十人十色 後編
死神。
それは万物に死を与える最上位種族。
爪を黒く染め、大鎌を構えるサーラは獰猛に微笑む。
「おいたが過ぎますよ、【蒼】の世界樹様?あとどこかで見かけた小娘さん?」
「……貴様、只者ではないな。シスターのコスプレをしているが」
「こちとらシスターが本業なんですけれど?一応世界樹教ですよ」
「なら、我のことも尊敬に値するのではないか?」
蒼で染めつくされた青年は両手を広げて凄まじい圧を放つ。見ているだけで呑み込まれそうな、超然とした存在感を。
対するサーラは、鼻で笑った。
「私は盲目的に信仰しているわけではありませんので。世界樹様の良し悪しもちゃんと見ますよ?ねぇ、いたいけな少年をいじめる悪い世界樹様?」
サーラの声音が一段と低くなる。
【蒼】の世界樹は、ほぼ反射的に唱えた。
「『氷枝』」
瞬時に対象を凍てつかせる、【蒼】の世界樹の基本攻撃。一手で戦闘が終結してしまうような技が、サーラに襲いかかる。
――しかし。
「ちょっと、話の最中に攻撃してくるなんて、どんなコミュ障ですか」
サーラは体の正面で鎌を車輪のように回している。
まるで歯牙にもかけないような様子で。
――凍らない。
【蒼】の世界樹は、はっきりと目を見開く。
「っ、何故、我の氷が通じない?」
「からくりが分かったんですよ、あなたの技のね」
そう言うサーラの足元には、幾つもの氷片が散らばっている。その数は鎌が回転するとともに増えていく。
「あなたは、世界樹。魔法は使えない。なら、単純に、種族の特性を生かして攻撃していると考えるのが妥当でしょう」
サーラは鎌で旋風を生み出しながら、片手で氷片を拾い上げる。
「あなたは自身の体から氷の枝を伸ばしていた。目には見えないほど、細長い枝を。その枝を伝って、シデの体も凍らせたんでしょう?」
【蒼】の世界樹は、ぴたりと手を止める。
まるでその解答を肯定するように。
「ふん、小細工は通じないか。さすが死を司る種族、生を司る我々とはどこまでも反りが合わない」
そして、物憂げな表情を垣間見せた青年は――次の瞬間には、何故かペンライトを取り出していた。
それから軍配か何かのように、掲げる。
「『千年凍歌』」
六花の形をした花粉が舞い下りる。
世界樹と死神の激突は熾烈を極めていく。
――そこまで、離れたところから傍観していた俺は呟く。
「すげぇ……」
もう何が何だか分からない。怪獣同士がタイマンしているのを間近で見させられている気分だ。世界樹の凍結技の仕組みとか一切頭に入ってこなかった。
「大丈夫、シデ?今氷を解くわ、少し待ってね……」
そこで、目を瞑るヴェルティアは氷の茨に覆われた俺の腕に触れる。
――小さな光の粒が現れる。
「『妖精の粉』」
ヴェルティアが二本の指を立てると、氷は巨大化し、腕からすっぽりと抜けた。
こう、サイズの合わないブレスレットみたく。
「いって……凍傷になっちまう」
「治癒士がいないから……しょうがないけど我慢してくれ」
応急処置ということでラヲゼさんから渡された布を巻き付ける。そう痛がってもいられない。
眼前には、氷の籠に囚われた世界樹がいるのだから。
「ラヲゼさん、なんか強いドラゴン連れてきて!とびきり強い奴!」
「分かった!」
「ヴェルティアは、氷対策で解呪士役をお願い!コレネはっ……」
そこで、言葉が遮られた。
真上から強襲を仕掛けてきた、カタナによって。
「世界樹には触れさせない!三枚おろしにしてやる!」
「どっ、どわあああ!?」
今度こそ脳天がかち割れちゃう!
俺はすんでのところでローリング回避。氷の剣が地面に突き刺さる。
「すっ、すごい殺意なんだけど!?俺なんかした!?」
「シデ、女難体質なのなー」
「コレネは黙っておいて!火にスライム油だから!」
カタナは、鋭い眼光で睨み付けてくる。
「あたしは、戦士団の威厳をかけてここに来た……」
頭によぎるのは、迷宮でのこと。
あの日、あの時、カタナにドラゴンライダーの素質を否定されなければ、俺は今こうやって世界樹に乗っていることもなかった。
「あたしと戦って。そうじゃないと、あたしは自分を許せない」
読んでいただきありがとうございます。
戦闘シーンはいつも試行錯誤しながら描いています。ギャグだけで回ったらいいのに……。




