岩の砦騎士団長・上
登場人物紹介
蟲騎士
〈勇者殺し〉の名を持つ全長20mの人型モンスター。虫タイプ。勇者と英雄の役割を持つ人間が苦手。性格は真面目で争いや戦闘からは避けようとする。同化したナナジを争いから遠ざけ守る為に人間達と暮らす事を選ぶのだが……
ナナジ
蟲騎士と同化しその額に上半身だけの女性の姿で生えている。性格は残虐で争いと戦闘を好む。人間だった頃の記憶が無くこの世界の言葉は理解できるが話せないので蟲騎士が彼女の言葉を翻訳して会話する。
ハチ……元東方軍の機械甲冑乗り。帝国東要塞の生き残り。鹿郡領の機械甲冑隊に入隊する。八番機に搭乗。
ハーディ……鹿郡領の機械甲冑隊員。一番機搭乗。
ジュール……鹿郡領の機械甲冑隊員。二番機搭乗。
エリス……鹿郡領の機械甲冑隊員。三番機搭乗。ナナジの過去と何か関係がある様子だが……
バナン……元東方軍の騎士。帝国東要塞の生き残り。
オットー……鹿郡領森林砦の砦将。
森林砦の修練場の脇で三人の男女が迎え合わせで座り食事をしながら話をしていた。
「機械甲冑で跳ぶなんてそんなの出来る訳ないじゃ無い!」
「でも本当に跳んだんだよ。そして後ろから足を払って地面に叩きつけられたんだ」
「くっそ〜! そうだったのか〜!」
三人の内、食事をしながら下品な言葉を吐く乙女は機械甲冑の隊長になったエリス。
今朝退院して同じチームのメンバーのジュールに先日の模擬戦の詳細をお昼のお弁当を食べながら聞いていた。
「クルト教官は大陸一と言われる千の軍の機械乗りだよ。違って当たり前さ」
「俺達とレベルが違うよなぁ」
先程から嫌いな人参と睨み合っていたハーディが口を開いた。
エリスは視線をハーディに向けるが彼は朝から何故か目を合わせようとしないで口をモグモグしている。
「その千の軍だけど……あの魔物と戦って負けて無くなったて信じられる?」
あの魔物。
大門の修理工事を残りの細かい事は職人達に任せて終わらせて暇になり何故か機械甲冑の整備棟の隣で膝を抱えて座り込む蟲騎士を背にエリスは行儀悪くスプーンで指しながら言った。
エリスにスプーンで指された巨大な魔物はピクリと蛾の形をした顔をこちらに向けたので正面で魔物が見える男二人はギョッとした。
「エリス! 千の軍を倒したのは魔王軍の魔物だから!」
「そうそう! シズカ様の魔物とは違うから!」
「あれ? そうなの?」
二人に否定されてスプーンを下げるエリス。蟲騎士は頭の向きを戻すが先程突然動いたのでその頭の上に生える女型の魔物に一緒に頭の上で食事をしていてずり落ちかけたメイド服を着た少女を抱き寄せてペシペシと頭を叩かれていた。
ハーディはその様子とエリスを交互に見る。
「(やっぱあの事を聞くのはまずいかなぁ……)」
女型の魔物、ナナジとの関係をエリスは話さ無いので聞いても良いものかと悩んでいた。
ボッ! とランタンの灯りで照らされたあの時の様子が鮮明に頭に浮かび顔を真っ赤にしてボーっとするハーディの様子を見てエリスとジュールは首をかしげていた。
「いたいた。エリス隊長!」
「はい?」
そんな時三人に近づいてきたハチ教官がエリスを呼んだ。
「三番機の修理がさっき終わったんだ昼休憩の後で良いから試して欲しいんだが」
「今からでも出来ますけど?」
「いや急がなくて良い。調子が悪くなっても困るしな」
「三番機がですか?」
「お前がだよ。じゃあ後で頼むぞ。うん?」
ハチは整備棟へと帰ろうとしたが何かを見て止まった。
ジュールは釣られて目線を追うと修練場から見える森林砦の裏門が開けられ十数人の男達が馬を降りて岩山を削った砦の奥へと入って行って行く様子だった。
「あいつは……」
「あ〜この辺りの部隊長達ですね。あんなになんだろ? どうしました?」
「いや中に入ってったのに知ってる奴が居てな……」
ーーーーーー
森林砦の会議室で十数人の男達が集まっていた。
部屋は大きく中央には鹿郡領の地図が広げられ部屋の端にはいざという時にはその地図と書類を放り込めるように大きな暖炉があるが今は灯り以外の火はつけられていなかった。
火の無い変わりに温かい茶を出され男達は茶を飲みながら話を続けている。中には鎧を纏っている者もいれば休暇中に突然呼び出されて普段着で砦に到着した者もいた。
「今すぐかき集めてもリリーナの守備隊からは百人が限界だ。殆んどの人員が田舎の村に帰って冬越しの手伝い中だぞ」
