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ブレイバーズ・メモリー(3)   作者: 橘 シン


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26-4


 閃光は一瞬。


 私はちゃんと立っていた。


「成功した」

「よかった…」


 周囲を見回す。


「ここは…リカシィですよね?」

「リカシィよ。間違いない」


 私達はリカシィの港町が見渡せる高台の公園にいた。


 久し振りに嗅ぐ、海の匂いが鼻を通り抜けていく。


 懐かしさもある。



「リカシィ、久し振りに来た…」


 ソニアさんも感慨深く大きく深呼吸をする。


「私も久し振りにこの景色を見る」


 エレナ様は、ため息のようなものを吐く。


「ここで一晩過ごした。あのあたりのベンチで」


 ベンチはなく、そこにあった事を示す跡があるだけ。



「あまりいい思い出はありませんよね?」


 シファーレンから追放され、エレナ様はここに一人残されたんだから。


「そんな事はない。ここで、マリーダさんに出会えた。彼女と出会っていなければ、ここにいなかったかもしれない」

「そんな事はないですよ」

「巡り合う運命だった。遅かれ早かれ、出会っていたのではないでしょうか」

「ええ…かもしれない」


 私達はしばらく黙ったま、港を見下ろしていた。

 

 三人それそれの思いを胸に。



「こうしていては何も始まらない」

「ですね」

「ナミ、これを」


 エレナ様から一通の封筒をもらう。


「レーヴ様へのお手紙ですね」

「ええ」

「お預かりします」

「よろしく」


 私は鞄の奥へ手紙をしまう。



「まずはギルドへ行かないと」

「行きましょう」


 エレナ様もウィル様から金券の換金を頼まれていた。


 私達はギルドへと向かう。



 混んでいる市場を横目にギルドへ。


「ギルドも混んでる…」

「仕方ないわ。どこの町で同じ」

「どうします?」

「こういうのは、怖気づいたら負けなのよ」


 ソニアさんはそう言って、商人達でごった返すギルドへ向かう。


「すみません!通して!お願い」

 

 彼女は半ば強引にギルドの中へ入っていく。


「ナミ、私達も」

「はい」


 

 やっとの事で換金を終える。


「もうちょっと大きくすべきよね?ここのギルド」

 

 リカシィは町の規模が年々少しづつ大きくなっている。

 それにギルドの規模が追いついていないらしい。



「次は…何か、必要な物買います?」

「そうね…」

「私は数量限定のパイを買って帰るようにと、リアン様から厳命を受けている」

「パイですか?」

「それだ!忘れるところだった…危ない危ない」 

 

 ソニアさんは安堵する。


「有名なんですか?」

「リカシィの名物と言ってもいい」

「とても美味しい」

「へえ」


 という事で、パイのお店に行ったが…。


「一人二切れまで?…制限なんてあったかしら?」

「いいえ、なかったはず」

「ですよね」

「人気がありすぎて、制限がかかってしまったかも」


 パイ一切れはホール八分の一


 私とソニアさんは一切れづつでいいとして、エレナ様が二切れだけを買って帰る事になる。


「リアンは、多分メイド達や領民の子供に食べさせたいんだと思う」

「二切れだけじゃ、一口どころか、さらに半分…もっと少ないかもしれないです」


 食べたうちに入らない。

 

「私達はいらないので、エレナ様が六切れを持って帰ってください」

「そうね。それがいい」

「あなた達は?」

「私は帰りにでも」


 六切れでも少ないけど。


「あなた達がよければ…でも…」

「そうと決まれば、急がないと。売り切れちゃう」

「そう急がない。行きましょう、エレナ様」

「え、ええ…」


 売り切れ前にギリギリで買うことができた。


 持っている手の中から、美味しそうな甘い匂いが漂ってくる。

 

 食べたい衝動を抑え、エレナ様にパイを差し出した。


「それじゃあ、持って行ってください」

「ありがとう。リアン様に報告しておく」

「はい」


 

 リカシィから離れ、エレナ様が帰るのを見送る。


「気をつけて」

「はい」

「無事に帰ってきてほしい」

「わかっています」

「お任せを」


 エレナ様は頷き、閃光とともに消えた。



「さてと…行きますか」

「はい」


 

 シファーレンへ行くためには船が必要。


 まずはそこから。



「結構、お金かかりますよね?」

「かなりかかる」


 

