34 The most unkindest cut
「やってくれたな……親父」
A Man本部、フェイスの書斎。力なく椅子に座るフェイスを、ハンドを伴ったネックが見下ろしていた。ネックの目には、明らかな失望が浮かんでいる。
「フットとレッグが死んだ。あんたの命令でな。罠だったんだよ。これで俺たちに残された戦力は半分以下。決戦に持ち込む絶好の機会だ。いや、必ず攻めてくる」
「儂は……お前を……」
「……あんたが何を思ってこんなことをしたのかは分かるよ。俺を守ろうとしてたんだろ……? だが、その行動が俺を追い詰めることになった。やっぱり、ブレインの奴はすげぇよ。レッグの裏切りには俺も警戒してた。だから本部から出さなかった……だが、あいつは親父のことを見ていたんだ。俺にはできなかったことだ。あんたも、俺も、失敗したんだよ」
フェイスから目を逸らし、ネックは背後のハンドに指示を飛ばす。
「奴がこの機を逃すわけがない。これから全面戦争になる。……ハンド、伝令を一人あの男に飛ばせ。強引にでも決戦に参加しろとな」
ネックの指示に頷き、ハンドは背後に控えていた部下の一人に視線を向ける。部下は静かに書斎を後にした。
ネックの背中に、フェイスの弱々しい声がかかる。
「儂は……儂はどうすればいい……?」
「……あんたはここでじっとしていろよ。すべてが終わるまで。すべてが終わって……次にこの部屋の扉を開けるのが俺かブレインか、それを見届けろ。それがあんたにとって一番の罰になる――じゃあな、親父」
そう冷たく言い残し、ネックは書斎を去った。残されたハンドもまた去ろうとするが、フェイスに背を向けたまま、独り言のように呟く。
「……御子息を信頼なさるべきでしたな、総帥」
足音が遠ざかり、扉が開閉される音がした。書斎には、たった一人、フェイスがデスクの上にうずくまるのみ――
◇◆◇
宮殿、内務省大臣エクロフの執務室。そこでは、大臣エクロフと治安総局長セラムセドが顔を突き合わせていた。
「フットとレッグが死にました。ブレインはこれから決戦を仕掛けるでしょう。ジョンも決戦に同行するようです」
「そうか……いよいよだな」
エクロフはセラムセドに背を向け、窓からシェルヴの街並みを眺める。
「どちらの勝利に転がろうと、A Manはこれで虫の息になる。あとは我々が正式に手を下せば、それで終わりだ。何十年と続いたA Manの歴史も終幕を迎える」
ようやくだ、とエクロフは呟く。その耳に、ひどく冷えた声が届いた。
「――終わるのはあなたもだ、大臣」
耳を疑い、振り返ったエクロフはさらに目を疑った。セラムセドが銃をエクロフに突きつけている。
「セラムセド……! 何を!?」
「――トルソー。かつてフェイスと共にA Manを創設した幹部の名です。あなたには、そのトルソーであった疑いがある」
唸り、後ずさるエクロフ。セラムセドの背後で扉が開き、銃を構えた治安総局の人間たちがエクロフを囲んだ。エクロフは囲む者たちを睨みつけ、震える口を開く。
「……その証拠がどこにある? この捕り物は正式な手順に則って行われているのかね? 証拠もなく、陛下の信認を受けた大臣を捕らえるなど! ただでは済まんぞ!」
「残念ながら、決定的な証拠はまだ確保できておりませんな。しかし、A Manの本部に行けば手に入る。それさえあれば、陛下も納得するでしょう。あなたにはそれまでの間おとなしく拘束されていただきます」
セラムセドは一切の動揺なく、エクロフの反論を一蹴した。エクロフは上下する肩を抑え、努めて冷静な口調でセラムセドに言う。
「……分かった。いいだろう。私はおとなしく捕まる。ただし、A Manは必ず滅ぼしてくれ。そう約束してくれ。A Manはもう、私の理想からは遠い存在になったのだ」
「ふ……ははは……」
セラムセドは笑った。エクロフが顔をしかめる。
「何を笑った? セラムセド」
「『管理された犯罪』……でしたか? 良い理想だ。――私が引き継ぎますよ。あなたとは違う形で」
嘲笑うようにセラムセドの口から発せられた言葉。その意味を理解し、エクロフは目を限界まで開いた。
「貴様ぁ! 何をするつもりだ!」
「なぁに、ご安心ください。あなたよりはうまくやる。――連れていけ」
治安総局の男たちがエクロフを羽交い締めにし、外へと連行する。最後までセラムセドへと投げつけられた罵倒の言葉を聞き流し、セラムセドはにこやかな笑みを浮かべた。




