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病院ではお静かに

登場人物紹介


蟲騎士


〈勇者殺し〉の名を持つ全長20mの人型モンスター。虫タイプ。勇者と英雄の役割を持つ人間が苦手。性格は真面目で争いや戦闘からは避けようとする。同化したナナジを争いから遠ざけ守る為に人間達と暮らす事を選ぶのだが……


ナナジ


蟲騎士と同化しその額に上半身だけの女性の姿で生えている。性格は残虐で争いと戦闘を好む。人間だった頃の記憶が無くこの世界の言葉は理解できるが話せないので蟲騎士が彼女の言葉を翻訳して会話する。


エリス……鹿郡領の機械甲冑隊員。三番機に搭乗。ナナジの過去と何か関係がある様子だが……

 模擬戦に敗れたエリスは砦内にある医療棟に運ばれ治癒魔法をかけられて回復したが一日入院と診断された。


 女性という事で他の怪我などで入院する男達と同じ大部屋では無く士官用の上等な個室に放り込まれたエリスは革鎧と汗を吸った肌着を脱ぎ、失神した際に不覚にも汚してしまったので医療棟にあるお風呂で身体を洗わせてもらったが着替えが無く代わりにと渡された清潔な白いYUKATAを着てベットの上に寝転び枕元に置いてある鳴らせば看護婦が飛んでくるベルを見ながら溜息をついた。


「私が隊長だなんて……」



 その隊長任命の命令は先程見舞いだとやって来たオットー砦将の女性副官から言い渡された。


 最初はオットー砦将自身が伝えようとノックをして個室に入った。だが彼が連れた副官が個室に入るとまだ長い黒髪がしっとりと濡れ下に肌着も無く帯が緩んだYUKATA姿でオットーを向かえる為にエリスが立ち上がっているのを見た瞬間。

 副官は眼鏡を光らせオットー砦将の襟首を掴んで部屋から放り出し呆然としているエリスをベットに座らせて毛布を肩にかけてから彼女が機械甲冑隊隊長の任命を伝えた。


「すぐ着替えを届けさせますね」


 エリスの帯を前でキュッと締め最後にそう言って副官は外でいじけるオットー砦将を連れて帰って行った。


 医療棟の個室でまた一人になりベットに寝転び混乱する頭を整理する。


「負けたのに隊長てそんなのってある? きっとあいつだ。賭けの願いってこれ?……てっきり追い出されるとも思ったのに……あ〜! もう悔しいな!」


 素足をバタバタとし対戦中のクルトの操る七番機の動きを思い出す。


「凄かったなあ……」


 手も足も出なかった。最後のは一体どうやって自分の操る三番機を倒したのだろうかまるで分からない。


「私も……いつか……あんな風に……機械甲冑が動かせるように…………」     


 模擬戦の疲れからかエリスの瞼は落ち白いYUKATAに包まれるまだ控えめな曲線が上下する。       


「すー……すー……」


 医療棟の外は暗くなりつつあり眠るエリスには遠くから覗き見てニヤリと笑っている魔物の女に気が付かなかった。



「……お邪魔しま〜す」


 鍵をかけてない事を確認し高価な硝子の窓を開けて上半身は人、下半身は蛇の様な身体の化物の女。ナナジがエリスの眠る部屋にニョロリと入り込んだ。

 医療棟なので静かに眠り姫に小声で話して近づぎその寝顔を覗き込む。 


「フフフ寝てる寝てる。蟲も寝てるし今の内に。仕返しってやっぱ自分でしないとねえ♪ その可愛い寝顔を泣かしてグシャグシャにしてやる!」


 医療棟の隣には眠る蟲騎士の身体を屈ませて超擬態で周りの風景と同化させている。

 その頭部から伸びる長い身体を眠るエリスに足から巻き付けて行く。


「よいしょっと動きを封じてっと」


 身体を巻き付け自由を封じたと安心して彼女を起こす事にした。ツンツンと少女の頬をつつく。


「お嬢さん。お〜き〜て〜」     

「……? ううん……?」


 叫ぼうとしたら口を塞ぐ為に手で押さえる準備をする。


「おはよ〜♪」

「……」

「目が覚めたかな?」  

「……ふにゅう……」   

「お? お? もう泣く?」

「ママァ……」

「は?」

「ママ〜」

「え? え? 私は母親じゃ無いし子供もまだ居ない……はず……わっ!」


 動きを封じたと思っていた身体は巻き付けてるだけなのでエリスの意外とある筋力でナナジとの体勢がグルンと回って逆になった。

 暗がりの中でエリスはナナジに顔を近付ける。


 少女は酷く寝ぼけているようでまるで幼児のように話しだした。 


「パパがね。酷いの。私ね。お勉強も踊りのお稽古もね。ちゃんとしてるの。なのに凄く怒って叩くの」

「あんたのパパなんて知らん!」

「だからね。私ね。考えたの。パパをね。もう怒られないようにしたの。内緒だよ?」 

「巻き付けた腰を離して……あ! こら! 何処に顔を突っ込んでる!」


 自由になったエリスはナナジが着ている服の前合わせをずらしそこに顔を突っ込みながら呟く。


「ママ〜なんで私達を捨てたの?」

「捨てた?」

「ママァ……」

「いや、だから母親じねーし。参ったな。あ、まってそんな所……!」


 ――コンコン。


 その時個室の扉がノックされガチャリと開けられた。


「ごめんエリス。遅くなったけど副官殿に言われて荷物持ってきたか……ら!?」


 灯りのランタンを持ってエリスの入院する個室に入ったハーディは部屋の中の有様を見て凍りついた。


「魔物がエリスを!……じゃなくてエリスが魔物を?」


 エリスに馬乗りにされた同じ青い瞳を潤ませた魔物の女がハーディにその瞳を向ける。  


「タ、タスケ、アウッ……コラ!」

「はっ!? 失礼しました! エリスのコートと鞄はここに置いておきます! それでは……ごゆっくり!」

「オイマテコラ! コノコヲナントカシテ、ンッッ!」


 男は医療棟の中なので静かに言って扉をそっと閉めて帰って行った。

 ナナジは慌てて、だが医療棟の中なので静かに男を呼び戻そうとしたが男は戻らなかった。

 そもそも言葉が通じていない。


「どうしよう。ぶん殴って起こそうかな……」      

「ママ……」


 結局ナナジは再び穏やかな寝息を立て始めたエリスからようやくフラフラと離れ窓から這い出て座らせている蟲騎士の頭の上に戻った。

 しばらくして目を覚ました蟲に眠ってる間にナナジの目から見えた事について聞かれた。


『いったい何をしてたんだ?』 

「吸われたの……」

『何を?』

「何も出ないよ……」

『???』


 魔物の蟲騎士にはうつむくナナジが何を言ってるのか分からなかった。  

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