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最後の騎士と北砦のサムライ・上

登場人物紹介。


ウイリアム……ウイリアム騎士団団長。女ばかりの騎士団を作った。牛郡領主の後継者だったが竜騎士の爆発攻撃によって戦死した。


アイザック……ウイリアム騎士団副団長。有能だが醜く不気味と嫌われている。


フレイヤ……ウイリアム騎士団一式隊隊長、竜騎士の爆発攻撃により戦死した。


ローラ……ウイリアム騎士団三式隊隊長、任務に出ていたので竜騎士の爆発攻撃を受けなかった騎士団の生き残り。


ノスケ……鹿郡領北砦の砦将、元冒険者のサムライ。

 ローラは止める父親の声を振り切り、腰にある弓を取り、北砦に向けて愛馬を走らせた。


「ローラ様に続けー!」

「「「「はーい!」」」」 


 いつも支えてくれるメルルが牛の角笛と三つの鈴が描かれた旗を掲げ、ここまで付いて来てくれた仲間達が続く。


「(この日の為に! この日の為に鍛錬してきたんだ!)」


 もうこの世界に居ない、あの人の為に。


 ーーーーーー   


 女騎士ローラは今年で十七歳になる。家は代々領主を支える重臣の名家だった、子は八人いるが初めての女児で父親は喜び、溺愛し、彼女が欲しがる物は何でも買い与えていた。



 ローラが六歳の誕生日に、彼女は変わった誕生日プレゼントを欲しがった。


「おとうさま、わたくし弓がほしいのです」


 父親は玩具の弓を与えたがローラは駄々をこねた。


「ちがいます! おにいさまたちがもってるような弓がほしいのです! わたくしの役割にあう、りっぱな弓がほしいのです!」


 ローラが役割の神に与えられた役割は〈弓腰姫〉、それも戦闘スキルまで持って産まれた希少な娘だった。



 ローラが十二歳になると、習得した戦闘スキルの数は兄弟達全員を合わせてもその数を超え。

 将来は勇者のパーティーに選ばれる程の実力者になるだろうと噂され、ローラもそのつもりで鍛錬に励んだ。



 ローラが十四歳の時、出会いの舞踏会にも行かない娘に、父親が持ってくる婚約話しを全て断り、十五歳になれば参加出来る武闘大会、その大会に毎年優勝する謎の女剣闘士と戦ってみたく、参加を目指して鍛錬を続ける日々に、運命の男性が屋敷に訪れる。


「始めまして。ローラ嬢ですね? お噂は聞いています。私はウイリアムと申します」


 ウイリアムと名乗った男はローラの手を取り、その甲に唇を当てた。金髪の長い、まるで宝玉の女神のような人物からよく通る男性の声に混乱する。


「は、はい……ウイリアム様……ローラです。始め、まして……」


 ローラがウイリアムに見惚れていると、ドワーフのように背が低く、ゴブリンのような醜い男がローラの手を取ろうとした。


「あ、結構です」


 手を引いた。


「……アイザックだ……」


 次期領主、女神と見間違える程に美しい宝玉のウイリアムと、あと何か一緒にいる醜い男、アイザックがローラの屋敷に訪れた。 


 領主の御曹司が屋敷に来ると知らせが来て、大急ぎで使用人のメルルが仕度をしてくれた。

 化粧やドレスは、どうせ似合わないので適当で良いと言うがメルルは聞かず。


「大丈夫です! あのエレオノーラ姫にも負けていません!」


 メルルは領主の末弟、その養女で牛郡領一の美女と噂の女性と比べて保証してくれたが、ローラは鏡で見る女としての見た目を意識したのはその日からだった。



「実はここだけの話し、僕の騎士団を作ろうと計画していてね」

「騎士団……ですか?」


 ウイリアムは魔物の襲撃が日常的なこの牛郡領の土地で、領主の命令を待たずとも独自の判断で迅速に動ける部隊の必要性を話し、ローラはウイリアムの話しを聞きながら胸の高鳴りは大きくなっていく。


