第8話 ワキガ勇者が起立する
ポルファス王国 王宮。
それは天空に浮かぶ島にそびえ立つ立派な城。
その城の中にある謁見の間で、ヨシハルとウォーレンは王に謁見していた。
王は想像していたよりも意外と若い。
まだ50歳手前ではなかろうか。
これぞ王!という風格、これぞ王!という格好。
黒く短い髪にくっきりとした目鼻立ち。
たぶん、その身体つきは細マッチョ。
あれはモテる。
王妃が6人いるのも納得だな。
きっとまだまだ現役だ。
ちょっと羨ましい・・・・。
玉座に座る王を見て、ヨシハルは一瞬でそんな思いを頭に巡らせていた。
「良くぞ参られた勇者殿。」
「はい。」
王様の声は力強く、威厳があり、そして優しい。
「それと、我が息子、ヒーロを魔物の手から救ってくれたと聞いた。改めて感謝する。」
「いえいえ。」
「お名前を伺っても良いかな?」
「ヨシハルです。」
「うぉ、ウォーレンです。」
ウォーレンちゃん、緊張しすぎてガッチガチ~。
ヨシハルとウォーレンに語り掛ける王。
それに端的に答えるのが精一杯の2人。
そんな感じで、謁見タイムは続いていた。
その様子をコッソリと窓の外から覗き見ている女性。
王女アナーシアである。
その横には侍女のエレン。
その足元には愛犬バウ。
その手には望遠鏡。
2人と1匹は、少し離れた場所から謁見の間の中の様子を望遠鏡で覗いていた。
「素敵・・・。」
「素敵・・・。」
アナーシアとエレンは、同時にボソッと呟いた。
慌てて互いに顔を見合わせるアナーシアとエレン。
可笑しくて2人は笑った。
「エレン、貴女も勇者様を?」
「いいえ姫様、私はお隣にいる戦士のようなお方。あの逞しい身体をされたお方の方です。」
それを聞いたアナーシアが、もう一度望遠鏡で覗く。
「ん~。マッチョすぎない?」
「いいえ姫様、あの筋肉隆々のお身体に抱きしめられることを想像してみて下さい。それだけで・・・ああ。」
恍惚な表情をするエレン。
エレンは超絶筋肉フェチであった。
・・・・・・。
大人の女性の顔をしたエレンを見て唖然とするアナーシア。
ふん。
どうせ私はお子ちゃまですよ。
殿方と手を繋いだことさえないですよ。
だって、ワキガだから。
そう拗ねた顔をして、もう一度双眼鏡で謁見の間の中の様子を窺うアナーシア。
「もうちょっと謁見の間の窓が大きかったらいいのに。」
「本当ですわね。ちょっと見え難いですわね。」
勝手な文句を言う2人の美女。
絶世の美女であるアナーシアに引けを劣らず、エレンも美しき女性である。
その年齢は22歳。
長く艶のある黒髪を後ろで括っており、メイド服には汚れ一つない清潔感溢れる佇まい。
大きな特徴は豊満な胸。
ボン、キュッ、ボンである。
「ああ・・勇者様・・・・。」
「ああ・・戦士様・・・・。」
この2人はワキガ勇者とワキガ戦士に恋をした。
「バウ!?」
耳をピンと立てて小さく吼えた愛犬バウ。
「しーっ!ダメよバウ。静かにしてね。」
バウに左手をあてて頭を撫でるアナーシア。
右手の望遠鏡からは目を離すつもりがない。
「ウゥ~。バウッ!バウッ!!」
急に何かを威嚇するように吠え出した愛犬バウ。
「どうしたの?バウ。」
アナーシアとエレンが振り向いた。
「えっ!?」
「なっ!?」
そこにいたのは魔除石像。
全身が灰色の石で作られた巨躯。
顔は鷲、身体は獣、蝙蝠のような石の翼を大きく広げて動いている。
「バウッ!バウッ!!」
「衛兵!衛兵!」
威嚇するバウ。
衛兵を呼んだエレン。
すぐに駆け付けた衛兵は、凶悪な魔除石像が動く姿を見てたじろいだ。
それでも覚悟を決めて手に持つ槍を突き刺す。
ガチン!
