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第9話 ワキガ勇者が告白する

露天風呂を満喫していたヨシハル。

そこに突如現れた幽霊美女。


その文字通り透明な裸を見て、ついオッ立ててしまったワキガ勇者。

絶体絶命のピンチ?である。


「さあ、あちきを抱いておくんなまし!」


幽霊美女がヨシハルに近づく。


いやいやいやいやっ!

これどうする?

どうしたらいいの??


頭が真っ白でパニックになるヨシハル。


除霊、除霊だな?光魔法か?

でも・・・ちょっと様子を見てみてもいいかな・・・。


このシチュエーションはラッキースケベなのかも。

と、ほんのちょっとだけ心の奥で思ってしまうのが男。


更には童貞だから、これは致し方ない。


「抱いておくんなましっ!」

幽霊美女が両手を広げてヨシハルに飛びついてきた。


!?


覚悟(何の?)を決めたヨシハル。

それを避けようと思えば、容易に避けることが出来たはずである。

でも、童貞は避けない。


スゥ~。


あれ??


幽霊美女はヨシハルの身体をすり抜けた。


・・・・・・。


「抱いておくんなましっ!」

再び両手を広げてヨシハルに飛びついてくる幽霊美女。


スゥ~。


・・・・・・。


これ、あれじゃね?

無理なんじゃね?

幽霊だからすり抜けちゃうんじゃね?


なんだテンプレかよ。

急に我に返って冷静さを取り戻したヨシハル。


「なぜっ!なぜにそんなにあちきを拒むのでありんすか!」

激高する幽霊美女。


拒むも何も、何もしていないから仕方がない。


「こうなれば力尽くでありんす!」

幽霊美女の気配が変わった。


ゴォオオオオ・・・。


幽霊美女の顔は般若の形相に変わった。


そして、露天風呂のお湯が宙に浮かび始める。

まさに心霊現象。

ポルターガイストだ。


「うん。もう終わらせるとしよう。」


ヨシハルは美女から般若に変わった幽霊に向かって手を翳した。

すでにヨシハルのヨシハルは萎えている。


浄化じょれいしちゃうぜ!」

ヨシハルは光の属性魔法を行使しようとした。


それを見て慌てふためく幽霊般若。

その顔は元の幽霊美女に戻っていた。


「待って!駄目!駄目でありんす!殺生でありんす!」


地べたに両足を伸ばして上半身だけを起こし、左手親指を口に咥える幽霊美女。

なめかましいポーズではある。


殺すも何も、お前死んでんじゃん!と容赦する気のないヨシハル。


「お願い!お願いでありんす!どうか、どうかご慈悲を。」


必死な幽霊美女の様子を見て、ヨシハルは一旦手を止めることにした。


元に戻った露天風呂の穏やかな水面。


ちゃぽん。


ヨシハルは肩までお湯に浸かった。

もちろん、絶望の脇臭オーラが放たれた為である。

ついでにフェロモン脇臭オーラも。


その様子を目を潤ませながら見つめる幽霊美女。

一方のヨシハルは、またわきを二度洗いしなきゃいけないじゃんか!と、心の中ではご立腹。


・・・・・・・。


・・・・・・・。


お互いに声を発することなく、不思議なが続いた。


「おい。変なことをしたらすぐに消すからな。」

「承知しているでありんす。」


がっくりと肩を落としている幽霊美女。

その透けた全裸を見ていると、またも元気ハツラツになりそうな予感がして、ヨシハルは言った。


「とりあえず、その格好をどうにかしてくれ。」

「これでは駄目でありんすか?」


「ああ。」

「承知したでありんす。」


幽霊美女は姿を変えた。


その姿は10歳くらいの女の子。

太ももには三日月の印。

やはり全裸。


「ストーーーーーーーーーップ!!!!!」


ヨシハルが言った言葉の意味はそれではない。

服を着ろという意味である。


小さな女の子は絶対ダメ!!

本人にその気は全くないが、モラル的に絶対ダメ!!


