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嵐の前の静けさ~ゴーレムを添えて~

前回よりだいぶ間が空きまして申し訳ありません。特に事情はなかったのですが、大量の課題を見て泡を吹いているうちにいつの間にか四月に……

これまでの話を要約すると、主人公が世界樹携えてドラゴンライダーに弟子入りしているところです。

ドラゴンライダー弟子入り二日目。

俺は何故か、巨大なボウルの縁を走り回っていた。

底でたくさんのドラゴンが口を開けるボウルの縁を。

「いや死ぬ!死ぬって!」

「頑張って、平衡感覚を鍛える訓練だ!」

「どこが!?」

下で旗を振る一流ドラゴンライダーことラヲゼさんが恨めしい。特訓してほしいと言ったのは俺だけど、こんなに死の淵まで追い込むことはないと思う。

どうやら、この特訓法は伝統のものらしく、通称蟻地獄というらしい。

「あ」

叫び散らかしていると足を滑らせてしまった。転んだ先にはまぁ大変、目を爛々と輝かせるドラゴンたちが—―

ギャアアアアアア!と壮絶なビブラートが響く。女性陣はそんな血みどろの特訓を他所に、ガールズトークに花を咲かせていた。

「すみません、シデの我がままを聞いてくださって……」

「良いのよ、最近モンスターが増えて人手に困ってたもの。手伝ってくれるというならこちらも有難いわ」

「姉ちゃんすごいな!ボウルを一瞬であんなドーンって大きくして!」

「ふふ、ワタシの『妖精の粉』は物の大小を操れるの。このマグカップだって……ほら」

「わー!紅茶のプールだ!」

きゃいきゃいと盛り上がる女子たち。種族で言えば、妖精姫に死神に狂戦士というゲテモノパーティだけど……

俺はすんでのところで世界樹に救出してもらい、宙に浮きながら遠い目をする。ドラゴンライダーって、大変だな。

一方、ラヲゼさんは俺が世界樹に乗っているのを見て、ハッとする。

「ン、君の乗ってるの、それまさか……」

ついにバレたか、と身構える。しかし。

「新種のドラゴン?」

「……はい?」

「師匠、あれが中央の方に住むドラゴンなんですかね……」

「すごいわね……まるで木じゃない」

「いや、本当に木なんですけど……」

ラヲゼさんとヴェルティアは感心して世界樹を見上げる。一流のドラゴンライダーたちはプロの顔つきとなりドラゴン談義をし始める。もはや世界樹だと弁解する余地もなかった。

「世界樹様は滅多に姿を見せないのであまり知られていないんですよ。地方のご当地キャラのようなものです」

呆然とする俺に、サーラがそう囁いた。確かに俺も十四年生きていて世界樹の噂はあまり耳にしたことがない。

「じゃ、君、一回ドラゴンに乗って見せてくれないか?」

何の脈絡もなく、唐突にラヲゼさんはそう頼んできた。お手並み拝見、ということらしい。

「ワタシたちのよく使っているコースがあそこにあるの」

ヴェルティアが指差す先には、森の中に拓かれた広大な空き地があった。そこには練習場が設けられており、火の輪っかや針山、大岩など……本格的な設備がたくさんあった。流石、これこそがドラゴンライダーの真髄……!と感動していると、

「気を付けてね、あれ魔物だから」

「はっ?」

とんでもないことを言われ、コースをよくよく注視してみる。

すると確かに、火の輪っかは擬態したファイアースネークで、針山はキングアルマジロで、大岩がロックゴーレム……って、いやいや。

「あれ帝都の迷宮にしかいない魔物じゃん!今度こそ死んじゃう!」

「あら、シデが知っているとは驚きました」

「俺だってバカだけど無知ではないんだよ!俺に魔物の餌になって来いと!?」

「大丈夫、ドラゴンライダーは落馬しても死なない」

「ドラゴンライダーになれる気がしない!」

ぶつくさ文句を言いつつも、取り合えず世界樹の上に乗る。装備は前回の革から新調し、頑丈なスライムの体液。心優しきラヲゼさんが無償で譲ってくれたものである。どうでもいいけどラヲゼさんは四本腕なので、物を渡しながらダブルピースをすることができる。

「もうヤケクソだぁ!世界樹が焼失しても知らないからな諸方面の方々!」




投げやりな気持ちになり、練習場へと爆走する。これを越えねば、俺にドラゴンライダー志望を名乗る資格はない!

