膝元には目、口、腹から血を流してるアリナがいた
「姉...ちゃん...?おい!姉ちゃん!!」
「ぁあ...レン...か...?...すまない....やられて...しまった...よ...私と...した事が...情けない...」
「もういい!衛生兵が来るまで喋るな!死ぬなアリナ!!何やってるんだ衛生兵!!!早く来い!!!!」
「もう...無理...だ...助からないよ...私は...」
「諦めるな!!お前らしくないぞ!!レンが騎士になるのを楽しみにしてたんだろう!?今死んでしまったらその姿は見れないんだぞ!!」
「はは...レン...どこだ...?こっちに...来てくれ...」
「姉ちゃん...姉ちゃん...」
大粒の涙を流し姉を抱きしめる
「お前が騎士に...なる姿...見たかった..なぁ...レン..ヒューナ..今まで..ありがとう...ヒューナ..レンを...守って..あげてね...大好きだよ...レン...お母さん.....」
アリナはそのまま動かなくなってしまい、瞳孔は開き虚空を見つめている
「いや!!いやぁぁぁ!!誰か!!私の娘を!!娘を助けて!!」
取り乱しているヒューナと動かないアリナを衛生兵達が介護し、簡易テントで緊急手術が行われた
ヒューナとレンはテントの外で待つしか他はなかった
「うう...レン...アリナが...お前は騎士にならないでくれ...ずっと私のそばにいてくれ...私を1人にしないで...」
決して泣く事はなく、常に気を張っていて強気だったヒューナの初めて見た弱い姿、レンは思わず背中を撫でた
「ごめんヒューナ、俺は騎士になるよ、姉ちゃんを殺した悪魔を許せない、俺が絶対仇を取ってやる、何があっても絶対に...全部殺してやる...」
その瞬間、レンの目の前の空間にヒビが入るがすぐに消えてしまった、幼きレン、そして俯いて泣いているヒューナはそれに気づかなかった
それから間もなくして衛生兵からアリナが亡くなったと告げられた、現実を受け止めきれないヒューナは走り去ってしまう、レンはただ目を瞑り眠ってるようにしか見えない姉を見ている事しか出来なかった