「違う!服を着ろという意味だ。早く服を着ろ!!」

「そっちでありんすか。少し期待したでありんす・・・・。」


渋々、どこからか着物を取り出して、それを身に着ける幽霊美女。

いや、幽霊少女。


「その姿だと話し難いから、大人になってくれないか?もちろん服を着たままだぞ。」

「従うでありんす。」


幽霊少女は、幽霊美女に姿を変えた。


「それで?お前は幽霊だろ? この屋敷に憑り付いてるのか?」

「あちきは幽霊とは違うでありんす。」


「??」

「あちきのことを説明させて頂くでありんす。」


幽霊美女の説明によるとこうだ。


幽霊美女の名前はミカズキ。

あの三日月の飾りがついた黒いかんざしが、その正体であるそうだ。


長年大切に扱われた物には魂が宿る。

その現象を付喪神ツクモガミと呼び、ミカズキは何と付喪神ツクモガミであるとのことだ。


この屋敷の主は伯爵であった。

とても聡明な誰からも慕われる貴族であったそうだ。


その伯爵に嫁いだのが、黒いかんざしの持ち主であった女性である。


その女性は、幼き頃から黒いかんざしを大切に扱ってくれていたそうだ。

しかし、そこに悲劇が起こった。


伯爵が事故で亡くなったのである。

結ばれてからすぐに未亡人となった女性。


その女性は心に病を抱えてしまった。

それからの未亡人は男に救いを求めるかのように狂った。


毎晩毎晩、男をとっかえひっかえして抱かれたそうだ。

寂しさを埋めるが故。

伯爵を思うが故。


その姿をいつも見ていたミカズキ。

心が壊れていく女性を見てずっと涙していたらしい。


際限なく男に貢いで散財してしまった未亡人。

屋敷の従者たちは、彼女を見放して全員が逃げ出してしまった。


1人きりとなった未亡人。

お金を無くした彼女を相手する男は誰もいなかった。


1人寂しく最後を迎えようとしていた未亡人は、最後に黒いかんざしを手に取った。

三日月の飾りを優しく撫でる。


そして、先の尖ったところを己の首元に向けた。


必死にそれを止めようとするミカズキ。

その時、付喪神ツクモガミはこの世に生まれた。


黒いかんざしに魂が宿ったのである。

いや、もっと前から魂は宿っていたのかもしれない。

ミカズキの姿かたちが作られたのが、この最後の悲劇の瞬間であった。


未亡人が、その首に黒いかんざしを突き刺そうとする。


やめてーーーーーっ!!


ミカズキは叫んだ。

誕生したてのミカズキの声が、未亡人に届いたのかは分からない。


未亡人はその手を止めた。

ふっと寂しく笑うと1粒の涙を流す。


ベッドに横になった未亡人。

そして、そのまま息絶えたのである。


それからすぐに屋敷の持ち主は変わった。

新たな持ち主がやって来たのである。


自分がどうしたら良いのか分からないミカズキ。


ミカズキは、黒いかんざしの持ち主であった未亡人が、男に救いを求めた気持ちを知りたかった。

男に抱かれてみたいと思ったのである。


しかし、人間にとっては、ミカズキは身の毛もよだつ幽霊以外のなにものでもない。

ミカズキが姿を見せた途端に絶叫した新たな屋敷の持ち主。


すぐに屋敷は売り払われた。

そして次、そのまた次と同じことを繰り返す。


最後の持ち主は、屋敷内の家具や調度品を全て売り払ってから出て行った。


ガランとしてしまった屋敷の中。

その中にポツンと1人のミカズキ。


ある夜、窓の外から見える満月を見ていた。

自分は満月になれない。

そして、三日月にもなれない。


ただの好き物。

だから、ミカヅキではなくミカズキ。


それからこの屋敷には誰も来なくなった。

何年も何十年も。


1人。


ミカズキは心に決めていた。

この寂しさから解放されるのなら、次に屋敷の持ち主として来た人の前には姿を現すまいと。


そう心に決めて、1人寂しく待っていた。


そこに現れたのがヨシハルたち一行。

ミカズキは嬉しかった。


屋敷の中を見て回る一行の姿。


その中でミカズキの目に留まったのは超イケメン。

ヨシハルである。


ミカズキの胸は躍った。

抱かれたい!あの殿方に抱かれてみたい!

そう思う気持ちが抑えきれない。


ヨシハルたちがお風呂に入った。

それをこっそり覗いていたミカズキ。

ヨシハルのヨシハルを見たミカズキの気持ちは、もう歯止めが利かなかった。


そして、現在。


ミカズキは、屋敷の入口で皆の帰りを待っていた。

皆が帰ってくるか心配だったのである。


皆が屋敷に戻ってきてから、たった1人で風呂場に向かったヨシハル。


まさに絶好のチャーーーーーーンス!!

