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軍議

登場人物紹介


蟲騎士

〈勇者殺し〉の名を持つ全長20mの人型モンスター。虫タイプ。勇者と英雄の役割を持つ人間が苦手。性格は真面目で争いや戦闘からは避けようとする。同化したナナジを争いから遠ざけ守る為に人間達と暮らす事を選ぶのだが……


ナナジ

蟲騎士と同化しその額に上半身だけの女性の姿で生えている。性格は残虐で争いと戦闘を好む。人間だった頃の記憶が無くこの世界の言葉は理解できるが話せないので蟲騎士が彼女の言葉を翻訳して会話する。


バナン……元東方軍の騎士。帝国東要塞の生き残り。鹿郡領の中で岩の砦騎士団を作り隊将に任命される。


 北砦で起きた騒動を丘の森に隠れながら見て聞いていた蟲騎士は、先程から思っていた違和感を、絵を描き終えて疲れたのか頭の上で、う〜ん! と手を組んで伸ばすナナジの口を使ってつぶやいた。


『おかしい』

「うん? あ〜あの侍はおかしいね」  

『いや違う』

「え?」   

『奴ら、牛郡の方だ』

「はあ? どこがおかしいの?」

『砦や城を攻めるなら必要な物が奴らの中に無い』

「必要な物って?」

『攻城兵器だ』

「あー……」


 暴れるのは好きだが戦争は素人なナナジの目に、蟲は記憶にある人間達の兵器を映して行った。

 大岩を飛ばす投石機や火薬で砲弾を発射する大砲。

 城門を突き破る為の破城槌や機械甲冑が叩きつける大槌。

 城壁よりも高く、兵を隠し乗せながら機械甲冑が押して移動する攻城櫓などなど。


 ナナジは見せてもらった物と似たような兵器を牛郡領軍の中に探すが、彼らには城壁を登る為の梯子すらなく、ここから見える十機の機械甲冑は、輸送馬車に乗せたままで近くには大槌の様な物は見えなかった。 


「……本当だ。でも作れる物ならこれから作るんじゃない?」  

『時間がかかるし材料にする木材も見当たらない、ここらの木を伐採し、集めてもいない』

「……砦を餌にして鹿郡本隊を誘い込んでるとか?」

『だとしたら偵察も出さず、待ち受ける陣地と食事の為の火も無いのはおかしい』       


 牛郡領軍は北砦を包囲してはいる。

 だが鹿郡砦将の真似をしたりして、ふざけ合う兵士達に緊張感がまるで無い。


 蟲騎士は鹿郡領の中で、最も人間達を相手に戦い、実戦経験が豊富すぎる魔物が牛郡領軍の行動が理解できなかった。


『奴らの目的はなん――』

「――ふぅわぁ〜」


 考え込む蟲騎士の声は、どうでも良くなってきたナナジの大きなあくびで言葉を発せなかった。


「――っんん。……も〜砦のここまで来るのが目的だったんじゃないの?」

『そんな訳ないだろう』


 蟲騎士は丘から顔を少し出して観察を続けた。


 ーーーーーー   


 鹿郡領軍先鋒は北砦に近く、最も大きい村に到着しここを前線拠点とした。


 北砦はまだ北へ、いくつかの丘を越えなければならないが、砦が上げている敵襲を報せる狼煙が見える。

 砦は無事なようでヘンリー老は安堵した。


 村にも狼煙台から煙が上がっているが、これは領都へ報せる中継と周辺の村々へ報せる為の物で、この狼煙を見た村々はそれぞれ村にある魔物に対する備えで守りを固め、領都から北砦まで繋がる道の使用は禁止される。

 領道の使用禁止は、先の森林砦への大襲撃のように軍が速やかに通れるようにする為だが、中には法を守らず、いくつかの村家族が荷台や馬車に家財を乗せて避難の為に道を南下し、北上する先鋒隊の村に繋がる道を塞いだ。


「チッ! またか! 捕らえろ!」  


 先鋒の将、ヘンリー老はそのつど止まる行軍に舌打ちする。


 法を破った家族は捕らえられ、しょんぼりとしながら先鋒隊と共に来た道を引き返す。

 そんな小さなトラブルはいくつかあったが、先鋒隊は村に到着した。

 村に付くと家族を解放し、菓子を持たせた子供に手を振っていたヘンリー老は表情を引き締め、先鋒隊は本隊の到着を待つ間も休む事無く偵察隊を放ち、村を囲む本来は魔物から村を守る為の防柵の整備と、一千の兵が寝泊まりする陣地と天幕、薪や炭を下ろし食事を作る為のかまどの設置を急がせる。

 完成まで村にある宿を一時拠点として借り、そこで村を守る守備隊の兵から、ここや近隣の村に牛郡領軍の襲撃や略奪が無かった事を聞かされ、首をかしげた。


 襲撃が無いという事は、敵は砦を包囲するだけで偵察隊や別働隊を放っていない? 侵略する気が無いのか?


