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夢見る星の少女



───闇色に染まる空の下で自分の口から吐かれる吐息の白さが常と変わらむ形である事に飽きながら受け入れる。



目の前にある焚火の明るさとそれを利用して作ったコーヒーを飲みながら白羽茜(しろはねあかね)はキャンプの出入口で暖を取っていると自分に近付いてくる足音に気付く。

なるべく最速でカップを置き、腰から拳銃を取り出し、安全装置を解除してそちらを見るとそこには見慣れた白い髪をした吸血鬼の友人であった。



「───アマルか。安心したけど、偶には吸血鬼らしく蝙蝠とかで知らせたりしないの?」


「してもいいけど、その方が余計茜が驚くだけじゃないの?」


酷くごもっともな意見に両手を上げて受け入れる。

作っていたもう一つのコーヒーをアマルに渡しながら、私はどう? と彼女が単独行動していた目的の方について聞く。

少女は闇の中でも綺麗に輝く赤い目を一度閉じてから頷き、答えてくれる。


「見る限り電子、もしくは能力的な罠は見えなかったかな。流石にこんな場所でワイヤートラップなんて古い系統のは無いと思うけど、そうじゃないのなら問題なし、かな?」


「問題なし、ねぇ…………」


アマルの話だけを聞けば、それはとてもいい報告のように思える。

要はアマルは先に少しだけ偵察を行い、目的地に罠らしいものが無いかの確認を行い、少女の持っている能力の視点で見る限りは無かった、という事だ。

成程、喜ばしい───だが、それは自分達が行こうとする場所を考えるとそれでいいのか、という思いが先に浮かぶのだ。

何せ



「───世(・)界(・)を(・)滅(・)ぼ(・)し(・)た(・)機械人形(アンドロイド)がいると噂された場所が何の罠も封印も無く放置だなんて。余程余裕が無かったのかしら。それとも怖かったのかしら?」


「さぁ? 1(・)0(・)0(・)年(・)前(・)の事を言われてもどうしようもない」



それもそうね、と再び白い吐息を吐きながら、私は暗い空を見上げる───私が生まれた頃には常に真っ暗な空模様を見上げて。

友達の吸血鬼、世界を滅ぼした機械人形、自分の懐にある拳銃───きっと100年前のこの地に暮らしていた人に今の私達の状況を伝えてると妄想逞しいと言われるのだろうか。



何せ酷く他人事なのだが───この地球という世界は百年前に常(・)識(・)事(・)一度綺麗さっぱり壊されたのだから。




※※※


100年前───世界は崩壊した。

崩壊の仕方は別に大災害が起きた…………いや、起きたは起きたのだろう。

ただ、その大災害の形は地震だの嵐だの、あるいは隕石が落ちてきた等では無かった。

本当の意味で、この地球を支えてきた常識という名の安全機構が壊れたのだ。



例えば、世界の各地には神話、あるいは童話の形などで怪物の物語があるが、現実には当然、そんな怪物なんて存在しない、空想の生き物であり、精々が恐竜という大きな生命体はいた、というのが関の山であった。



だというのに100年前、そんな空想は唐突に実物となった。

比喩ではなく本当に唐突に世界の各地から怪物が発生したのだ。

空想のような分かりやすいモンスターから、見た事も無いモンスターといった様々な未知の生命体が発生し、世界全てが盛大なパニックへと陥ったらしい。



陰謀論だ、と叫ぶ政治家がいた


神の裁きだ、と嘆く宗教家がいた


星の怒りだ、と喚く妄想家がいた



どの主張も等しく大災害に押し流されていった。

犯人捜しなんてしている余裕なんて無かっただろうから、どれが正しいのかなんて分かる筈も無かったのだろうけど。

出現したモンスターに現代兵器は通じなかった───なんて流石にそういうわけではなかったが(そういう存在もいるのだが)、だからといって何れ尽きる質量のある兵器と多くが自前の体だけで十分に現代兵器に抗えるモンスターでは人間側に余裕は無く、さりとて守るために自国を核で焼く等、大抵の国はそれでは意味がない(つまり、やった国もあるらしい)為、世界は一気に人口を減らして衰退した。

