表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブレイバーズ・メモリー(3)   作者: 橘 シン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

128/128

29-14

 松明を持ったバッシュの後ろを行く。


 彼のずっと先に検問所が見えてきた。


「やっと、着いたね…」


 あたしは胸を撫で下ろす。

 

 検問所に近づくにつれて、周囲の様子がわかってきた。


 道の南側に平屋の建物が、多分一つ。

 

 道を挟んだ北側にも建物が一つ。こっちは二階建て。

 

 周囲を丸太を立てて、防壁としている。

 

 その厳重な警備は、この場所が、戦いの最前線であることも物語っていた。

 

 篝火があるので、検問所周辺は明るかった。


 あたし達に気づいたのか、兵士らしき者達が出てきた。

 

 検問所の少し手前でバッシュが馬を止めて降りる。


「どうしたの?」

「すみませんが、武器を預からせていただきます」

「ああ、そう」


 バッシュの言葉に、ガルドが反発した。


「待てよ。俺達は、帝国と戦いに来たんじゃないんだぞ」

「わかっています。ですが…」

「わかってんなら、預ける必要はないだろうが」


 ガルドがバッシュに突っかかった。


「ガルド。しょうがないでしょ…」


 あたしは竜を降りて、剣を外す。


「でも、隊長」

「あんた。逆の立場だったら、どうしてた?」

「…」


 彼は何も言わず、大きく息を吐いてから竜を降りる。


 その大きなため息は、彼の心の中に、あたしの言葉に対する、理解と、そして、少しの不満が混じり合っている。

 

 立場上、そうしないと穏便にいかないからね。仕方ないのさ。


「模擬剣も預けたほうがいいか?」


 ライアが、自分の肩にかかえている模擬剣を指差しながら尋ねた。


「一応、預かっておきます」

「わかった」


 あたし、ガルド、ライアの武器をバッシュに預けた。


 彼は、預かった武器を脇に抱え、検問所へと歩く。

 あたし達も彼に続いた。


 検問所から、甲冑を着込んだ二名が前に出てくる。


「あれは…竜騎士ですよ」

「ああ」


 長剣を腰に下げている。


 二人ともそれなりの体格。


 顔はまだよく見えない。けど、年齢は三十くらいか。


 二人のうち、一人だけが松明を片手にさらに近づいてくる。


 そして、こちらに手のひらを向けた。


 そこで止まれと。


 でも、バッシュだけには手招きする。


 バッシュは、帝国の竜騎士を通り過ぎて検問所へと行く。


「なんなんですかね…あの、もったいぶった感じは」

「向こうに聞こえるって…」


 向こうの竜騎士が、数歩前まで来た。


「あんたが、検問所の責任者?」

「今は、そうです」

「そう。あたしは王国の…」

「存じています」


 自己紹介を遮られる。


「セレスティア王国、竜騎士一番隊所属、ヴァネッサ・シェフィールド班長」

「情報古いよ」

「え?」

「ふっ…」


 ガルドが、あたしの後ろで笑う。


「あたしはもう一番隊じゃない。シュナイツの竜騎士隊隊長だよ」

「それは、失礼しました…」


 彼は苦笑いを浮かべ、小さく頭を下げた。


「後ろにいるのが、ガルド。隣はライア。彼女は女性だから」

「はい」

「バッシュから事情は聞いてる?」

「聞きました」

「面倒だと思うけど、一晩だけ厄介になりたい」

「ええ。確かに面倒ですが、仕方がありません。事情が事情なだけに、断るわけにいきませんから」


 彼とともに、検問所へと向かう。


「あんたは、班長なの?」

「いいえ」

「あーなら、小隊長?」

「いいえ」

「じゃあ、分隊長かい?」

「いいえ」


 違う…じゃあ、もっと上?。


 あたしと同じキャリアなら、分隊長あたりが限界。そうじゃなかったら…。


「お前、平の竜騎士なんだろ?」


 ガルドがそう訊く。


 そうだろうね。


「いいえ」

「ふざけてんのか?てめえ!」

「失礼だぞ!貴様!」


 検問所を出てきたもう一人の竜騎士が叫んだ。その声は、怒りをはっきりと示していた。


「やめないか」

「しかし、副長…こいつら…」

 

 副長?。


「なんだ?やろうってのか?相手になるぜ?」

「ガルド、やめなよ…挑発するのは」


 こっちと向こう、お互いに部下を窘める。


「申し訳ない」

「いや…こっちもだよ」


 副長と呼ばれた竜騎士は、松明を部下に渡す。


「すみません。最初に自己紹介すべきでした」


 そう言って、敬礼した。


「自分は帝国軍。竜騎士隊副長。フェノッズ・ミューゼ」

「副長って竜騎士隊の上から二番目ってこと?」

「はい」

 

 なんて奴だ…。

 

 あたしとそう変わらないのに、すでに副長だって!?。

 

 ガルドも、目を見開き驚いている。


「失礼しました」

 

 あたしとガルドは姿勢を正し、敬礼を返す。


「やめましょう。かしこまった挨拶は」

 

 そう言って、飄々としている。


「それに、お互い剣を交えることは考えてない。そうでしょう?」

「ああ、確かに」


 武器を預けたが、そうしなければ、周りが納得いかないからだろう。

 