魔除石像の身体には刺さらない。
他にも駆け付けてきた衛兵。
1本、2本、3本と槍を突き刺す。
だが、結果は同じ。
魔除石像はその大きな手をぶん回して、衛兵たちを全て薙ぎ払った。
壁に吹き飛ばされた衛兵たち。
近くには、残念ながら実力確かな騎士は誰1人としていない。
全員が謁見の間に詰めているのだ。
「きゃーーーっ!!」
何事かと駆け付けてきた侍女が、顔面蒼白で大きな悲鳴を上げた。
魔除石像がアナーシアに近づく。
「姫様!お逃げ下さいっ!」
身を挺してアナーシアを庇うエレン。
魔除石像は、エレンの頭を鷲掴みにするとぶん投げた。
「エレンッ!」
それを見て動揺するアナーシア。
「バウッ!バウッ!!」
バウが魔除石像の右足に噛みついた。
しかし、その牙は通らない。
それでも噛みついた口を離さないバウ。
魔除石像はアナーシアの身体を両手でしっかりと掴んだ。
ポコポコと魔除石像の腕を叩くアナーシア。
そのまま、魔除石像は空に飛び立った。
その足には、噛みついたまま離れようとしない愛犬バウの姿。
「ひ・・・め・・・さ・ま・・・。」
エレンはぶん投げられた衝撃で気を失った。
侍女の悲鳴は謁見の間にも聞こえていた。
何事かと窓の外を見る騎士たち。
ヨシハルとウォーレンも窓の外の様子を確認してみた。
その窓から見えたのは、翼を大きく広げて空を舞う魔除石像。
石の翼をバサバサと羽ばたかせて空を飛んでいるのであった。
その両手には女性を掴んでいる。
そして、魔除石像の足元に食らいついている白い犬。
「王女様だ!王女様がっ!!」
謁見の間が動揺と混乱に陥った。
どうやら王女が魔除石像に誘拐されたらしい。
ヨシハルは、いま起きている状況をそう理解していた。
空を飛び去って行った魔除石像。
その姿が王宮から遠のいていく。
足元に噛みついていた白い犬が、力を失ったかのように落下していくのが見えた。
動揺と混乱が拡がる謁見の間。
その中で、陰に隠れて1人だけニヤリと笑う者がいた。
ぶよぶよに太った体型。
いまにもはち切れそうな全身真っ赤でセンスの欠片もない貴族服。
頭部は薄くなった黒髪バーコードで、黒縁眼鏡の下は細くいやらしい目つき。
醜悪が身体から滲み出たかのような男である。
その男の名はマルカーノ。
ポルファス王国 南部の街の領主。
マルカーノ男爵である。
一方。
魔除石像に攫われてしまった王女アナーシア。
「離してっ!離してってば!!」
ポコポコと魔除石像の腕を叩き続けていた。
「ウウ~~~~ッ!!」
アナーシアはハッと気付いた。
愛犬バウの唸り声が聞こえる。
身を捩って魔除石像の足元を見た。
そこには魔除石像の足に噛みついている愛犬バウ。
アナーシアは驚愕した。
こんなところから落ちたら、きっとバウは助からない。
愛しのバウが!
どうしよう!どうしたらいいの!?
