26-5
「いくら払えばいいですか?」
「いくらねぇ…。客船の相場は、いくらなんだよ?」
「えっと…一番安くて、一人、千から千二百だったはずです」
「なら、半額の五百だな」
「四百で」
ソニアさん強気すぎる。
相場の半額なら十分安いのに。
「半額だぜ?」
「ですから、食事はわたし達がすると」
「作るのはお前らだが、食材費はこっち持ちだろうが」
そうですよね。
「そうですか…じゃあ、やめます。ナミさん、別の船に行きましょ」
「え?でも…」
ソニアさんに腕を引っ張れらて、船長さん達に背を向ける。
「いいんですか?」
小声で話す。
「いいから。大丈夫」
せっかく見つけた船なのに…。
「引き止めに来るわ」
「本当ですか?」
彼女には確信があるみたい。
「おい!待ってくれ!」
「ほらね?」
「え?」
呼び止められたが、すぐには振り向かない。
ソニアさんの口元が笑っていた。
「四百でいい」
「よし!」
ソニアさんは右手をぐっと握る。
「決まりね」
「ああ…」
ちょっと納得がいってないような、船長さんと交渉成立の握手し、まずは半額の二百(二人で四百)を支払う。
「案内するから、ついて来い」
「はい」
船長のあとをついて船に乗る。
船乗り達が何事かと、視線を向けてきた。
「食事作ってくれるってよ」
「あ、マジで?」
「助かるわぁ。俺苦手だから…」
「ていうか、可愛くね?」
「腰にショートソードぶら下げてるけどな」
なんて声が聞こえてくる。
「サボってんじゃねえよ!」
「はい!」
「ったく…」
船長がちょっとご立腹。
「すまないな」
「いえ。こうなるだろうなと」
「そうか」
ソニアさんは、ほんと慣れてる。
「ソニアさん」
「何?」
「なんで船長さんが引き受けてくれるってわかったんです?」
「船乗り達が、明らかに期待してたし」
「そうだったんですか」
全然、気づかなかった。
私、気持ちに余裕がないのかも。
「客船じゃないんだから、期待するなよ。ほんとに」
「ええ」
はしごを使い、船倉へと入っていく。
「こっちにも荷物があるんですね」
「ああ。こっちは高価なものとか、あまり濡したくないものが中心だな」
「へえ」
荷物はロープなどで固定されている。
その隙間をぬって奥へ進む。
「このあたりを使ってくれ」
「このあたり…」
部屋、ではなく、荷物と荷物の隙間だった。
二人が寝れるスペースがあるだけ。
寝返りできないかも?。
「出発は、今日の午後だ。準備を済ませて乗っててくれ。特に確認はしないからな。乗ってなかったらおいていく」
「はい」
「んじゃあ、よろしく」
船長が去っていく。
「ここ?ですか…」
「みたいね…」
ソニアさんと私の間には乾いた笑いだけ。
「まあ、仕方ない」
「そうですね。買い物行きましょうか」
「ええ」
なんとか快適に過ごせないかと考える。
「と、その前に厨房を見せてもらいましょう」
「はい。調理器具が揃ってるといいですね」
「ええ。最低限の物が揃ってると思うけど、使えるものかどうか確認しないとね」
ちょうど通りかかった船乗りに、厨房の場所を聞く。
「ここだ」
「意外にきれいね」
「きれいに使わないと船長が、怒るから」
「そう」
一応、かまどがあるが、一つのみ。
「これ火鉢では?」
「ああ。それも使えるぜ」
「この二つだけか。鍋やフライパンはあるっと」
「包丁とかヘラとかは?」
「そこの箱の中だ」
「これね」
包丁というか、使い古しのナイフ。
ヘラはすり減ってヘラだった、とかろうじてわかる物だった。
「水は?」
「樽に入れて運び込む。大事に使ってくれよな」
「ええ…うん」
「仕事残ってるんで、じゃあな」
船乗りが行ってしまう。
「食材はどこなんでしょう?」
「さあ…」
先が思いやられる。