「とりあえず中に入ってください」

「ああ」

 

 歩き出したが、検問所に近づくたびに竜の足取りが重くなっていく。そして、唸り声を上げだした。

 

 その唸り声は、明らかに警戒している声だ。


「大丈夫だよ」

 

 あたしは、竜のたてがみを撫でる。

 

 ガルドもそうしていた。


「やはり、警戒してますね。こっちの竜もそわそわしてましたよ」

 

 フェノッズがそう話す。

 

 竜同士が顔を合わせてるわけじゃない。何かを感じているんだ。


「落ち着けよ…」

 

 ガルドがなんとか落ち着かせようと、たてがみや顔を撫でている。


「ビビったら負けだぜ」

 

 竜ってのは、乗り手の気持ちを表す。とすれば、警戒してるのは竜ではなく、あたし達竜騎士って事になる。

 

「南側の建物の裏なら、離れてますから、いかがでしょう?あちらに停めては?」

 

 フェノッズが気を利かせて、勧めてくる。


「いや、申し出はありがたいけど、あたし達は戦いに来たんじゃない。守りに来たんだ」

 

 あたしは、手綱を強く引く。


「竜騎士隊が待機してるのは、北側の建物?」

「そうです」

「そう。なら、そっちに行く」

「大丈夫ですか?」

「ああ」

 

 正直に言うと不安だし、向こうのピリピリと張り詰めた感じも伝わってくる。

 

 向こうだって同じ気持ちなんだ。

 

 怖がる事はない。


「噂通りの人だ」

「あたしかい?」

「はい」

 

 北側の建物に向かいながら、フェノッズが話しかけてきた。


「女性の竜騎士だが、男並みの胆力をお持ちだと」

「ふふっ…」

 

 すぐそばでライアが笑いをこらえている。


「女の竜騎士は珍しいから、変な噂ばかりが広がっちゃって…」

「そうなんですか?」

「あたしは、迷惑してんだよ。全部、嘘だからね。信じないで」

「わかりました」

 

 フェノッズは、笑顔で頷く。

 

 防壁の中に入っていく。


 帝国の兵士が、物珍しそうにあたし達を見る。


「ライア様!」

 

 オリヴィアが笑顔でライアに駆け寄って、彼女の腕に掴まった。


「怪我はないようだな」

「はい!」

 

 オリヴィアに何事もなかったのは幸いだね。

 

 これで、怪我なんかされたら自己嫌悪に陥るよ。

 

 竜同士が顔を合わせたけど、意外に落ち着いて安心した。

 

 状況がわかってるみたいだね。

 

 人同士もそうだけど、竜同士も緊張してる。

 

 お互いに気にしつつも、気にしない素振り。

 

 こんな竜の振る舞いを初めて見たよ。

 

 

 あたし達が招かれたのは、北側の二階建ての建物。

 

 明らかに古い建物とわかる。

 

 蔦が建物全体を覆っていた。

 

 シュナイツの館の三分の一くらいかな。


「戦争初期に建てられたものらしいです」

「へえ」

 

 フェノッズに続いて、建物の中に入る。

 

 中にはテーブルと椅子が数組あるだけ。

 

 後は二階へ上がる階段と、各部屋のドア。



「班長」

「はっ」

 

 班長と呼ばれた者が前に出る。


「彼らに、紅茶を出してあげてくれ」

 

 班長は困惑顔だ。


「副長殿。お言葉ではありますが、この者達は王国の竜騎士です」

「ああ。そうだが?」

「なぜ、もてなさなければいけないのですか?」

「私はもてなせとは、言ってない。紅茶をと、言っている」

「ですから、それは…」

 

 班長が納得いかない気持ちはわかる。

 

 敵兵に、紅茶をだせ、なんてね。

 

 なんでわざわざ出さないといけないかと。


「君は彼らがここにいる理由を聞いただろう?」

「はい」

「ならばなぜ、そう敵意をむき出しにする?」

「王国との戦争は、未だ終わっておらず、休戦状態で…」

「もう少し柔軟に考える事はできないか?」

「…」

「彼らは、我々と戦うために来たわけではない。翼人族の護衛だ。それに正規兵でもないんだぞ」

 

 班長は渋々といった感じで敬礼し、この場を離れた。


「水でいいのに」

「そういうわけにはいきません。私は同じ竜騎士同士、礼儀を持って接したい」

「落ち着いてるねぇ。あたしとそう変わらないのに」

 

 

 あたし達は近くの椅子に腰を下ろす。

 

 フェノッズも座った。


「落ち着いているのは、シェフィールド隊長の方でしょう。敵国に踏み入れた者の佇まいではない」

「そうかい?」

 

 おどおどしたって、しょうがない。腹くくってるだけさ。


 班長が紅茶を持ってやってくる。


「ありがとう」

「いえ…」

 

 班長はあたしの顔をチラチラ見ながら去っていく。


 紅茶を一口飲む。

 

 香ばしい香りが鼻を抜ける。

 

 気持ち半分くらい、落ち着いた感じがした。

 

 

Copyright©2020-橘 シン 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