そうミカズキが思ったのは、言うまでもない。


そして、ミカズキの願いはここで成就されるはずであった。

まさか透けて触れないなんて思ってもいなかったというのだ。


「なるほどな・・・付喪神ツクモガミね。」

ヨシハルは両手でお湯をすくって顔を洗った。


「だから、あちきはまだ生娘でありんす。」

親指を口に咥えて、目を潤ませるミカズキ。


・・・・・・。


「それで、お前はどうするんだ?俺たちの邪魔をするなら、悪いが消えてもらうぞ。」

「抱いてほしいでありんす。」


「無理じゃん。無理なことがもう分かっただろ?(残念だけど)」

「・・・では、おそばに置いて欲しいでありんす。1人はもう耐えられないでありんす。」


そばに置くって言ってもなあ~。」


その時、急にプンと酒臭くさい匂いが漂ってきた。


鼻をつまんだヨシハル。

それは全身泡だらけで洗い流すのを忘れているウォーレンが、ふらふらになって露天風呂に来たからであった。


「ウォーレン!湯船はダメだ!酒を飲んでるから身体に悪い!」

「おっ!?ヨシハルじゃねえだかぁ~!おっ!?それにベッピンな姉ちゃんもおるがな~。ぐがぁ~。」


そのまま地べたに転んで、イビキをかいて寝てしまったウォーレン。


ぶっ!

屁をこいた。


「お前、風邪ひくぞ?まったく。」

仕方なくウォーレンにお湯を掛けて、身体中の泡を洗い流すヨシハル。


「それにしても酒臭くさいな。いくらなんでも飲み過ぎだろう。」

鼻をつまむヨシハル。


その横で、ミカズキはキョトンとして座っている。


「ミカズキ、お前は酒臭くさくないのか?」

酒臭くさいとは何でありんす?」


「お前、もしかして匂いが感じないのか?」

「匂いとは何でありんす?」


キラン。


ヨシハルの目が光った。

どうやら付喪神ツクモガミは匂いを感じることがないらしい。


それならば、ミカズキには絶望の脇臭オーラを隠す必要がない。

それにフェロモン脇臭オーラも出さずに済むだろう。

(人間の女性じゃないから)