「その為に、是非ともローラ嬢に僕の騎士団に――」  


 その言葉がほぼプロポーズのように聴こえた。


「待てウイリアム」

「なんだいアイザック」


 プロポーズの言葉をゴブリン男に邪魔された。


「ガキじゃないか、こんな小娘を入れるならこの前の女給の方がまだマシだ」

「な、なんですって!?」


 小娘と呼ばれ、あと美しいウイリアムとタメ口で話すこの醜いアイザックが許せなくなった。


「なら実力をお見せしますわ!」


 ローラは屋敷内の鍛錬場に二人を案内し、ゴブリン男に鎧を貸し、武器を選ばせた。



「あ〜……何でこんな面倒くさい事に……」


 アイザックは身体のサイズに合う鎧を借り、棍棒の握り具合を確かめてる時に、ニコニコ顔のウイリアムに呼ばれた。


「アイザック、アイザック」

「おう、何だ?」


 アイザックはウイリアムの腰ぐらいまでしか背が無いので、ウイリアムが中腰になって、その女のような顔を近づける。


「手を抜いちゃ駄目だよ?」

「お、おう」



 その日、ローラは初の恋と初の挫折を経験した。


「それまで!」


 ウイリアムの声で剣を落とし、ローラは床に倒れた。


「ハァ……ハァ……ハァ……」

「お疲れ様、いや〜一方的だったね」 

「ウイリアムこの娘は駄目だ」


 散々に棍棒で打たれ、床に倒れるローラにアイザックの言葉が伸し掛かる。

 アイザックは息も荒れておらず、棍棒を肩に乗せて立っていた。


 今まで習得した全ての技が何一つ通用しなかった。それに対して、技でも何でも無いアイザックの一撃は重く、ただの木の棍棒が鋼鉄のように重く、受けたローラは鎧の上でも身体がへし折れるかと思った。


