開戦「北砦の戦い」
登場人物紹介
蟲騎士
〈勇者殺し〉の名を持つ全長20mの人型モンスター。虫タイプ。勇者と英雄の役割を持つ人間が苦手。性格は真面目で争いや戦闘からは避けようとする。同化したナナジを争いから遠ざけ守る為に人間達と暮らす事を選ぶのだが……
ナナジ
蟲騎士と同化しその額に上半身だけの女性の姿で生えている。性格は残虐で争いと戦闘を好む。人間だった頃の記憶が無くこの世界の言葉は理解できるが話せないので蟲騎士が彼女の言葉を翻訳して会話する。
シズカ……前鹿郡領主の次女。赤竜乙女のあだ名がある男女問わずの色欲魔。暗闇が苦手で人と触れて無いと夜眠れない。
ノスケ……鹿郡領北砦の砦将、元冒険者のサムライ。
鹿郡戦記録によれば、小魔王シズカは北砦に向かう前に、親衛隊の将に問うたと記されている。
その姿は男が見れは震え立つほど美しく妖艶な小魔王シズカが将に問う。
「北砦はもつか?」
将は答えた。
「北砦には侍がおります。容易い事でしょう」
ーーーーーー
「北砦はほんっっっとに大丈夫なんでしょね!?」
鹿郡領軍の陣地でシズカがバナンを問い詰めていた。
周りで休む兵達は二の姫がやって来たので慌てて立ち上がろうとするがヨーコが、お構いなくとその太陽のような微笑みを向ける。
バナンと一緒に居たハチとクルトの二人はシズカを見ると。
「あ、三番機を見なきゃならん!」
「野菜に塩を付けて食べねばならない」
そう言ってバナンを見捨てるように駆け足で走り去った。
「うっ!」
バナンは近くに寄ってきてたシズカの、男の部分がゾクリとするような甘い香りと赤い唇に、慌てて顔を反らした。
「ええと……はい、多分……」
「多分!?」
押されるバナンが下がるとシズカはさらに前に出る。
バナンがその気になれば、いやシズカがその気になれば彼の唇を奪う距離まで顔が寄るが。
「シズカ様、近いです」
「え? あら?」
ジト目のヨーコに言われてシズカが離れると、バナンはハ〜! と息をついてから答えた。
「あ〜北砦にはサムライがいるそうですから大丈夫でしょう。彼らには俺の師も苦労しましたから」
ーーーーーー
北砦を包囲する牛郡領軍の中で、動きの無い砦を見つめ続けるクリフに、顔色が青白い騎士が兵に馬を引かれながら近づいて来た。
「叔父上お待たせしました」
クリフは何も言わず振り返り、三兄弟の死んだ兄に似たその顔を見ただけで頷いた。
代わりに先鋒隊将が青白い青年を心配するように話しかけた。
「ご領主様、大丈夫ですか?」
「はい、少し疲れが出たようです……ウイリアム兄さんのようにもっと鍛えれば良かったですね。フフフ」
笑う青白い顔の青年の名をロジャーと呼ぶ。ドラゴンの襲来で戦死した前牛郡領主の次男である。
領主の後継者は武勇と人望、そしてその美貌で領民からも人気があった長男のウイリアムと決まっていたので領都から離れた土地の屋敷に住んでいたのが幸いし、ドラゴンの被害を免れた唯一の男子であり。
シズカの最初の夫であった。
ヴォルケが画策した、ウイリアムと色狂いと聞くシズカとの政略結婚を嫌がった前牛郡領主とクリフ、そして多くの女性武文官達の猛反対により、次男と次女との結婚という事にして渋々だがヴォルケも承諾し、ロジャーとシズカは結婚した。
だがこの結婚は全く上手くいかず、すぐに別れる事になった。
二人の仲は目を覆いたくなる程悪く。ロジャーはシズカに受けた怪我で寝込み、シズカはロジャーの命令で日の光も入らない屋敷の地下で、何ヶ月も幽閉され衰弱した状態で発見された。
不仲の原因は双方話さず、未だ不明であるが、ロジャーの酷い趣味が原因だろうと彼を知る者は噂しあった。
クリフはシズカは未だ暗闇に怯えて暮らしていると聞き同情する。
もしもあの時、ウイリアムとの結婚を反対しなければ、今このような危険な賭と苦労をしなくても済んだのでは無いか。
だがこの賭は自分の野心の為だ、この賭に勝てば牛郡領は自分の物になる……
「……良し、では参るぞ、全軍に隊列を整え、けして動かず、挑発もせぬよう徹底しろ」
「はっ! ……ご武運を」
クリフとロジャーは己の将旗を持ち、軍勢を待たせて二人だけで砦の門の手前、堀に架かる橋まで馬を進めて止まる。
そこでクリフは大きく息を吸った。
「砦の兵に申し渡す!」
北砦にクリフの声が響いた。
「こちらにおわすお方は現牛郡領領主、南部牛郡侯、ロジャー辺境伯その人であらせられる! これよりロジャー辺境伯のお言葉を私が代わって述べる! そちらの領主によく伝えよ!」
