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牛郡領軍

登場人物紹介


バナン……元東方軍の騎士。帝国東要塞の生き残り。鹿郡領の中で岩の砦騎士団を作り隊将に任命される。


クルト……元千の軍所属の機械甲冑乗り。帝国東要塞の生き残り。鹿郡領の機械甲冑隊に入隊する。七番機に搭乗。


ハチ……元東方軍の機械甲冑乗り。帝国東要塞の生き残り。鹿郡領の機械甲冑隊に入隊する。八番機に搭乗。


アベル……シズカの小姓として雇った少年。シズカの騎士になる事を目指してバナンに弟子入りした。

 北砦の周りでは三千人の笑い声が上がっていた。

 

「ハハハハハ!」

「何だあの将は!」

「我こそは〜アホ将なり〜」

「あ〜ははははは!」 

  

「危なかった……」


 北砦の将を馬鹿にし、笑う牛郡領軍三千の将兵の中で、一人の将だけが冷えた汗を流していた。

 馬上で汗を拭く騎士の隣にいた、同じく馬上の女騎士が笑いながら騎士に話しかける。 


「見ましたか父上! 敵将の滑稽なざまを!」

「馬鹿者! 今のが我が軍にどれ程危険だったのか気づかないのか!」

「な、何が?」 

 

 別の女騎士が近付いてきた。


「あんな将が守る砦など容易く落せます! 突撃しましょう!」

「そうです父上! このローラに、我らウイリアム騎士団にご命令を!」  

「な、ならん! 攻撃はならんぞ!」

「何故です父上!」

「我らにご命令を!」

「ならんものはならん!」

「クッ!」

「こんな砦など私達が掛れば容易く落とせるのに!」

       

 牛郡領軍先鋒隊将は頭を抱えたくなった。

 

「砦の攻略に騎兵で、歩兵の居ないたった百騎の女だけの騎兵で何ができるのだ! この馬鹿者が!」

「うっ……」


 この娘達はこの鹿郡領侵攻の意味を全く理解していない。


「先鋒のお役目ご苦労」


 後方から声をかけられ先鋒隊将は娘達に持ち場で待機せよと指示し馬を返して声をかけた騎士と並んだ。


「クリフ卿もご苦労であります。ご領主様は?」


 クリフ卿と呼ばれた騎士は首を横に振った。

  

「卿はよせ、家督は残した息子にくれてやった。ご領主様は今ご休憩されておられる。ここまで来るのにお疲れになったようだ」

「急いで頂けねば……クリフ様、右手に見える丘の()()をご覧下さい」

「来るまでに見えておる。()()は報せの狼煙では無いな」

「炊煙かと……」


 二人が見る丘の向こうに、いくつもの白い煙が上がっているのが見えた。頭に入れてある地図には、あの丘といくつか丘を越えた先に大きな村があった筈だ。

 村人達の昼仕度にしてはもう時間が遅い、村人でないなら食事をして居るのは……

  

「いくつか班に分けて食事させても三百はおるか?」

「昼からもう長く煙が上がっております。倍は居るでしょう」

「六百……情報よりも二百も多いではないか、民兵を出して来たか?」

「偵察と思われる人影が報告されております。こちらの潜入させた影からの情報は届いて無いのですか?」

「もうしばらく無い。恐らく鹿郡の影に喰われたようだ、あれ程の手練達が全て」 

「何と……」


 牛郡領軍は今、目隠しされたのと変わらぬ状態であった。あの丘の向こうがどうなっているのかも分からない。 

 先鋒隊将は先鋒軍から偵察隊と別働隊も出して居ない。

 出した兵が暴走し、鹿郡領の村への襲撃と略奪を押さえるためで全ての兵をここに一纏めにして見張っていなければならなかった。

 牛郡領軍には軍規を守り、信用できる将兵が先鋒隊将の娘を含めて殆どいなかった。傭兵と、町や村守備隊の寄せ集め、自分達が居なければ野盗の集団と変わらない。

 こんな軍でも上手く指揮できる優れた野戦専門家の指揮官が一人居たのだがその者はこの行軍の反対派に属し、参戦は望めなかった。

  

「……鹿郡領にはあのヘンリーがおります。あの老将なら六百でも三千の数など気にせず突っ込んで来ますぞ」

「急がなくてはならん。それに先程から嫌な気配を感じるのだ」

「嫌な気配?」

「今もずっと見られているような……いや、すまぬ気にするな。ご領主様をここにお招きしろ!」

「はっ!」 


 クリフは先鋒隊将に詫て兵に命じた。

 

 兵に命じた後、クリフと先鋒隊将は北砦に目を向ける。城壁の上には先程名乗りを上げた砦将の武者姿はもう見えない。


「何の為に鹿郡領の兵が少ない時期を調べに調べて慎重に行軍して来たのに……それをかかってこいとは何と豪胆な将だ」

「あのままでしたら我々は怖気づいて撤退するような様になる所でしたな」

「まだこちらに運がある。双方の軍に損害が無い内に引き上げねば……」


 牛郡領軍三千の将兵の中で、二人の将だけが冷えた汗を流していた。


 ーーーーーー


 牛郡領の鹿郡領への突然の侵攻は、各地に混乱を起こしていた。


 鹿郡のように牛郡領と接する羊郡と竜郡の領主は、領境にある全ての関所を閉鎖、砦の兵士達は守りを固め牛郡領への警戒を強めていた。


 竜郡領の関所では、門を閉じられた為に内や外からの人と馬車の流れが全て止められ、中にはベアトリス女王が、ドラゴンの攻撃で被害を受けた牛郡領民の為に運ばせていた、支援物資の一部を載せた輸送団も止められていた。