「奴らの目的がわからん……」


 ヘンリーは鹿郡領軍の中でも最年長で、数少ない実戦経験のある老将が、牛郡領軍の行動が理解でき無かった。……だが。


「本当にあのバナンとかいう若造が言った通り……いや、まさか……」


 ヘンリー老は数時間前の軍議を思い出していた。


 ーーーーーー


 軍議はまず、二ヶ月前のドラゴンと思われる魔物による襲撃で大きな被害を受けた牛郡領に、他の西方南部領九郡、八人の領主達は救援の為に動いていた事から話しは始まった。

 大森林の魔物を防ぐ門番が倒れては困ると本音は隠し、被害を受けた牛郡領民の為にと金、食料、回復薬、救援物資の輸送を始めた。

 牛郡領に最も遠い騎郡領を出発する輸送隊には、間にある領地の関所を速やかに通れる特別な手形が発行され。

 牛郡領の西隣、竜郡領の領主は自領内の冒険者ギルドに働きかけ特別クエストを発行させた。

 このクエストを受けて牛郡領で救援活動を行えば高額の金が貰えると聞いて周辺領で活動していた多くの冒険者達は竜郡に移って牛郡に向かい、中には元々牛郡で活動していた冒険者がわざわざ竜郡でクエストを受けにやって来て牛郡に戻る者まで現れた。


 そして、牛郡領の南隣に位置する鹿郡領、レオン領主も救援の為に動いていた。

 レオンは領内に備蓄している食料や鹿郡製の回復薬を牛郡領に輸送を命じた。

 品質が良く、価値も高い薬なので少しづつだったが、輸送に関わった者によると、初めは領境の関所にいた牛郡領の兵は涙を流して喜び、感謝されたという。

 だがその態度が変わったのは一ヶ月前、関所の門が閉じられ、輸送隊は開門頼むと矢を撃たれたと聞いてい森林砦から来た長達はざわついた。


「何と、では恩を仇で返されたのですか!?」

「何それ許せない!」


 森林砦弓隊の隊長と、軍議に入る事を許された二人の女性の内の一人、機械甲冑隊の隊長エリスが唸る。

 領都の長、数人が何故かレオン領主の側にいる勇者神官のテオドールとエリスを交互に見て気にしている。


「(何だあ? この二人は何かあるのか?)」


 エリスの副官としてついて来たハチは疑問に思うが軍議は進む。


 鹿郡の戦略は当初、領都に籠城し虎郡領からの援軍を待つ戦略だった。

 そして何とか掻き集めた一千の兵を、領都の守りと北砦の救出にどう分けるかと話しが進んていた時、軍議中一人の少年が室内に入り森林砦隊の臨時隊将バナンに一枚の用紙を渡し、バナンは用紙に目を流すと手を上げた。


「あの〜よろしいでしょうか?」

「何でしょうバナン隊将」 

「この策には反対です」


 救出軍には老将ヘンリーが志願し、彼の隊が砦の救出に行くと半ば決まりかけた時だった。 


「何だ若造! 余所者は引っ込んでろ!」


 死を覚悟していた西方人のヘンリー老は若い東方人のバナンを睨みつける。


「いや〜すいません。ですが老将が無駄死にするのを止めたくてですね」

「き、貴様!? では北砦を見捨てろと言うのか!」


 ヘンリー老は顔を真っ赤にして怒鳴るがバナンは両手を振って否定する。


「そんな訳はではありません、逆です」

「何?」

「領都の防衛は無用です。今ある全兵力で北砦の救援に向かい牛郡領軍を全力を持って叩きのめすのです」


 唖然とするヘンリー老を置いて、バナンはレオン領主に向き直り、話しを続ける。


「ご領主様、お歴々、この牛郡領の侵攻目的は鹿郡領の占領ではありません。現在の牛郡領主代理とその背後で操る者の考えは、あえて国外に敵を作り北砦まで行進して見せる自領内に向けたアピールです」


 鹿郡領内で、東方の戦場の中で育ち、魔王軍が勇者以外に、東方残党軍の中で最も恐れられた男は笑みを浮かべたまま進言した。


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