ーーーーーー
牛郡領軍から頭目と思われる二人組が砦の前にまで出て来て何か騒いでいる。
学が余り無い兵士達だが「牛郡領が受けた攻撃は鹿郡領のドラゴンだ」「被害の弁償しろ」「犯人のシズカ姫を差し出せ」「元々牛郡領の物だった北砦を返せ」などと言ってる事は概ね理解出来た。
兵士達は前文よりも自分達の砦を返せと言われた事に強く反応した。
「砦を開け渡せだあ? おい、どおすんだ! 射つのか!?」
「待て待て! 何か使者ぽいぞ?」
「使者つうかさっき牛郡領主様って言わんかったか?」
「射つのか射たないのかどっちなんだ!」
「射つな! ノスケ砦将を呼ぶッス!」
北砦の兵士達は、どうして良いのか分からず奥に無理やり皆で担いで引っ込ませたノスケ砦将に指示を仰いだ。
彼は部下からうけた扱いに全く気にする様子が無く、城壁に戻る途中で状況を聞かされたノスケはホオと感心した声を上げた。
「抗議でござるな」
「抗議? え? つまり文句を言いに来たってことスか? 戦じゃなく?」
「うむ、いくら鹿郡と牛郡が不仲とはいえ女王に反乱とみなされるような戦などそうわ出来ぬでござる。だが抗議文を送るのでは無く堂々と乗り込み、一戦する覚悟を持っての口状、牛郡領主ロジャー卿、我が故郷を思い出すモノノフであっぱれでござる!」
「はぁ、そうなんスか」
文句を言いたいのは包囲されたこっちなんだが……
ちなみにとノスケが指を一本立てた。
「もし某の故郷、ガマクーラ武士団だったら城や砦を包囲した後は辺りの村々を襲い、畑は燃やし、家畜は腐らせて糞尿と共に城へ投げ込むでござる」
副官はいやーな顔。
「御大将の故郷て、蛮族じゃないんスよね???……でもこれで分かったス」
要するにこの騒動、抗議の為に鹿郡領内の中を恐れず、略奪もせず、堂々と行軍して来た事により、急遽代理で領主の座を引き継いだロジャーに箔を、ざっくり言って南部に向けたカッコ付けの為の行進だったのだ。
男社会の南部で、常に魔物と戦うような土地では恐れず突き進む度胸がある領主は評価される。
大森林からの魔物から守りを固め、様々な改革と開発で領地を豊かにしたヴォルケ前鹿郡領主よりも。大森林の魔物と戦い、切り開いて領地を広げ、失敗が多くても挫けず、戦い続けて戦死した前牛郡領主の方が南部では評価が高い。
大変迷惑な騒動だが、鹿郡側がグッと堪えて我慢すれば全て済む話しだった。
「まあ戦にならずこのまま帰って貰えるならそれが良いスね」
「されど困った。某はロジャー卿の事を何も知らぬ、口状を受け取ったら何か言葉を返すのが礼儀、お主は知らぬか?」
「礼儀なんスか? そうスねぇ……ロジャー卿は公の場に余り姿を見せなかったと聞きますし……う〜ん。あ、冒険者をしてる友達に聞いたあのロジャー卿と結婚してすぐ離婚したシズカ様との夫婦喧嘩の噂話しなら知ってるス」
「ほう、どのような?」
「噂スよ?」
副官は友人に聞いたその噂をノスケに話した。
ーーーーーー
口状を終えクリフとロジャーは馬を返した。
クリフはフー! と息をはく。緊張で汗が止まらない、ロジャーの方はまるで仮面を付けたかのような変わらぬ表情だった。
「叔父上、お疲れ様です」
「ロジャー、失礼、閣下、鹿郡領軍が迫ってる様子です。油断なく、急ぎ帰還しましょう」
「そうですね、昔の妻に会えないのは残念ですが仕方がないですね……フフフ」
「……?」
ロジャーの含み笑いにクリフは不審に思う。
出陣するまでの数日、ロジャーは妙に上機嫌で、行軍中にも何度か思い出すように笑う時があった。
「(何だ? この小僧、私の知らぬ所で何か企んでいるのか?)」
隊列に戻ると向かえた先鋒隊将が砦を見て気づいた。
「クリフ様、あのサムライです」
「なに? また何かする気か?」
砦を振り変える、兵士達もサムライが姿を見せたので、また愉快な事をするのでは無いかと注目していた。
注目されるサムライが声を上げた。
「ロジャー卿の口状、確かにレオン様にお伝えする! しかしロジャー卿直々とは恐れ入申した! 所でシズカ姫にうけたお怪我は治りましたか?」
怪我と聞いてロジャーの笑みを浮かべる仮面はピクリと変化を見せた。
クリフは安い挑発だ、堪えろと甥に願う。
「シズカ様に何か噛み切られたとお聞きしました! 全快したようで結構結構!」
――シズカ様が噛み切った? 何をでござる?