コースに入ってまず目に飛び込んできたのは、火の輪っか。しかも地味にうねうねと動く。鬱陶しい。

右にも左にも抜けられない……それなら。

「上!」

根にしがみつきながら、思いっきり世界樹を蹴る。加速の合図。

火の輪っかに呑み込まれる寸前んで、世界樹は弧を描いて急上昇した。

だが、安堵するのも束の間。

上昇した先には、巨大な岩のアーチがあった。猛スピードで飛行する俺の眼前に、岩肌が迫ってくる。慌てて舵を切り、今度は加工する。急激な乱高下に思わずえずく。

「これがゴーレム……すげー、意外とサメ肌なんだ」

遠くから見ると大岩にしか見えなかったが、至近距離で目の当たりにするとさすがに迫力がある。さっき俺がぶつかりそうになったのは腕だったのか、と暢気に観察していると、


『ゴガアアアアアアアッッ!!』


何故か激怒し、肌の割れ目から赤い蒸気を噴出させるゴーレムに、咆哮を浴びせられた。

「えっ何で!?怒らせるようなことした!?」

サメ肌と、乙女には即沸点なことを言ったのが悪いらしい、と気づく暇もなかった。

癇癪を起こした子供のように振り回される腕を避けるのに精一杯。

攻撃を見切り、世界樹に指示を出す暇もなく、必死の手綱さばきで世界樹をしっちゃかめっちゃかに動かしているだけ。だがギリギリのところで、肉薄してくる腕を躱すことができる。

怪訝に思って世界樹の体を見下ろしてみる。すると—―


「うわっ気色悪っ!世界樹何それ!?」


思わず相方に悪口を言ってしまった。それも無理ない。世界樹は、体から毛のような細い刺をたくさん生やしていた。全方位に、隙間なくびっしりと。

これ、迷宮で見たことあるぞ……。確か、迷宮内に自生しているモンスターで、その毛むくじゃらな体に触れた者は捕らえられてしまうとか……。

「そうだ、オニトリグサ!」

それは食()植物。そのモンスターの姿と、今の世界樹は酷似している。おそらく、この毛で敵の攻撃を察知していたのだろう。なら—―

同じ事ができるはず!

俺は、ゴーレムに()()()()()突っ込んでいく。

「ちょっとシデ!?何しているんですか!?」

地上からヌーラの叫び声が聞こえてくる。当たり前、傍から見れば救いようのないバカ&トチ狂った奴だ。

けれど、俺には勝算があった。


「世界樹、あのゴーレムの腕を食って!」


ガパリ、と世界樹の前方部が開く。

そして、こちらをはたこうとしてくるゴーレムの腕と衝突し—―

凄まじい重量の岩を、丸ごと呑み込んだ。

『ガアアアアアアアッッ!?』

綺麗ではない絶叫が散る。

轟音と大量の土埃を巻き起こしながら、ゴーレムが倒れる。

「しゃあああっ!」

世界樹で、ロックゴーレムに勝てた!熟練のエルフでもてこずるような相手に!

と、勝利の感動を噛みしめる。

が、そこで気付いた。

「……あれ?俺って、ゴーレム狩りするために世界樹に乗ってるんじゃなくね?」

しかも、このゴーレムって一応ラヲゼさんたちの所有物では……?

そう、俺はモンスター倒すんじゃなくてドラゴンライダーになりに来たんだよ。

……何もかもが遅かった。

村の神木壊したときもこうだったな、あはは、と乾いた笑いと共に走馬灯がよぎる。

とりあえず、誠意を込めて世界樹からバンジージャンプかな。

読んでいただきありがとうございます。

今更ですが、この世界ではGは全て無視されるものと思ってください。私たちには見えない魔法の耐Gスーツを着ているのです。

あと、ロックゴーレムさんもとい乙女ゴーレムさん、本来はかなり強いです。体皮が非常に硬いので、サーラでもすぐには屠れません。エルフの破砕魔法二十発でトントンくらい?

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