自分のことよりも愛犬の心配をする王女。
どうしても最悪のイメージが頭を過ぎってしまう。
右足に噛みついて離れないバウを左足で蹴飛ばした魔除石像。
それでも離れないバウ。
無情な魔除石像の蹴りが続く。
一発、二発、三発。
ついに力尽きたバウ。
その瞳には王女アナーシアの姿が映る。
「キャンキャンキャゥゥゥゥゥ・・・」
バウは、真っ逆さまに落下していった。
「バウ!バウーーーーーーッ!!」
涙が溢れ出すアナーシア。
手を伸ばしても届くはずがない愛犬は、無情にも地上へと落下していく。
アナーシアが抱いた最悪のイメージは現実のものとなった。
あまりの絶望にショックを受けた王女は、そのまま魔除石像の手の内で気を失ってしまう。
一方、その頃。
動揺と混乱が治まらずにざわめく謁見の間。
王が玉座から立ち上がった。
「静まれーーーーーーい!!!」
王の怒号が響く。
身体の芯まで届く声だ。
謁見の間に静寂が訪れる。
全員が王の姿を見た。
ひな壇を降りてくる王。
「マトバン!」
「はっ!」
「姫を。アナーシアを頼む。」
「はっ!」
白髭の騎士、騎士団長のマトバンの肩に手をあてた王。
王としての威厳を保ちながらも、その顔は父親としての表情でもあった。
すぐに指示を出すマトバン。
王は、ヨシハルとウォーレンに近づいて声を掛けた。
「勇者殿、そして戦士殿。」
「はい。」
「誠に申し訳ないが問題が起こった。また改めてお話させて頂くことにしても良いかな?」
「当然です。」
マントを翻して退室する王。
王の姿が見えなくなった途端にざわめきが戻った謁見の間。
マトバンの周りには、騎士の中でも身分が高そうな騎士たちが集まっている。
「すぐに行け!頼むぞ!」
「はっ!」
ヨシハルとウォーレンは顔を見合わせて頷くと、マトバンの下に歩み寄った。
「マトバン殿。」
「勇者様、このようなことになって誠に申し訳ない。」
「俺たちも捜索を手伝いましょうか?」
「とてもありがたい申し出ではあるが、勇者様は王女アナーシア様の顔をご存じか?」
「・・・・いいえ。」
「ですな。まずは我らが総力を挙げて攫われた姫君を探し出しますぞ。もし、その時に勇者様のお力添えを賜る必要があれば、ぜひともご助力願いたい。」
「分かりました。その時は全力でお手伝いします。」
「それは心強い。頼みましたぞ。」
衛兵に案内されて、地上にある王都に戻るヨシハルとウォーレン。
預けてあったウォーレンの両刃の戦斧は、すでに返してもらっている。
外を眺めると、小さな竜に乗った騎士が城から飛び立っていくのが見えた。
竜騎士、その数10騎。
小型の飛空艇が何艇も飛び立つ準備が進んでいる。
慌ただしく走り回る騎士と兵士たち。
このポルファス王国は、かなりの戦力と技術を持ち合わせているのだろうな。
ヨシハルはそう思った。
またも恐怖の超高速エレベーターを使って地上に戻ったヨシハルとウォーレン。
登るよりも降りる方がずっと地獄。
言うなれば、垂直落下式のジェットコースターだ。
降りる前になぜか健康チェックを受けた理由が良く分かった。
下手したら心臓が止まる。
地上に降りたヨシハルとウォーレンが、真っ先に閑所を探して駆け込んだのは言うまでもない。
抜かりなき制汗タイムだ。
地上の閑所も王宮と一緒。
なぜか完全個室がない。
スイング扉だけ。
2人は、またも阿吽の呼吸で連携し、その窮地を無事にクリアした。
魔法陣が描かれた広場から塀に向かって歩く。
その途中で、最初に道案内をしてくれた若い衛兵にあった。
王女誘拐の事件発生は、すでに地上にも連絡が入っているようである。
その若い衛兵に聞くところによると、王族や貴族は恐怖の超高速エレベーターを使用することはないらしい。
飛空艇を使用するのが普通だそうだ。
そりゃそうだ。
因みに騎士という身分は、この若い衛兵はもちろんのこと兵士たちの憧れであるらしい。
その騎士になる為には、剣の実力はもちろんのこと、この超高速エレベーターに慣らされる過酷な特訓があるそうだ。
まるで宇宙飛行士の訓練だな。
そうヨシハルは思った。