そんな異常事態に人類は振り回されてばっかりだった。



───が、同時に祝福もあった。



いや、事態を考えるのであれば、呪いであったのかもしれない。

先程も言ったように私の友人、アマル・ティアは吸血鬼だ。

それは別に白い髪と赤い瞳が吸血鬼っぽいから、とかではなく、本当に血を吸い、何なら蝙蝠になったり等出来るからである。

つまり、空想が形になった、というのはモンスターからだけではなく、人にまで影響を及ぼしたのだ。

吸血鬼等分かりやすい存在だけではなく、超人としか言えない能力を持った人間が現れ、そのお陰で世界は本当にギリギリのラインで保たれ、やっと100年が過ぎたのだ。



その、ギリギリは決して比喩表現ではない



どうにか生きれはしているが、そこに発展性なんてあるわけではなく、どの国も必死に軍隊等で小さなコミュニティを守るのが精一杯。

全ての国の状態等、知るわけでもないが、少なくとも白羽茜が見た世界では余裕のある生活区域なんて見た事が無かった。

だから、私は動いた。

道中でアマルという友人も出来る幸運も拾い、そして私はかつて北海道と言われた場所の最北端に近い場所に建っている建物を見ている。



「…………厳重な施設っていうよりまるで倉庫みたいな感じよね」


「んっ。シンプルだし、特にそれらしい罠はやっぱり見当たらず。何も知らなきゃ運よくモンスター達に襲われずに無傷に建っている施設だね」


「やっぱり騙されたと思う?」


「9割」


吸血鬼の癖に私より現実主義者(リアリスト)め………と思いながら揃って注意しながら入り口の門扉を潜る。

…………だが、そんなリアリストですら1割、可能性はあると言うのならば、個人的には十分な可能性だった。

世界は唐突な異常事態によって急速に崩壊した…………だが、そうなった原因を調べる余裕は国家単位ではないが、個人単位であれば幾らでもある。

陰謀論、宗教論、その他多くの異常の原因を語る者がいたが、その中に奇妙な噂話が紛れているのだ。



曰く、世界が滅びる原因は少女の形をした機械人形だ、と



普通に考えて、あり得ないと一笑に付す内容だろう。

娯楽小説の一文から取ってきたのではないかと思う…………が、火のない所に煙は立たぬというのならば、少なくとも何かしらの情報があるからそんな噂が成り立っているのではないか、とアマルと私は話し合った。

無論、言ってる通り本当に娯楽からそんな噂が流れている可能性が0………所か百に近いのだが、どうせ嘆く時間は幾らでもあるのだ、と暇を潰す要領でここに来たという事だ。

なので、そう言う私もそんな期待が強いわけではないのだが…………



「けほっ、流石に埃っぽい…………」


「まだマシ。罠とか何も無かったんだから文句言わない」


相方の有難い言葉と共に半ば倉庫みたいな場所の扉を開けて入ると中は埃以外大したものは無し。

多少の資材くらいあるかと思ったが、精々不自然に部屋の真ん中の壁に棚が置いてあるくらいだった。

思わず二人していやいやまさか…………と顔を顰めるが、疑問をそのままにせず棚をアマルが片手でどかす───そこにはこんな倉庫っぽい場所には似つかわしくないエレベーターの扉があった。



「…………いや、ここまで来たらヤル気ないでしょこれ………」


「流石に同意。ここ建てた人、ひたすら面倒臭がり屋だったんだね………」


形だけの隠蔽に二人して溜息を付くが、問題も一つある。



「電気…………通ってる、わけないよね………?」


諦め半分の気持ちでエレベーターのボタンを押して───ピンポーンと間抜けな音と共に目の前の扉が開く。

そこで初めてアマルと目を合わせ、互いに驚きの表情が顔に張り付いている事を確認する。

罠も無く、間抜けな隠蔽工作にガセと諦めていた心に冷たい氷を入れられたような冷えた感覚が全身を軽く震わす。

当然のように見える異常に、再度アマルと顔を合わせ───引く理由が無くなった小さな個室の中に二人同時に踏み込み、向かう先を指定しようとして内部にあるボタンを探しつつ、指を伸ばし───伸ばしていた指を一瞬止める。

