↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
13/33

遭遇ー2ー

・渡戸阿奈多

新入生

趣味:少女漫画を読む事

 放課後、指定の場所に赴いてみるも誰もおらず、苛立たしい気持ちで帰り二日連続で道を間違えるなんてマヌケな事をしでかした。そんな道すがらに遭遇した突如の凶事。


 前方には黒ずくめの刃物を持った変態。後ろには怯えて座り込んだか弱い女生徒。それに挟まれているのが今の俺の状況だ。


 地べたに座り込んだ茶色いおかっぱ頭を見た瞬間、咄嗟に二人の間に割り込んでしまった。しかし俺には素手で刃物を持った相手をどうこうする技術も作戦も、持ち合わせていない。

 勢いのまま腕に取り付いてやろうともしたのだが、相手が素早く距離をとった為、逆に刃の餌食にならないようにするのが精一杯だった。


「はやく逃げろ!」


 だから俺ができるのは、手を広げて立ちはだかり、怯える彼女にそう伝える事だけだ。

 苦し紛れに前方の不審者を睨め付けるも、無表情の仮面からは、如何程の効果があるかも察することは出来ない。ただの虚勢に過ぎない、と笑われているのかもしれない。それでもかまわない。少しでも彼女が逃げる時間が稼げるなら、抱腹絶倒でも好きなだけしてくれ。


 これが今、校内中を騒がせている白面刀(はくめんとう)のコスプレ野郎か。

 睨みながらも相手の姿を、つぶさに観察する。少しでも隙を見せれば、飛び掛かって左手に握られた刃物を奪い取ってやろう。という気概ではあるが、仮面で相手の視線が確認できない以上そう簡単な話ではない。


 すると白面刀は突如として左手を振るう。思わず声を上げ、後ろに一歩後退する。たったそれだけの話なのに、体は緊張で硬直して上手く動いてはくれない。ギリギリのところで刃は躱すことは出来た。


 俺をからかうように、指揮棒を振る様に目の前で刀を揺らめかせる白面刀。

 完全に遊ばれている。

 苛立ちと恐怖が溢れる中、それよりも一向に背後の気配が立ち去らない事に意識を割かれてしまう。


「どうした!? 早く逃げろって!」

「ご、ごめんなさい。腰、ぬけちゃった」


 嘘だろ?


