49 Off with his head!
屋敷の大広間。その中央に備え付けられたソファに、ブレインとアームが並んで座っていた。遠くから、断続的に爆発音が響き、だんだんと近づいてきている。
「始まったわね。すべて燃えるわ」
「それでいい。舞台は燃えるものだ」
ひときわ近く、爆発が聞こえた。大広間の天井にひびが入り、シャンデリアが揺れる。ブレインはその光景を眺め、アームへと言葉を向けた。
「座して死を待つのは君らしくない。行くといい。そろそろ、お別れだ」
「あら、私の最期の舞台は見届けてくれないの?」
アームが冗談めかして言う。ブレインは言葉を詰まらせた。しばし、言葉を選ぶように沈黙する。そして、たっぷりと時間を取った後、こう言うのだった。
「……君の首が落とされるのを、黙って眺めていられるか不安でね」
僅かに顔を背けて告げられた言葉に、アームは目を丸くした。そして、微笑む。艶やかではない、ただただ、美しい笑みだった。
そっと、アームの両腕がブレインの首に回される。アームの顔が近づく。――二つの影が、一つに重なった。どれだけの時間の後か、再び影が二つに戻った時、アームの笑みはいつもの艶やかさを帯びていた。
「――了解。我が頭脳」
アームは立ち上がり、大広間の出口へと足を引きずって歩く。――アーム。無意識に、ブレインの腕がアームへ伸びようとした。だが、ブレインはすぐにその腕を下ろす。姿を消す前に、アームは一度ブレインを振り返り、口を開いた。
「死を待つのは私らしくないってあなたは言うけど、あなたにも似合わないわよ」
そう言い残し、アームは去った。ブレインはソファに深く身体を沈ませ、呟く。
「お似合いさ。俺には……」
視界の先で、天井がついに限界を迎えていた。破片が舞い降り、シャンデリアが揺れる、揺れる――落ちる。天が、ブレインへと降り注いだ。
◇◆◇
A Man本部の廊下は火に包まれていた。兵士たちはなおも爆弾を投げ、屋敷を破壊し尽くしている。指揮官が手を上げ、兵士たちを集めた。
「よし! ここはもういい! 次は――ッ!」
言葉が止まる。視線の先、廊下の曲がり角。女が足を引きずりながら現れた。錆びた血に似た髪をした、マチェーテを握る女――アームが兵士たちの前に立ったのだ。
兵士たちが一斉に銃を向ける。指揮官がアームに尋ねた。
「女。貴様も死にたがりか?」
「ええ。でも、私は一つ注文が多いわよ。――首を、切り落として欲しいの」
アームはマチェーテの峰で自身の首をなぞり、そう言った。指揮官は不快げに鼻を鳴らす。
「聞いてやる義理はないな」
「いいえ? あなたはそうするわ。だって……首を落とされるまで、止まらないから!」
叫び、アームは片足で跳んだ。指揮官は即座に兵へ号令を下し、銃弾の雨がアームへと降り注いだ。アームはいくつかの弾丸を叩き落とす。しかし、すべては落とせず、マチェーテを握る腕が千切れ飛んだ。宙に舞うマチェーテ。それをもう片方の腕で掴み、アームはまだ駆ける。
指揮官の顔が歪んだ。叫ぶように再度下される号令。放たれる銃弾の雨。残った腕も抉られ、使い物にならなくなった。舞うマチェーテ。指揮官はもう目の前だった。だが、刃を掴める腕がない。
――なら。アームはマチェーテの柄に己の牙で食らいつく。そして、マチェーテの剣先を指揮官へ向け、疾走した。
「くそ! くそ! なんなんだ貴様ぁ!」
指揮官は半狂乱になりながらサーベルを抜き、迫るアームへと振るった。その刃は吸い込まれるようにアームの首へと向かい――首の半ばまで、刃を食い込ませる。だが、まだ落ちてはいない。アームはマチェーテを咥えたまま指揮官へと微笑むと――刃を通り過ぎるように、自らの身体を前に進めた。
刃が首を通り抜け、落ちる。鈍い音を立てて落下したアームの首――その顔に、笑顔が浮かんだ。満面の、笑顔だった。
笑顔のまま、アームの顔は永遠に固まる。それを見て、指揮官は息を乱し悪態をついた。
「こいつらは人間じゃない! 化け物だ! 化け物め! 根絶やしにしてやる!」
「サー! そろそろ我々も危険です! 脱出しましょう!」
廊下を焼く火は、兵士たちにも迫っていた。兵士たちはわめく指揮官を抑え、屋敷の外へと脱出していく。――笑顔のままのアームの首が、彼らを見送るように転がっていた。