ボタンにはこう書かれていた。



"地獄"



唐突な皮肉。

単純な言葉遊びだが、噂通りなら間違い、というわけでもあるまい。

だが、引くわけにもいけなかった。

私達がここに来たのはある種暇つぶしだ。

何もする事がないこの世の中で、中途半端な力だけを持て余しているからこそ時間を余らせた私達の、盛大な暇潰し。



───ただし命を賭けてもいいと決めた暇潰しだ



故に地獄上等。むしろ気に入った、と私は唇を歪めた。

それくらいの脅し文句が無いと世界を滅ぼしたなんて大層な称号は似合わないと思い、茜はもう一度アマルに視線を向ける。

吸血鬼の少女もまた私の視線に同意するように頷く。

そうして私達は地獄行きのボタンに同意した。

目の前の扉が閉まり、軽い浮遊感と共に人を乗せた小さな箱が地下へと潜っていった。




おぉーーーーーーーーーーん…………………



降りていく響きと共に下へ下へと降りていく。

…………長い。

既にボタンを押して、数十秒経つ。

シェルターとかならともかくあんな雑の施設の下の癖に、どう見ても既に地下二階、三階は超えた時間を過ぎている。

もう直ぐ一分ともなれば相当だ。

そんな地下深くまであったというのだろうか?