 こういうのってほら、ヒーローが手際よく変身できるように、助けられた一般人は、速やかに避難するものじゃないか。いや俺も変身できない一般人なんだけどさ。


 あんまりの事態に焦りが募る。

 そんな俺をあざ笑うかのように白面刀は遊ばせていた獲物を突き出した。


 俺は咄嗟に左手に握られていた鞄を間に滑り込ませる。

 革製の入れ物に、教科書やノート等の紙束が重なって収納されているとはいえ、どれほど効果はあるかは分からない。だけど瞬間的にそんな判断なんかできるわけもない。


 洗練された一突きは、いとも簡単に革の盾を貫通した。


 瞬間、俺は背後から突如襟首を掴まれて引っ張られた。驚きと共に数舜の浮遊感を得て、俺の体は五メートル程後方へと着地した。


 無様に尻もちをついた俺は、背後に人の気配を感じ咄嗟に見上げる。そこには一人の女子生徒。後ろに纏めた黒い尾をなびかせ、右手には腰を抜かしていたお姫様を抱えていた。


 どうやら助けてくれたようだ。

 しかし、人間二人を抱えて、数メートルの距離を跳躍したっていうのか。

 正直言って人間業とはとても思えない。


 女は前方の白面刀を睨みつつ、脇に抱えた荷物を優しく降ろす。

 そして腰に下げた刀に手を掛けると、目にも留まらぬ早さで抜刀した。


 それを見て、麻痺していた脳みそが彼女の存在を明確に認識する。


 そう、刀だ。

 この学園に置いて、個人で所有しているのは実に三人。

 そしてそれを常に帯刀しているのはただ一人だ。


 確か彼女の名は――


「佐納燕(さのうつばめ)、参る」


 その言葉と共に佐納は飛び出した。

 刀は脇に構え、まるで体で隠すように刃先を後方に向けたまま一気に突進する。

 一足にて地面を滑る様に距離を詰めるその姿は、名前に違わなかった。


 上体を低く相手の懐に潜り込むと、そのまま刀を相手の右肩に向かって斜めに切り上げた。


 白面刀はその神速の一刀を幽鬼を思わせる動きで紙一重に躱す。

 佐納はそれに戸惑う事もなく続けざまに刀を振るう。


 二刀――


 三刀目にして互いの刃は交差した。


 金属音とともにつばぜり合いが始まる。

 腕力に置いては佐納に分があるらしく、みるみる白面刀の刀は内へと押し込まれていく。


 このまま押し込めると思った矢先だった。

 白面刀は流れるように側方へと回ると、その勢いを利用して、後ろ回しで相手の脇腹を蹴り飛ばした。


 佐納は小さくうめき声をあげてよろめくも一瞬。続けざまに相手は刀を振るう。

 彼女はそれを体を転がして回避した。


 追い立てて、さらに振り落とされた刃を横一文字で受け止める。

 しかし白面刀は、そのまま押しつぶすように体重をかけ始めた。


 さっきとはまるで正反対だ。

 力で勝っていても、上下の位置関係では如何に佐納でも分が悪い。


 そう思った瞬間。

 佐納は体を引いて地に背をつけると、同時に倒れ込む相手の腹部を蹴り上げた。

 巴投げの要領で白面刀は大きく後方へと投げ飛ばされる。


 放物線を描いて石畳に落ちた白面刀は、転がる様に受け身を取ると、ゆっくりと立ち上がる。

 佐納が立ち上がったのは、それとほぼ同時だった。


 彼女は振り返り正眼に構えた。

 対して相手は両腕を下げ、ゆらゆらと左手の剣を遊ばせていた。


 息もつかせない攻防だった。

 何故こんな真剣な殺し合いが一学園内で行われてるんだ。本当勘弁してほしい。



「風紀委員の人! こっちです」

「急いで!」

「そこを動くんじゃないぞ!」


 突如後ろから、数人の声が聞こえた。さっき見かけたチビッ子が、風紀委員を呼んでくれたのかもしれない。それにしても妙に速い援軍だ。しかし事態が事態なだけに、違和感よりは安堵感の方が強い。


 白面刀は声を聞くや否や、大きく跳躍すると、下校通路脇の樹林へと飛び移る。佐納もそうだが、明らかに人間の跳躍力を超えており、その姿に思わず呆けてしまう。

 しかし、同じ人種であろう彼女はまるで意に返さず「逃がすか!」と勇ましく追いかけようとする。


 だが、途端に足を止めて身を強張らせる。

 相手の右手に握られていたのは拳銃だった。


 種類は何だとか、なんでそんなん持ってんだとか、そんなことは重要じゃない。

 なぜならその銃口が、俺達(こちら)に向けられているからだ。


「うっそだろお前!」


 さっきまで活劇剣舞していたのに、ここにきてそれはちょっとルール無用にも程がある。俺は隣にいる雛を庇うように体を覆って身を縮こまらせた。佐納も必死にこちらに向かうも間に合わない。


 無情にも引き金は引かれ、拳銃からチープな火薬の破裂音が周囲に鳴り響く。

 俺は咄嗟に目を瞑り顔を背けた。


 ……数秒の沈黙のあとゆっくりと目を開く。


 あれ? なんも起きてない。


「おのれ、逃げられたか」


 目の前には刀を鞘にしまい、悔しそうに樹林を睨む佐納の姿があった。


 ……あれ? 俺って撃たれたんだよな。辺りには火薬の臭いが微かに香るので間違いは無いはずだ。


 もしかして運良く外れたのだろうか?


 確かに拳銃っていうのは、そんな簡単にあたるもんじゃないとは聞くが。実際に銃口を向けられるとそんな都合の良い事あるかと言う気にもなる。それ位の恐怖感だった。

 単に佐納の意識を逸らす為だけの威嚇射撃だったのかもしれないが。


 おっかなびっくり周囲を見回す俺を見かねたのか、佐納は安堵の息を吐いて、口を開いた。


「案ずるな。どうやら玩具のようだ」

「玩具?」

「うむ。どうやら火薬を詰めて、音を鳴らす類のものだな」


 なるほど。祭りの屋台とかで売ってるあれか。確かに周囲を見ても弾痕のあとは見当たらないし、純粋に逃げる為だけのブラフだった訳か。


「自分も見事に騙された。我ながら未熟……!」


 佐納はそう言って悔しそうに眉をひそめる。してやられて悔しいのだろう。

 だけど、真剣でチャンバラしてる最中にアレを出されて、咄嗟に見極めろっているのは難しい気がするし、仕方がないと思う。


「おーい、もう大丈夫だぞ」


 話は置いておき、いまだ体を丸めて小さくなってる少女に声を掛ける。耳を塞ぎ、力強く目を閉じている所為か、中々気づいて貰えなかったが、数回の呼びかけでようやく目を開けてくれた。

 巣穴から出た小動物の様にキョロキョロと左右を見回すと、俺と佐納を交互に確認する。暫くして両目からジワジワと涙が溢れだした。


「うわぁあああああああ! 怖かったよぉお」

「お、落ち着け鷹野(たかの)。彼奴(きゃつ)はもうおらん」


 飛びつかれて、佐納は困ったように宥めようと苦心する。こういった事は苦手らしく、上手く言葉紡げないようだ。助けを求めるようにこちらに顔を向けるが、俺は小さく肩を竦めるだけで答えた。


 居心地が悪そうに彼女が泣き止むまで、胸を貸す佐納。

 先ほどまでの勇ましい姿とのギャップに、思わず苦笑してしまった。


★★★


「ううぅ……。佐納さんも、渡戸君も本当にありがとう」


 落ち着いたのか、ハンカチを片手に改めて謝辞を述べる。殆ど佐納の活躍の為、礼を言われるのは何とも面映ゆい気持ちだ。正直言って何もできなかった。途中で助けが入ってなかったら、今頃刀で串刺しだっただろう。