若い衛兵に御礼を言って別れたヨシハルとウォーレン。
空を見ると日がもう暮れかけている。
日没となると、さらに王女捜索は難航するであろうな。
ヨシハルはそう思った。
2人は、自分たちの屋敷に戻る前に寄り道をすることにした。
情報屋ヘイブルである。
「ふぇふぇふぇ。お帰りなさいませ勇者様。」
まるで、ここにヨシハルが来ることを察していたかのような老婆の反応。
ヨシハルとウォーレンは首を傾げた。
「ここに俺が来ることが分かっていたようだな?」
「ふぇふぇふぇ。それはもちろん。王女様が誘拐されたと聞きましたからねえ。」
「さすがに情報が早いな。」
「ふぇふぇふぇ。」
そう笑って、またも手のひらで銀貨を表と裏に交互にひっくり返す老婆。
「裏だ。何か情報があれば売って欲しい。」
細い目をカッと見開いた老婆。
「これは証拠はございませんえ。それでもよろしいですかえ?」
「ああ。構わない。」
「絶世の美女である王女様に対して、前々から邪な恋心を抱いている貴族がおりますえ。」
「それは誰だ?」
「マルカーノ男爵という小物ですえ。」
「マルカーノだとっ!?」
急にウォーレンが叫んだ。
そういえば、ウォーレンたちが義賊となるきっかけは、マルカーノとかいう奴が原因と言っていたな。
「ええ。その小物が、何やら企んで良からぬ輩と手を組んだそうですえ。」
「それは誰だ?」
「それはまだ分かりませんえ。でも、王女様に関係していることは間違いありませんえ。」
「そうか、ありがとう。情報料はいくらだ?」
「ふぇふぇふぇ。これは証拠がないので売り物ではありませんえ。婆の独り言ですえ。」
「すまんな。この情報が確かであれば、必ず御礼する。」
「ふぇふぇふぇ。あともう1つありますえ。」
「何だ?」
「小物は、この王都からそう遠くない場所に隠れ家を持っているらしいですえ。残念ながら、その場所は知りませんがねえ。」
「驚きだな・・・十分だ。ありがとう。」
「ふぇふぇふぇ。」
ヨシハルとウォーレンは情報屋ヘイブルを後にした。
やはりあの老婆は只者ではない。
味方につけておいて損はなさそうだ。
最悪、絶望の脇臭を嗅ぎつけられたら、大金を叩いてでも買収しよう。
それにしても、マルカーノの隠れ家は王都の近くにあるのか・・・。
だからと言って、付近を暗中模索したところで見つかるまい。
「明日、南部の街とやらに行ってみようかと思うが、一緒に行くか?」
「うむ。我も顔を隠して一緒に行こう。だが、奴の隠れ家は別にあると言っていたぞ?」
「まずは、その隠れ家に繋がる手掛かりを南部の街で探ろうと思う。南部の街は遠いのか?」
「馬で半日といったところだな。朝早く出れば、昼には着くだろう。」
自分たちの屋敷に戻って来たワキガ勇者とワキガ戦士。
それを出迎えた仲間たち。
「お帰りなせえ。とりあえず、寝床だけは確保しておきやしたぜ。」
「何せベッドとかありませんからね。今日は雑魚寝となります。」
「広すぎて、どこから手をつけようか迷いますよこの屋敷は。」
「明日、買物してきますので、何か必要な物があれば言って下さい。」
「これが、屋敷の中に落ちていました。」
仲間たちは、皆この屋敷が自分たちの拠点となって喜んでいるようだ。
仲間の1人が見つけたのは、簪である。
黒塗りの小さな棒は二股に分かれており先が尖っている。
その持ち手側には三日月の飾りがついていた。
それを見たところで、ヨシハルは特段の興味を示すことはなかった。
「日も暮れてきたし、皆で飯を食べに行かないか?」
「賛成~!」
ヨシハルたちは全員で街に出ると、酒場で食事を取ることにした。
心なしか、街を巡回する衛兵の数が増えているような気がする。
きっと王女捜索で増員しているのであろう。
食事を終えて酒場を出たら、外はすでに真っ暗であった。
酒を飲みすぎて千鳥足のウォーレンと仲間たち。
「うぉーうぉうぉうぉ、うぉっうぉっうぉっ!」
まるでサッカーの試合でも始まるかのような歌を歌う仲間たちはふらふら状態。
それを仕方なしに介抱するヨシハル。
「ヨシハルの旦那ぁ~。あっしはずっと着いていきやすぜぇ~。天下とったりましょうやぁ~。」
