番外 近くて遠いお隣さん
登場人物紹介
蟲騎士……〈勇者殺し〉の名を持つ全長20mの人型モンスター。虫タイプ。勇者と英雄の役割を持つ人間が苦手。
ナナジ……蟲騎士と同化しその額に女性の姿で生えている。性格が残虐で争いと戦闘を好む。
シズカ……前鹿郡領主の次女。赤竜乙女のあだ名がある男女問わずの色欲魔。
アーダム……シズカの配下。帝国から連れてきたシズカの愛人。
ブラッツ……シズカの配下、元帝国近衛兵。シズカの愛人。
ヨーコ……シズカの使用人。シズカの武術の師であり恋人。
牛群領という領地は鹿郡領の北にあり鹿郡よりも土地が大きく広い領地。
この土地は大森林に広く面しその森を切り開いて開拓し現れる魔物と対峙し流した血の量に比例して大きくなった領地である。
五年前、まだ鹿郡領主だったヴォルケは牛郡領との過去の争いから領民同士の関係を改善しようとレオンとの婚約が無かった事になったシズカを牛郡領主の子との政略結婚を苦労の末に結んだ。
だがシズカと結婚した牛郡領主の次男との関係はうまくいかず数カ月幽閉されてから突き返された。
酷く衰弱して戻った娘の姿にヴォルケはショックを受け牛郡領に抗議したが完全に無視され戦争一歩手前になる程の緊張状態となったが虎郡領主の説得により結局鹿郡側が折れる事で収まった。
この事でヴォルケは成り上がり者ができるのはここまでと考え役割も良く元の家柄も良い養子のレオンに領主の座を譲るきっかけとなった。
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「彼の地で何をしたんですか?」
一休み中にシズカから鹿郡の周辺領の事を聞いていたアーダムと、部屋に呼んだ時よりもずいぶんとやつれぐったりと椅子に座ってるブラッツは、ベットの上で座る現在は非常に元気で肌の色艶も良くシーツで胸元を隠し白い肩と素足を見せるシズカにたずねた。
「私がした前提!?」
「じゃあ僕の目を見て正直に話してください」
「…………ぷい!」
「あ」
「これは何かしたな」
「私のせいじゃないもん!」
「じゃあ教えて下さい」
「……言わない! 休憩終わり!」
シーツを払ってベットから立ち上がる。
「まだやるんですか?」
「もう寝ませんか?」
男二人がとても嫌そうな顔をする。
シズカは二人にしか見せない戦闘ドレスの下に着る下着代わりの前当てとショートズボン姿だった。
「嫌よ! 私ばっかり負けて! 勝つまでやるから! さあカードを配りなさい!」
ブラッツは溜息をついてカードを配る。ベットから降りたシズカは椅子にきちんと座って貰った四枚から一枚交換して顔を輝かせた。
「勝負よ!」
「はっはっはっ僕のはブタです」
「私の勝ちね!」
「……すいません俺の勝ちです……」
親のブラッツの手札はシズカの手札より一つ上の役だった。
「…………」
「……本当ブラッツ君は引きが良いねえ」
アーダムはブラッツがカードで負けた所を見た事が無いとうっかりシズカに言ってしまった事を後悔した。今夜の彼女の相手は自分だったのにシズカはブラッツを呼ばせてゲームを始めてしまった。
「……すいません」
勝ったのに二人に睨まれ謝罪するブラッツ。
「も、もう一度よ!」
結局夜回りに来たヨーコに怒られるまで三人のゲームは続いた。
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シズカと次男との結婚後不仲の原因は双方語らず不明だが次男の父親である牛郡領主が公の場でシズカの事を赤毛と呼び更に罵る言葉を続けた事から彼女に半分流れる蛮族、南方人の母親の血を嫌ったと噂が広がり鹿郡領に住むようになった南方人からも牛郡領に不満を募らせる結果となってしまった。
牛郡の土地は鹿郡のように天然の岩山や森林砦のような森から壁になる物は無く直に面した大森林から街や村に魔物の襲撃が日常的に起きるので西方南部で唯一大規模な常備軍を持つ事を西方王から認められており街や村を守る為の守備隊と三千を超える傭兵隊の維持費はとても一領地では賄えるものでは無く他の南部八郡から集められて送られる支援金で軍を維持している。
そんな軍隊を牛郡領に比べて領地が小さい北西と西に面した羊郡領と竜郡領、そして南の鹿郡領民からは門番の軍と貶しも入れて呼ばれていた。
――戦火はそんな森の門番、牛郡領から始まる。




