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遭遇ー1ー

・鷹野雛

高等部一年生

ホラー映画が苦手

 女子寮までの道は、他の生徒も見当たらず、わたし一人だけの寂しいものだった。

 今日は委員会活動があった為、通常よりも遅い時間での下校となっていた。かといって、他の部活動が終わる時間と被るわけでもない中途半端な時間。

 残る生徒は居残り、帰る生徒はさっさと帰ってしまっている為わたしの想像以上に他の生徒を見かけることはなかった。


「やっぱり、双葉ふたばちゃんに待って貰えば良かったかも」


 今日は生徒会の集まりがなかった彼女は、私の仕事が終わるまで待っていてくれようとしたんだけど、万が一長引くと悪いと思い先に帰って貰った。

 結果としては、長引くどころか普通よりも早く終わる位だった為、待ってもらえばよかったかなと少し後悔。


 最近は互いの用事が、入れ違いの形で入る所為か、なかなか一緒の下校もできないでいる。

 なんだかちょっぴり寂しい気分だ。

 他の生徒が見当たらない下校風景を見ると、余計にセンチメンタルな気分になってしまう。


 こういう気分は何となく好きじゃない。楽しいことを考えよう。

 頭を巡らせてみると、そういえば昨日はここで、新入生の人とぶつかりそうになった事を思い出す。


 渡戸わたしど君って言ったっけ? ぶっきらぼうに見えたけど、根はやさしそうな感じがちょっとだけ双葉ちゃんに似てるなと思ってしまう。

 今日は迷わずにまっすぐ帰れたかな? なんてちょっと余計な心配をしてしまう。


 そんな事を思い浮かべながらちょっと笑みを浮かべている最中に、背中に軽い、いや結構な衝突感が私を襲った。


 前後不注意もあった為、ちょっとよろめく。振り返ると小さい頭が見えた。が、それはほんの一瞬で、私が声を掛けるより早く、その子は私の脇を素早く走り抜けていく。なんか昔テレビで見たスポーツ中継みたいだな。立ちはだかる選手をササっと、躱していくあの軽快な感じ。まぁぶつかったんだけどね。


 あれはサッカーだったか? それともバスケだったか? 

 それにしても小さい女の子だ。中等部かな?

 何をあんなに急いでいたんだろう? 誰かと約束でもあるのかな?


 突然の事なので、いろんな疑問が次々と頭に浮かんでくる。上手く思考が纏まらないまま、わたしはボケーっと走り去っていく女の子を立ち尽くして眺めていた。

 不意に彼女は振り返ると、驚いたように足を止めた。中等部の子かと思ったけど、よく見ると違うあれは高等部三年生の有名人だ。


 と先輩はわたしを指さして何かを知らせているようだ。意図が分からず思わず首を傾げる。尚も先輩は私を指をさすも、後ろ髪を引かれるように後ずさる。それでわたしは、正確には自分の後方をさしていることに気がついた。


 振り返るとそこに真っ白な人の顔があった。正確には顔に白い面を被った誰か。


 なんの警戒もしていなかったわたしは「ひッ!」と小さく悲鳴を漏らすと、二、三歩後ずさりして尻もちをついてしまった。


 いつの間にかわたしの後ろには、白い面を被った黒ずくめの何かが立っていた。先輩はきっとそれから必死に逃げていたのだという事に気づく。


 無表情の真っ白な仮面に全身を覆う真っ黒なコート。頭には黒いハット帽、ドラマの探偵さんが被ってる奴みたいだな。なんて緊張感のない事が頭に思い浮かぶ。


 視界の端に何かが光ったのが見えてそちらに目を移すと、銀色に光る細長い剣が左手に握られていた。


「あ、あわわわわわわわ」


 自分でも驚くほどの情けない声を上げながら、わたしはなんとか逃げようと試みる。だけど体は全然後ろへ移動しない。走って逃げようにも腰が抜けてしまって、立ち上がることもままならなかった。


「だ、誰か――」


 助けを求めるその寸前。突然目の前の脅威は大きく後ろへ跳躍した。それに入れ替わる様に、後ろから誰かが飛び出してきて、私との間に立ち塞がった。


「はやく逃げろ!」


 わたしを守る様に片手を広げてそう叫ぶ。視線は前方から外さず中腰で構えていた。

 その後ろ姿には見覚えがあった。昨日ここで会ったばかりなのだから。


 そう、渡戸阿奈多あなた君だった。

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