普段着の男が絞り出すように声を上げた。先程状況を聞かされて青ざめている。
「森林砦からは弓兵五十人が出せる……奴らが裏をかいてここに来る可能性もあるならこれ以上出せん」
森林砦の半分に当たる兵数の数を、この会議にすぐに駆けつけられる兵長達に呼びかけたオットー砦将が言った。
「たったの百五十人じゃ話にならない。機械甲冑は借りれないのか?」
オットーは自分の副官に視線を向けると彼女はうなずき手を広げてオットーに見せる。
「五機出せる」
「良いのか? 六機しか無いと聞いたが?」
「先日八機に増えた。三機を守備に残して残りを出撃させる。それでも少ないのは変わらんが……調査隊を出発させたのは失敗やったな……」
「呼び戻せないか?」
「一応狼煙を上げるが向こうからは深い森の中では見えへんやろな……」
会議室は静まりかえる。
だがその時、若い男の声が上がった。
「あと三十人出せますよ〜」
発言者に視線が集まる。東方人の特長である黒髪の若い男で中央人の少年を従えていた。
「……誰だ?」
「ほら彼がニの姫様が連れて帰ってきた」
「あ〜噂に聞く岩の砦騎士団か」
話の声に東方人の男は「うん? 岩の砦?」と首をかしげ従える少年と視線を合わせる。
「うちの宿の名前ですね」
「う〜ん?……まあいっか」
東方人は向き直り再び声を上げた。
「え〜始めましての方は始めまして! 岩の砦騎士団団長のバナンと申します以後お見知りおきを!」
そう言ってバナンは笑顔で頭を下げた。
「バナン団長。君は二月前に村の若者達を集めて鍛えとると聞いとるが戦えるのか?」
「勿論、と言いたい所ですが正直きびしいですね。槍隊十五人に弓隊が十五人。騎士団と名が付いてますが騎馬隊が無い寂しい民兵集団です。綺麗に並んで行軍するだけの大会があるなら上位を狙えるんですが」
オットーは駄目じゃんと思うが今はすぐに動かせる兵が一兵でも欲しいし騎兵の育成は難しく大変だとここに居る全員が良く知っていた。
「騎兵か……あ」
身体が大きく目の細い一人の隊長が声を上げた。
「炭番に趣味で部下達を騎兵に鍛えてる奴が居たな」
「趣味で?」
「ああちょっと変わった奴でな」
「へ〜面白そうですね」
「そいつは何処にいる? すぐに呼べるか?」
「どこも何も炭と薪を運び終わって二十人の部下達と今リリーナの街で風呂入ってます」
「すぐにここに呼べ」
「はっ!」
オットーの命令で細目の隊長は会議室から出て行った。
別の隊長が声を上げる。
「これで二百……だが本当に奴ら攻めてくるのか?」
「来る」「来ます」
オットーとバナンが同時に声を出した。
バナンは先にどうぞどうぞと譲る。オットーはオッホンと咳をして話だした。
「今朝領都から届いた知らせでは春に奴らは攻めてくると情報があったそうや」
「なら春までに――」
「だが!」
そこで止めてオットーは続きをバナンに譲る。
「うちのスポンサーの情報網によりますと冬になる前に攻めて来ると情報がありました。敵は冬近くになれば常備軍の無い鹿郡の各街の兵が田舎帰って居なくなる事を良く調べてますよ」
バナンは取り出した封の開けられた手紙を手に持って言った。
「総兵力三千。その出陣式の予定の日付は……今日です」
「奴らは今まさにこちらに兵を向けて進軍中かもしれん。これはレオン領主から一応領都に兵を送れとの命令書だが……」
「こちらの手紙はうちの主君、シズカ様は騎士団をまとめて全員さっさと来なさい! ……との命令書です」
「……承知した。間に合わないかもしれんが休暇を取り消して急ぎ兵を集めます……先発の二百は誰が指揮する?」
「(さて、ここでアピールして指揮に口出せるポジションにつかないとな)」
バナンは緊張し唇を舐める。
「それはもう決まっとるバナン団長に全て任せる」
「うむ!」
「異議なし」
「然り」
カクンとバナンの身体が傾いた。
「どうした?」
「いや〜あの〜こんな大事な事は普通もめません?」
「今はそんな事やっとる時間はない。それにだ」
「それに?」
「俺達は人間相手の戦争経験が無い。バナン団長は東方であるのだろ?」
「あ〜……まあ、嫌ほど。はい」
「だからな。バナン団長。俺達の代わりに……」
オットー砦将の手に持つ湯呑みにギリリリと力が入る。本当は自分が行きたいのだろうとバナンは思った。
「俺達の代わりに攻めてくる牛郡領のアホ連中を叩きのめして来てくれ!」
ーーーーーー