「まな板がないみたいです」
「船長にお金もらって買ってきましょ。食事担当はわたし達だし、やりやすくしないと」
「はい」
船長さんに事情を説明し、お金をもらって市場へ向かった。
「大きい市場でよかった…」
「品揃えが良くて、助かりました」
自分達が必要な物も買い揃える。
「これでいいでしょうか?」
「とりあえず、思いつく物は買ったわ」
両手いっぱいの荷物を船に入れて、甲板で昼食。
「グレムさんに、料理を習っておくべきだったかしら」
「もう遅いですよ」
「そうね」
笑いながら、グレムさんが作ってくれた昼食を食べる。
「船長!許可出ましたぜ!」
「おう!よおし、出るぞ!いい感じの風が出てきたな。いいタイミングだ。さあ,帆を上げろ!」
「あいさ!」
大きな帆が広がり、風を受ける。
そして、船が前進を始める。
波をかき分け、港を出ていく。
「しばらく王国とは、おさらばね」
「はい」
少しづつ離れていくリカシィ。
シュナイツも王国もリカシィも故郷ではない。
なのに寂しさが、私の胸に過る。
「ソニアさんは、旅に出る時、寂しくないですか?」
「もちろん、寂しい。でも…」
「でも?」
「でも、それは帰る場所がある証拠じゃない?」
「そう…そうですね」
確かにそうだ。
待っていてくれる友達や仲間がいる。
「大丈夫よ。ナミさんは、これから里帰りするんだし、親御さんが待ってるわ」
「はい…」
私は一人じゃない。
ソニアさんもいる。
いつまで感傷的になっていちゃだめ。
私には大事な使命がある。それを全うしてシュナイツに戻るんだ。
私は、両拳を強く握った。
「シファーレンまではどれくらいだったかしら」
「四日か五日だったはずです」
五日か…。
天候不順がなければの話よね。どうなることやら。
ナミさんがちょっと寂しそうなのが心配。
この辺の気配りも、わたしの仕事よね。
「船旅は初めてか」
船長が近づき話しかけてくる。
「いいえ」
「わたしもナミさんも初めてじゃないです」
「そうか。船酔いしやすいか?」
「わたしは大丈夫だと思いますけど…ナミさんはどう?」
「私も大丈夫だと思います」
今程度の小さな揺れならば問題ない。
「気持ち悪くなったら、船の真ん中にいろ。揺れが少ない」
「はい」
「それから、手首のこの辺を押せ」
「ここですか?」
手首の内側、手のひらの下、指二本分くらい肘側の真ん中を押す。
「船酔いに効くんですか?」
ナミさんが一生懸命押している。
「知らん」
「え…」
「俺の爺さんが言っていただけだ」
「根拠はないんですね…」
「ないな。俺は船酔いしないし」
無駄な情報、ありがとうございます。
「吐くなら、海に吐いてくれよ」
そう言って去っていく。
「まあ、船乗りが船酔いするわけないわよね」
「いたら幻滅するかも?」
「そうね。素人か!って」
海が荒れると、さすがの船乗りも酔っていたけど。でも、吐くまではしてなかった。
リカシィが水平線に消えようとしている。
「早いですね」
「ええ」
船尾からリカシィを望む。
王国の陸地はまだ見える。
北から南へ壁のように、続いている。
それも水平線に沈む。
そうすれば、だだっ広い海に船一隻。
これを不安と捉えるか、絶景と見るか。
「絶景だろ?俺を遮るものは何もない。俺の世界!ってわけだ」
「自由ですね」
「自由こそ贅沢」
船長はそう言って胸を張る。
「事故だけは、起こさないでくださいね」
「当たり前だ」
「そこは、信用していいっすよ」
「まだ、無事故だから」
「含みのある言い方だなぁ、おい…」
「信用されてないんじゃありません?」
「そうか?」
「知りませんよ」
わたしとナミさんは、夕食の準備ため船倉へ降りた.
Copyrightc2020-橘 シン