「いや謙遜する必要はない。渡戸も見事であった」

「勢いよく飛び出した後は、正直ビビってただけだが」

「何を言う! 身を挺して人を助ける為に素手で立ち向かったのだ。自分は感服した!」

「そうだよ! 渡戸君いなかったら、私がブスーッ! って刺されてたかもだし」


 やたらとオーバーアクションで語る様を、真面目な顔で佐納は頷いて肯定する。


「ま、まぁ一番の功労者とお姫様が言うんだし、自信を持つとしよう」

「うむ! そうだ。もっと胸を張ると良い!」


 照れくさくなり、茶化した物言いにするも、佐納は真剣な様子で尚も俺の勇士を称えた。

 自分の方が勇ましかったくせに、何とも調子の狂う奴だなぁ。

 そんな俺の心境が伝わったのか隣ではクスクスと笑いを堪えている様子が伝わる。


「そ、それよりも! 風紀委員はどうしたんだ? なんかさっき声が聞こえてたけど」


 バツが悪くなり、無理矢理話題を変えようと試みた。

 確か数人がこちらに向かってきてた筈だ。声の感じからすると、結構近くに居た気がするんだけど。

 その割には一向に姿が見えない。


「それは私だ」


 と、突然真横から声が聞こえ、辿った先にはやたらと小さい女子学生。


 こいつは確か、雛が襲われるよりも前に白面刀から逃げていたはずだ。事態が急だった為、イマイチ良く見ていなかったが、見間違える筈もない鷺宮(さぎのみや)誠(まこと)が挙手して立っていた。


「これは鷺宮先輩。先輩が他の人を呼んでくださったのですか」

「やっぱりさっき走ってたの先輩だったんだ」

「ごきげんよう。ピヨピヨはなんか押し付けるみたいになって、メンゴメンゴ」

「それよりも、呼んだ奴らは何処行ったんだ? 逃げたのを追ったのか?」


「もう少し謝意を見せろ」と言いたい気分だが、話が進まないので疑問だけを素直に口にする。


 すると鷺宮は自身を指さし「だから私、私」と繰り返す。俺は何となく言わんとしている事を理解した。

 しかし残る二人はイマイチ理解が及ばず首を傾げる。

 小さくため息を吐くと、鷺宮は喉を数回鳴らす。


「風紀員の人! こっちです」

「急いで!」

「そこを動くんじゃないぞ!」


 先ほど聞いた三様の声を順番に口から出した。


 声帯模写という奴だろうか、全く違う声色を見事なまでに操っている。

 間近で見ると何とも奇妙な光景だ。


「因みに、順番に三年の山田さん、遠山さん、明智君」

「遠山先輩も明智先輩も風紀委員で顔を合わせますが、本物と区別がつきません。お見事です」

「ふふふ、一度姿を暗まし、援軍を呼んだと錯覚させる。戦いは頭(ここ)だよ。ちみぃ」


 頭を指で叩いてやたらと偉そうに発言するチビッ子三年生。

 そもそも最初に白面刀に追われていたのはコイツだった筈だ。いったい何をやらかしたんだ。


「む、失礼。下校中に突然現れて襲ってきた。正直心当たりがないザンス」

「そうだぞ、今のは上級生に対して失礼だ」

「へーへーすんませんでした」

「あっ。でもさっき中庭で花火やったからそれかな? いや反省文提出の時に音色ちゃんのスカートを捲ってきたのが――」

「佐納、これはいいのか」

「いや……うむ。そうだな、鷲宮先輩、その、もう少し上級生としての自覚をお持ちください」


 なんだか先輩が来てから一気に空気が弛緩した。一先ずの所、早く寮に戻った方が良いという事で話が纏まる。白面刀の件は佐納から風紀委員に経緯を伝えるとの事だった。


「何から何まですまないな」

「大したことない。そのために風紀委員に入ったのだ」

「よーし! では女子寮までのエスコートをよろしく」

「は。佐納燕、命に代えましてもお二人を無事、寮まで送り届け致します」

「渡戸君も気を付けて」


 心配そうに別れを告げられ、軽く手を振って応える。

 実際、佐納がついている二人よりは、俺の方が遥かに帰り道が危険だと言える。万が一があっても嫌だし、とっとと帰ろう。手紙の件とかもうどうでもいいわ。知らん知らん!


 思い出したように投げ捨てられた俺の盾(かばん)を拾い上げると、見事に全部貫通していた。これってもしかして、自腹で買い替えないといけない訳?


 思わぬ追い打ちにげんなりしていると、不意に佐納に呼び止められた。

 振り返り要件を尋ねると、佐納は歯切れが悪く、中々言葉が口から出てこない。

 叱られた子供の様な、妙に消沈する姿が不思議であった。


「佐納?」

「いや、なんでもない。渡戸も気を付けろ。もう現れぬとは限らぬのだからな」


 そう言い残すと佐納は二人を連れて女子寮の道を歩いていった。

 高く伸びた背中が、何故だかとても小さく見た。


 そんな姿を釈然としない思いで暫く眺めるも、いい加減に彼女達とは逆方向に足を向けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。