押したボタンにあった言葉の意味が頭に反芻する中、更に異変…………いや、変化を感じ取る。



「…………ねぇ、気のせいかもだけど………」


「ううん、同意………間違いなく寒くなってる………」



白い肌が更に白くなっているように見て取れるアマルが私の気のせいを否定する。

地下に進めば進むほど冷えていく事実に私は両手で体を覆いながら、臆病を隠すための雑談をアマルに投げる。


「地獄の底だから、氷結地獄っていう事かしら? 案外洒落た機械人形がいるかもしれないわね」


「じゃあ、いるのは悪魔の王様で、さっきのはえらく現代風な地獄門?」


くすりと笑い合いながら、互いに寒さを堪えたまま地下下りに堪えていると…………遂にチーン、と間の抜けた音と共にエレベーターの箱が止まる。

思わず、ホっという二人分の吐息が空間を白く染める中、ゆっくりと扉が開いていく。

目の前には真っ暗な廊下が広がっていたが、私の口からは真逆の言葉が解き放たれていた。



「───光?」



廊下の先にある、恐らく閉じられた扉から光が漏れていた。

地獄に似つかわしい暗闇には似つかわしくない光が漏れていた。

即座にまずアマルが闇に踏み込む。

その後ろを守る様に寄り添いながら、私は懐にある銃を取り出して構える。

吸血鬼であるが故の暗い場所に対する耐性と頑丈さを利用して前に出るアマルをカバーする為に背後でサポートに徹する私。

アイコンタクトすら不要な程、慣れ親しんだ型。

それを頼りに暗闇を前進する。

一歩一歩と慣れ親しんだ少女の後ろを歩くが、茜にとって、それは酷く重圧のかかる作業だった。

地面としている筈の床は余りの暗さに視認する事は出来ず、底なし沼所か踏み外せば宇宙にでも放り出されるような感覚に襲われる。

左右もまた壁があるはずだ、と理性が訴えるが、恐怖が本当に? という疑問を生じ、何かが襲ってくるような妄想が極寒の地で汗を生む。

自分の臆病さが生む緊張と思いたいが、気のせいで無ければ前を歩く彼女も心なしか何時もより歩む速度は遅く感じる。



…………まったく



この闇と道を作った者は確かに地獄を表現しようとしたのかもしれない、と愚にも付かぬ事を考えて…………ようやく光の元に辿り着く。

アマルがようやくこちらに視線を向ける。

意図を理解して、こちらもその視線に合わせ、頷く。

アマルがゆっくりと光が漏れる扉の取っ手に手を伸ばすのを見ながら、茜は数秒後の未来を創造する。

世界を滅ぼした機械人形、正しく鬼が出るか蛇が出るかとしか言えない。

そのどちらでも、私達には命懸けの存在であると理解した上で、その存在が欲しい。

だから、私はアマルが扉を開く為に力を込めた瞬間、恐怖と等分になる量の期待も含めて喉を鳴らし───開かれた扉の光景を友と同時に見た。




───開かれた先は地獄には似つかわしくない幻想的な光景だった



殺風景の部屋の中、どう足掻いても私達の眼に焼き付けるかのように中心に巨大な氷塊がある。

寒さの原因はこれか、と頭の裏で納得しながら、それ以上の光景が理性を震わす。

部屋の中に入って、幻想的だ、と震えたのは部屋の半分以上を牛耳る巨大で綺麗な氷塊ではない。




そんな綺麗な氷塊すら添え物にするかのように、氷塊の中心で赤ちゃんのように体を丸めて眠っている少女の存在であった。



「───」



酷く特徴的な水色の髪の毛を腰まで伸ばしながら、あどけない顔で眠る様に氷塊の中で眠る少女。

そこに苦しさの色も無ければ喜びも無い。

無粋と分かっているが、氷塊の中で眠るなんて事をして苦しみが無いなんて事は現実的にあり得ない。

だというのに目の前では不可能が為されている。




当たり前だが白羽茜は今の世界が好きだ───なんて事は絶対に無い



命懸けで必死に歯を食いしばらなきゃいけない世界を好きだと言えるほどバトルジャンキーにもスリルジャンキーにもなれない。

私には経験が無いが、100年前の世界は聞けば少なくともこの日本と呼ばれた国は事故とかが無い限りは普通に暮らせて生きれる世界だったらしい。

なので100年前にもしもタイムスリップ出来るのなら、と問われたら迷わずしたいと言うだろう。

だけど、今、唯一100年前の人間に対して誇れる光景を目にした。




───こればかりは世界が狂わなきゃ絶対に見る事なんて叶わなかった光景だろう



神秘的な光景が脳を震わせ、本来警戒心を持たなければいけない筈の体から力を抜き、喉を震わす。

自然と口を開け、その光景に関する感想が発せられる。

そう───



「「可愛い…………」」



一瞬、重なった同音語に気付かず、目の前の光景に再び目を細めていたが、数秒後にん? と再び同音の言葉が重なり、この場には氷塊の中で眠る少女以外は相棒しかいない状態なのでお互い視線を向け合う。



「…………普通、ここは"綺麗……"じゃないの子供好き」


「そっちこそ。胸の脂肪の分だけ母性高まってるの?」


「おいこら、セクハラ吸血貧乳娘………!」


「可変だもん」


体系可変型吸血鬼なんて属性過多過ぎでしょ………! と唸る。

はぁ、と大きな白い吐息を吐き出しながら、ようやく震えていた理性を取り戻し、改めて少女を見る。

綺麗な水色の髪が特徴的な地獄の底で眠っている少女。

外見年齢は10から13,良くて14くらいだろうか。

どちらであっても幼い、という印象からは逃れられないであろう小柄な体型と幼さを醸し出している造形。



これが世界を滅ぼしたとされる機械人形の少女と私が出会った瞬間



だけど、やっぱり何度見ても印象は変わらず。

可愛い、と口の中で転がすように今度は呟くのであった。




───白羽茜、アマル・ティアが見逃した瞬間、氷塊の中で眠る少女の手指が少しだけ揺れる。



最初に漏れた一言の奇跡を、二人が知るのは先の話。

書きたいと思って、もう後先考えず書きましたっ。

一話じゃ全然、というのは分かっていますが、見てくれる人が少しでも楽しめれたらと思います。

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― 新着の感想 ―
とても今後の展開が気になる第一話でした! 第二話からも楽しみにしてます。
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