 輸送団を護衛していた中央領の護衛団長は、関所の責任者に詰め寄った。  


「これは何事だ! 何故通れぬのだ!」

「誰だあんたら?」

「見て分からぬか! 我々は女王陛下の命を受け、はるばる――」

「ああ、中央さんかい。こんな所までご苦労さんだね」


 竜郡領の隊長はあっさりしていた。


「そ、そうだ! 分かったら門を開けよ!」

「今は無理だよ。開けるなって領主様からの命令だからよ」

「何故だ! 我々は女王陛下の命を受け――」

「この先の牛さんが南の鹿さんに攻め込んで戦争やってんだよ。中央さんは知らねえのかい?」

「――な!?」


 団長は固まり、動かなくなる。

 関所の外を見張いる二人の兵士が近付いて来た。


「隊長〜行商人が中に入れてくれって言ってま〜す」

「誰も通すなとの命だ。すまんが帰ってもらえ」

「それがベルさん家の息子さんでして、行商から帰ってきた所だって」

「何? あの大通りの? あ〜……この場合どうすんだ? おい! お前は領主様に聞いてこい! すまんがそれまで外で待って貰え!」


 隊長は指示を出した後、まだ固まって動かない護衛団長に向き直った。


「中央さん、どうせ知らねえと思うから教えとくが、あんたらより先にここ通った輸送団だがな。牛さんの連中に捕まって荷を全部持ってかれたぞ。護衛団は生きてるか死んでるかも分からん。じゃあな」


 隊長はそう言って忙しそうに去っていた。


「団長、我々はどうすれば……」 


 竜郡の隊長が去ってからも動かない団長に彼の部下が声かけたが。


「あ、駄目だこりゃ。引き返すぞ〜!」


 白目で意識の無い団長の変わりに、その部下が命令し、急ぎ女王に知らせを走らせた。

 その知らせは数日かけて、海がある虎郡領の港から西部の港へ、そこから中央まで何頭もの馬を乗り継ぎ、首都には深夜に届き、寝室のベアトリス女王は飛び起きる事になる。


 ーーーーーー


 鹿郡領軍の陣地の中でアベルは師に質問した。


「領内の為に余所の土地を行軍するってそんな事あるんですか?」

「あるよ。歴史書や戦記録を見ると割とよくある。うちの国にもあったよ東海に面した一領主が領民の人気取りの為にニホン領の領海に軍艦を入れておちょくったり嫌がらせしたり」

「あるんだ……」

「村で行進訓練してる時、揃って行進した皆を見てどう思った?」

「格好良かったです」

「でしょ? 兵隊が行進するのって格好いいんだよ、観てると元気になる。じゃあもっと元気になる為に嫌いな奴の土地の中を行進しましょうね〜と」

「……迷惑ですね」

「そうだね。これが原因で大戦争になったりするから相手が、鹿郡領が怒って向かって来る前に、パッと入ってパッと帰らないといけない、だから陣地なんて作ってる暇なんて無いのさ」

「だから釘が必要無い」

「正解! おっと長話しちゃったね。さあお仕事!」

「あ、はい! お師匠ありがとうございました!」


 走って行く素直な弟子をバナンは見送ってすぐ。


 ガシッ!


「え"!?」


 両側から腕を組まれて捕まった。


「あ、ハチさんにクルトさん」

「ようバナン……お前が口だして籠城する所を出陣する事になったな」

「は、ははは……ハチさん怒ってらっしゃる?」

「お前のせいで出なくて良い戦になると聞いたぞ」

「ク、クルトさんもやだな〜そんな怒ってる声」


 流石に自分が恩知らずでも、帝国の東要塞で共に戦い、何度も命を救ってくれたこの機械甲冑乗りの二人には頭が上がらない。


「余所者のお前がこの地の命運を決めてどうする気だ」

「クルトの言う通りだ。敵が引き返すなら籠城でも良かったじゃねえか」


 お前が言うな! と思うが口には出さずハチは同意する。


「え〜だって〜」


 バナンは子供のように口を尖らせム〜とした顔で少し間を開け。


「籠城とかつまんない、更に戦力分散とか糞、舐められたままとかこの土地の為に良くない」


 悪気も無くはっきりと言った。 


「つまらんて……もし戦闘になったら勝てる訳ないだろ」


 ハチは小声になった、周りに居る味方に聞かれるのは士気にかかわるからだ。バナンはニンマリと笑う。


「やだなぁ〜ハチさんは負ける気なんですか?」

「ああん!? 俺様が負ける訳が! あ、ンン……だが一千対三千だぞ? それに千の内半分は急ぎかき集めた民兵と傭兵、残りの半分の兵隊は戦素人。これで勝てるのか?」

「勝ちますよ?」

「な、なに!?」

「あの魔物か」


 クルトがバナンを咎めるように目を細めて言う。あの魔物で蹂躙する気なのかと。      


「そう! でも決着は人間同士でやらなきゃ」


 クルトは細めた目を更に細めている。


「でもなぁ〜向こうの手違いで北砦に掛ってくんないと始まらないしなぁ〜そして俺に全軍の指揮とらしてくんないかなぁ〜あの領主、人が良さそうだし譲ってくんないかなぁ〜……ん? 戻ってきたかな?」


 驚く二人から腕を抜き、今も敵襲を報せる狼煙が上がる北砦の方角を見るバナンの目に、丘から偵察に出ていた二騎の軽装騎兵が急いでる様子で陣地に帰ってくるのが見えた。

  

 ーーーーーー   

主人公て誰だっけ?…✍_(:3」∠)_

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