――えっ! そ、それは、その……な、な、……いや! そう噂を聞いただけス!
「殺せ〜!!!」
突然微笑みの仮面を投げ捨てて、怒りの表情に変貌したロジャーが叫んだ。
「あのサムライを殺せ! 私の前に奴の首を持ってこい! 奴ら、砦に居る全員を殺せー!」
「ロ、ロジャー! ならん! それはならんぞ! 撤退だ! 全軍牛郡領に帰還する! 帰還だ!」
「叔父上は邪魔しないで下さい! 私が領主です! 私の軍です! 何をしてる! 砦を攻撃しろ! 全軍突撃! 命令だ! 殺せー!」
二つの命令に混乱する牛郡領軍の中で、全軍突撃と聞いて真っ先に動く者達がいた。
「ウイリアム騎士団三式隊! 私に続け〜! 突撃ー!」
「ローラ!? 止めよ! ローラ!」
先鋒隊将の、父親の止める声を聞かず、ローラと呼ばれた女騎士は配下の女騎兵隊の先頭になって駆け出した。
牛郡領主が怒りに我を忘れて攻撃命令を連発している。
逆上したということはあの噂は本当に……
シズカ姫のあだ名は赤竜乙女。
竜乙女は夫の愛が偽りと分かると、その夫を食い殺す。
北砦の兵士全員が股間を押さえ、脳裏に唇を血で真っ赤にして、照れたシズカの姿が浮かんで震えた。
「テヘペロ♪」
(いや全然可愛く無い!)(やだー何その怖い夫婦喧嘩)(勘弁して欲しい)(そんな嫁は嫌すぎる)(そら再婚できんわ)(俺も噛まれたい)(え?)(え?)(この中に変態が居る)
牛郡領軍から一隊が砦に迫る。その部隊が手に持つ武器は弓、弓騎兵隊のようだ。
「一部隊来るス!」
ノスケ砦将は首をひねっていた。
「???? あれ? 何で? あ! 掛かって来るでござるか! 来いやー!」
叫んで自分の弓を手に持った。
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北砦から西にある丘の上で、ナナジは噛みつき、そして食い千切た。
「モグモグ。ん! んー! 美味しい! あれ? ええ!?」
渡されたお弁当のヤキソーバパンの妙な懐かしさと美味しさに喜び、興奮して食べていたナナジは、蟲騎士の目で見えた光景に驚いた。
「何? え? 何か突然始まった!? ごめん話し聞いて無かった! あの侍は何て言ったの?」
『すまない私も聞いてなかった』
「どうした?」
ガイと交代し、とぐろを巻くナナジの側に居た、黒装束姿のヤマが声をかけた。
「エ、エ〜ト」
『始まったようだ』
「そうか」
ヤマは古代の勇者が作ったとされるライフル銃のマガジンを外し、中にある弾を確認し戻してガチャリとレバーを引いた。
ーーーーーー
鹿郡戦記録によれば、牛郡領の新領主ロジャーは3000の手勢を率いて北砦を包囲すると、砦を守る兵200に呼びかけた。
「降伏し、砦を開け渡せば命は保証する」
北砦将の侍はこれを拒否。
「男が城欲しくば力尽くで参られよ。それともロジャー卿にはナニが無いのか?」
この挑発にロジャーは激怒し砦の攻撃を命じた。
こうして「北砦の戦い」の火蓋が切られた。
ちなみにノスケ君の副官は、背の高い事を気にしてるオフはぼくっ娘短髪女の子です(ゝω・)☆
上司のノスケとガイも女性と気付いてませんw