 シファーレンから来る時は、ベッキーとともに何度も交渉して安くしてもらった。


 食事なし(自分達で用意する)。

 ベッドなし。


「よく乗せてくれたわね…」

「昼間、見張りまでしましたから」

「…」


 正直、帰りたいって思った。でも、ベッキーの意思は固かった。


「ベッキーさんに無理矢理連れて来られたんじゃないの?」

「半分くらいはベッキーの強引に負けた感じでしょうか」

「半分はあなたの意思?」

「はい…多分」


 ベッキーといると飽きない。


 彼女といると、自分の知らない新しいものを見せてくれる。

 

「ナミは、いい子過ぎる。もっと自己主張したほうがいいって」

「そうなの?」

「別に、いい子であろうと思っていたわけじゃないんですけど。周りの言う事に流されるままだった事に気づきました」


 ある種の反抗期だったのかも。



「それで、船どうします?」

「貨物船に乗せてもらおうかなって」


 ソニアさんが、以前シファーレンに行った方法。


「客船よりは安く行ける」

「そうですか…」

「それなりの手伝いはしないといけないけど」

「なるほど…シファーレンを出る時と同じ…でしょうか」

「たぶんね」


 あれ以上悪いのはないと願いたい。

 

 まずは港の管理事務所へ。



「すみません」

「はい、何か?」

「シファーレン行きの船ってあります?」

「シファーレン行き?客船はここじゃなくて、隣だよ」

「いえ、貨物船でいいです」

「貨物船でいいのかい?」

「はい」


 事務所の人は訝しげに私達を見つつ、壁を指差す。


「あそこに書いてるから」

「ありがとうございます」


 壁には港の見取り図があり、船の名前と行き先が書かれていた。



「都から来てる船もありますね」

「ええ」


 私達の行き先は、シファーレンの最北にある港町ナイワッカ。


 貨物船のほとんどがナイワッカ行きだった。


 大小様々な船があったけど、とりあえず端から乗せてもらえるか聞いていく。


 聞いていったんですけど…。


「意外と、話聞いてもらえないものですね…」

「おかしい…綺麗所二人なら即乗せてもらえると思ったんだけど…」

「え?」


 ソニアさんはともかく、私を綺麗所に含めないほうがいいと思う。



「まだ船はありますから、次行きましょう?」

「ええ」


 目的は船に乗せてもらうために聞いて回っているんでけど、潮風と潮の香りが懐かしかった。


 

 私の故郷は海沿いではないが、海に近い。


 農作業の閑散期には、お弁当を持って海辺に出かけたりした。



「すみません」

「あー?なんか用か?」


 立派な体つきの船乗り達(男性)が、荷物を船に運び入れている。


「シファーレンまで乗せてもらえませんか?」

「客船は向こうだぜ。おい、こいつが先だ。さっさと持っていけ!」

「へい!」

  

 ソニアさんの言葉を受け流す。


「わかっています。客船は高いから、こちらの船に便乗させてもらえないかなって」


 彼女はこれでもかってくらいの笑顔で話す。


「やめたほうがいいぜ。ベッドも食事もねえから」

「なくていいんです。できるだけお金を払わずにシファーレンまで行きたいので。お手伝いもできる限りやります」

「…」


 船乗りは、困ったように頭を掻く。



「おーい。どうした?」

「船長…。この二人、乗せてくれって」


 船から長身の、やっぱり体つきのいい男性が降りて来る。

 この人が船長さんか。


「乗せろ?」

「はい…できるだけ安くしたいそうです」

「たまにいるんだよなぁ」

 

 船長さんもあまり気乗りしない様子。



「だめっぽいですね…」


 ソニアさんの後ろが小声で話しかける。


「まだ断られていないから…押していけば…」


 彼女はそう話すけど、どうするんだろう?。



「食事はどうしているんです?」

「は?食事は…俺達で作ってるぜ」

「そうですか…わたし達が食事を作りますから、乗せてもらえません?」

「お前らが?」


 船長さんと船乗り数名が集まり話し合いを始めた。



「ソニアさん。私、料理はあまり得意じゃないんですが」

「わたしも得意じゃない」

「えー?どうするですか?…」

「得意じゃないって、凝った料理は作れないって意味よ」

「そういう事ですか」

「ナミさんはシファーレンにいた時は、料理の手伝いしてた?」

「ええ、まあ…」


 基本的な家庭料理なら、なんとか…


「なら、大丈夫」

「ソニアさんはどうなんですか?」

「旅先で、手伝う事があるから。一通りはね」


 いいのかな?家庭料理なんかで。



「わかった。いいぜ」

「ありがとうございます」


 意外にあっさり、乗せてくれる事になった。 



Copyrightc2020-橘 シン


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