いやいや、俺は勇者であって征服者じゃないから。
心の中でそう思うヨシハル。
この1人だけ言葉遣いが荒い仲間の名はビッツという。
細身の坊主頭にすきっ歯。
決して見た目が良いとは言えないが、どこか憎めない雰囲気を持っている。
ビッツは元鍛冶職人で、それなりに腕は良かったらしい。
言葉遣いはいまいちだが、気はとても利く人の良い奴である。
「よっしゃぁ~!天下とるぞぉ~!」
「お~っ!」
ふらふらで盛り上がる仲間たち。
周りをすれ違う人々はドン引きだ。
うん。
ビッツには禁酒令だな。
やっとの思いで屋敷に着いたヨシハルたち。
帰宅途中でウォーレンが歩きながら寝始めた為、ヨシハルが仕方なく担いで連れて帰っていた。
この筋肉ワキガ戦士はとにかく重い。
そして、どうしても匂ってくる絶望の脇臭。
屋敷の扉を開けて入るなり、その場に寝転んでしまった仲間たち。
ふう。
もう、このまま寝かせておくか。
ヨシハルはウォーレンの頬を叩いた。
「おい!風呂行くぞ!寝るなら風呂に入ってからにしろよ!」
「う・・うむ。うむにゃむにゃ。」
うっすら目を開けてまた閉じると、むにゃむにゃと言うウォーレン。
絶望の脇臭持ちは、必ず風呂に入ってから寝なければならない。
もし、それをサボろうものなら、脇の細菌はワッショイワッショイとお祭り騒ぎで大繁殖。
それはもう、この世の絶望としか言いようがない。
「俺は先に入るからな!」
くそ重たいウォーレンを担がされたお陰で、ヨシハルの絶望の脇臭もレベルが上がっていた。
ふと目にしたのは、床に転がる三日月の飾りがついた黒い簪。
「あれ?こんなところに置いてたかな?」
少し不思議に感じたが、何よりも早く風呂に入りたいので気にしないことにする。
我が家の天然温泉に入ったヨシハル。
再度説明する。
真っ先に洗うのは、顔でも頭でもあそこでもない。
脇だ。
きちんと二度洗いも忘れずに。
これが絶望の脇臭持ちの入浴に於ける掟なのである。
身体を洗い終えたヨシハル。
せっかくだから、和風のしつらえになっている露天風呂に浸かることにした。
その頃。
ぐっすりと眠り込んでいるウォーレンと仲間たち。
その横に落ちていた黒い簪の三日月が怪しく光る。
黒い簪は、ふわりと宙に浮かんだ。
そして、ふらふらと浴場の方に向かって宙を飛んでいく。
ぶっ!
ウォーレンがおならした。
露天風呂を満喫するヨシハル。
その露天風呂に誰かが入ってきた。
「遅かったなウォーレン。ちゃんと二度洗いはしたか?」
そう言って、そちらを振り向いたヨシハルは・・・フリーズした。
「素敵な殿方にお会いできて、あちきは嬉しゅうございます。」
そこに立っていたのは女性。
とても長い髪。
目鼻立ちがはっきりとした美しい顔。
そのスタイルは8頭身。
上半身だけ羽織りを纏っているが、それでも分かる豊かな胸と見事な腰の括れ。
すらっと長い脚で、その太ももには三日月の印がついている。
ただ。
その身体は透けていた。
幽霊だ。
「あわわわわw」
まじかーーーーーーーっ!
と、ヨシハルは心の中で絶叫した。
「さあ、どうか、あちきを抱いておくんなまし。」
そう言って、羽織りを自ら脱ごうとする幽霊美女。
はだけた羽織りから覗くきれいな鎖骨。
脱いだ羽織りは、パサッという音がしたのに消えた。
全裸になった幽霊美女。
恥ずかしそうにして、胸とあそこを手で隠している。
でも、その手は透けている。
隠しているけど丸見えザマス。
えーーーっ!?ええーーーーーーっ!?
何がなんやら、驚きMAXで声が出ないヨシハル。
「あら? とてもご立派。嬉しゅうございますわ。」
透けてるけど頬を赤くする幽霊美女。
左手を目にあてて、中指と薬指の間でヨシハルの姿を見る。
はっ!!??
それを聞いて焦ったヨシハルは、ヨシハルのヨシハルを見た。
ビンビン
ヨシハルは童貞である。
だから仕方ない。
許してやってほしい。
慌てて手であそこを隠すヨシハル。
幽霊を見たオドロキ。
幽霊を見てビンビン。
ヨシハルの頭の中はパニックであった。
果たして、ワキガ勇者の運命は如何に!?