 ウイリアムがローラを抱えて椅子に座らせ、彼女の兜を外しながらアイザックを呼んだ。 


「それだけじゃ駄目だよ。何が駄目なのか、彼女の為に教えてあげなきゃ」


 ローラも息を整えながら知りたいと思った、口には出さないが、どうすればそんなに強くなれるのかと。


 アイザックは考えるように、棍棒で肩をトントンと数度軽く叩いた後「軽い」と話した。


「全ての技が軽い、お前の技には殺気が無い」

「殺……気?」

「殺す気で剣を振れ、お前の覚えた技は全て人を殺す為の物だ。まだ人を殺した事が無いならその辺にいる浮浪者を一匹殺して来い。そうすれば――」

「そんな! そんな野蛮な事なんて出来ない!」

「……そうか」


 突然ローラの背筋がゾワッと寒気がしたが一瞬で消えた。だが――


「ううううウウウウウ……ガァ!!!」

「え? ヒィッ!? キャァァァァ!」


 咆哮。


 ローラの目の前で、棍棒を持つアイザックが、人狼と呼ばれる魔物の姿になった。

 人狼はローラに飛び付き、その剛力で押さえつけられ、ローラの鎧をまるで飴細工のように剥ぎとられる。


「嫌! いや!! いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 


 恐怖でローラから剣を取り、技を繰り出すという考えは消え、人狼はローラのむき出しの肌を爪で切り裂き、牙を突き立てて喰いちぎる。


「ぁ……ぁぁ………」 


 人狼は引き千切ったローラの腕を口に咥えたまま、棍棒を振りかぶり、もはや息をしていないローラの顔に向けて振り下ろした。    


「アイザック」

「おう」        


 人狼は元のゴブリン男に戻っていた、肩に棍棒を乗せたまま、一歩もその場を動いていない。


「……………え?」


 ローラは震えながら自分の顔に触れ、潰れていない事を確認し、身体を見れば鎧姿のままでどこにも爪の傷は無く、もちろん喰われてもいなかった。


「いじめちゃ駄目だよ?」

「おう」 

「……幻覚? 魔術……?」

「そんな大層な物じゃない、()()()()()()()()()()()しただけだ」  


 殺気だけでローラに幻覚を見せたアイザックは、話しは終わりだとばかりに背を向けて離れて行く。


「う……ううう……」


 鎧の下で恐怖が漏れ出ていた、自分はこんなにも弱かったのかと情けなく、涙が出た。 


 涙を流すローラの側で膝を付いたウイリアムは微笑み。


「それではローラ嬢」


 涙を流しながら、顔を恐る恐る上げる。


「(それでは? 私は駄目なの? これでお別れ? 自分の全てを捧げ、働きたいと思った人と出会えたのに! こんな情けないお別れだなんてイヤ!)」


 ウイリアムはハンカチを取り出し、ローラの涙を拭き。


「僕の騎士になってください」

「はい!」


 アイザックがずっこけた。          



 十五歳になったローラはウイリアムが結成したウイリアム騎士団に入団し、そこでライバルと出会った。


「あんたがローラかい? 噂は色々と聞いているよ」


 宿舎へ戻る途中の廊下で声をかけられた。

 振り返ると赤毛で褐色肌の女がローラを睨んでいる。

 何処かで会った気もするがローラも睨み返す。


「どなた?」  

「俺かい? 俺の名はフレイヤ。まあ、いいとこのお嬢ちゃんが南方人の名前なんて覚える気なんて無いんだろ? 女ばかりで変な騎士団だが少しは出来る奴が居ると聞いてあい……さつ……お?」


 ローラは目を輝かせフレイヤを見ている。


「……フレイヤ? 武闘大会四年連続優勝者のフレイヤ? 鉄仮面のフレイヤ? 紅い瞳のフレイヤ様!? 嘘! 凄い! 私、貴女に憧れて! ファンなんです! 騎士団に入って良かった! 好きです! お姉様と呼ばせて下さい!!!」


 大はしゃぎするローラに押され、さらに好きと呼ばれたフレイヤは、偽りの自分をぽろりと落としてしまった。


「だ、だ、駄目〜! ダメダメダメ〜! 駄目です〜! 貴族の御令嬢にそんな風に呼ばれたら、わたくし店長に怒られちゃいます〜! 普通に名前を呼んで下さい〜!」

「ここにはその店長なんて居ませんお姉様!」

「お止めになって下さいませ! 私は体が丈夫なだけのウエイトレスなんです〜!」


 逃げ出した。


「お姉様〜!」


 追っかけた。 


 騎士団に入団し、友達ができた。


 ーーーーーー


 おまけ番外。


「ウイリアム、この街に本当に謎の女剣闘士、フレイヤが居るのか?」

「アザリー嬢の占いではこの街に居ると出たんだけどね」

「あの魔術師の占いか……」

「アイザックてアザリー嬢が苦手だよね」

「違う、理を崩す魔術師が苦手なんだ」

「じゃあ彼女も騎士団に誘おうかな」

「……止めてくれ」

「ハハハ。でも魔法が使える部隊は必要だよ? おや?」

「ウイリアム!」


 ドカン! グルルルルルル! バン! ドカ! ゴロゴロゴロ…………


 突然壁を突き破り、何かが跳ねながら遠くに転がっていく。


「なんだい?」

「人だ、何故壁から……?」


 ――ザン!


 人型の大穴が空いた壁から、女給姿の南方人の女が現れた。


「お"ぎゃぐざま"ぁ〜おさわりは禁止でございます〜」


 フシュルルルル。


 とてつもない闘気を纏うウエイトレス。

 

「……ほお中々良い気だ」


 あのアイザックが感心する声を上げたのを、ウイリアムは初めて聞いた。


「フレイヤ〜!!! あれ程客を殴り飛ばすなと言っただろ!」

「きゃあん! でもでも店長! 殴ってません! 叩いただけです〜!」

「お前の平手打ちは死人でるわぁぁぁ!!!」 

「ああん! ごめんなさ〜い!」


「フレイヤ?」 

「本当にいたな」


 ウイリアムとアイザックは、後の騎士団一式隊隊長になるフレイヤに会うために、レストランの壁に空いた穴から店に入って行った。

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