「ミカズキ、お前は何か特殊な能力を持っているのか? 魔法とかさ。」

「あちきは、なんの力も持ってないでありんす・・・。」


「何かあるだろ?」

「出来ることとすれば、こんなことくらいでありんす。」


ミカズキが手を翳すと、ぐったりとして眠っているウォーレンの身体が宙に浮いた。


「おお! 念力アンプサイかっ!やるじゃないか!」

「そうでありんすか?」


褒められた喜びで少し頬を赤らめるミカズキ。

透けてるけど。


人間の女性なら、とても愛おしいと思える表情だ。

だが、ミカズキは付喪神ツクモガミ

人間ではない。


よし。

ヨシハルは決心した。


ヨシハルはミカズキに伝えた。


自分は勇者であり、魔王を討伐する使命を持っているということ。

だから、お前は勇者パーティーの一員になれと誘ったのである。


喜んでそれを引き受けるミカズキ。


ヨシハルの気持ちはどうであれ、ミカズキはヨシハルに恋をしてしまった。

究極の片思い。

その恋する相手と行動を共にできるなんて夢のようである。


そして、ヨシハルはまさかの意外な行動に出た。


自分がワキガであることを告白したのである。


付喪神ツクモガミとはいえ、ミカズキは女性。

ヨシハルが異性にそのことを自分から打ち明けるのは初めてのことであった。


「だから、俺はこの絶望の脇臭オーラを隠し通さねばならん。いいな、その為にお前は俺に協力してくれ。」

「承知したでありんす。あちきの全ては貴方あなたのものでありんす。」


匂いが分からないミカズキにとっては、何のこっちゃかよく分からない。

それでも、ヨシハルが自分を頼ってくれていることが嬉しかった。


「よし。決定だ。」

「よろしくでありんす。またあちきのからだが見たければ、いつでも言っておくんなまし。」


・・・・・・。


・・・・・・。


「いらん。遠慮しておく。」


ちょっと間があったことはご愛敬。


こうして、ワキガ勇者のパーティーに新たな仲間が加わった。

付喪神ツクモガミである。


こうして、この日の夜は更けていった。

そして朝を迎える。


その日の朝は、本当は早朝から南部の街に行く予定にしていた。

しかし、二日酔いのウォーレン。

なかなか朝目覚めることができない。


かなりの時間をロスしてしまっていたのである。


それは運命を変えた。

1つの絶望が未来に変わり、1つの未来が絶望に変わることになる。


1人だけ遅くなった朝食を食べるウォーレン。

まだキッチンの準備が出来ていない為、近くの店でビッツが買ってきてくれたものだ。


「飲みすぎたあ。それにしてもな、昨日べっぴんな女を見た気がするんだがなあ~。」

もしゃもしゃと朝食を口に頬張りながら頭を掻くウォーレン。

まだオールバックに整えていない為、その頭はボッサボサである。


そろそろ、皆にミカズキのことを紹介しようか。

ヨシハルが着ている襟付半袖シャツの胸元には、サングラスを引っ掛けるようにして黒いかんざしがついている。


それはミカズキ。

因みにミカズキは自分で動くことが出来る。

しかし、好きな人の胸元にいることが幸せ。


ミカズキはこの屋敷から外に出たことがない。

外の世界を知らないから、外に出るのは足がすくむほど恐ろしい。


でも、この人と一緒ならどこへでも行ける。

そう思っていた。


「ヨシハルの旦那ぁ~。」

ビッツが駆け寄って来た。


「どうした?」

「それが、屋敷の前に薄汚れた野良犬がやってきて、追い払っても動かねえんでやすよ。」


「犬?」

ヨシハルとウォーレンは、その動かないという野良犬を見に行くことにした。


屋敷の入口扉前で横になっている犬。

全身が薄汚れているが、その毛色は恐らく白色であろう。


首には黄色の首輪があり、そこにはメッセージが刺繍されている。


- アナーシア&愛しのバウ -


黄色い首輪に刺繍された文字の内容、そして犬の毛色は白。

ヨシハルはすぐにピンときた。


「お前。あの時、魔除石像ガーゴイルに噛みついていた犬だな。名前はバウか?」

「バウッ!」


立ち上がってヨシハルを見る。

鼻をすんすんさせると、ヨシハルの胸元を見て威嚇を始めようとする。


どうやら、ミカズキの存在に気付いているらしい。

やるな。

ちょっとだけバカっぽい顔をしているが・・・・まあ、愛嬌か。


「お前。アナーシア王女の居場所が分かるか。」

「バウッバウッ!(力を持つ者の匂いがしたからここに来た)」


「そうか。王女の場所まで連れて行ってくれるか?」

「バウッバウッ!(我に力を貸せ下僕)」


「よし!すぐに準備しよう。それにしてもお前、汚いし匂うぞ?」

「バウッ!(お前も匂うぞ)」


「よくやった。必死でここまでたどり着いたんだな。」

「バウッ!(お前の匂いがしたからな)」


「よし!すぐに準備を整えよう!その間にお前は風呂で洗ってやるからな。」

「バウッバウッ!(まずは何か食わせてくれ、腹が減って動けん)」


微妙に何かが食い違ってはいるが、結果オーライなワキガ勇者とバウの会話。


「すごいなヨシハル。犬とも会話できるのか。」

「まあな。これも勇者の力かもな。なあバウ。」

「バウッ!(はよ食わせろ下僕)」


ヨシハルとウォーレンが準備を整えている間、ビッツがバウを風呂で洗った。

何度も頭突きをかまされて、大変な目にあったビッツ。

最後にバウが身体を震わせて水を弾くと、ビッツの全身はびちゃびちゃであった。


その後、すごい勢いで食事を平らげて水をがぶ飲みしたバウ。

ここまで一目散に走ってきたことが、その様子から見て取れたのであった。


準備が整ったヨシハルとウォーレン、そしてバウ。

屋敷の掃除や買物は仲間たちに任せて、王女の捜索に出立することにした。


「よし!俺たちを王女の下に連れて行くんだバウ!」

「バウッバウッ!(俺様についてこい下僕)」


バウが走り出した。


ヨシハルは、自分とウォーレンに無属性魔法を掛ける。

速度上昇と筋力強化である。


ヨシハルは、バウにも無属性魔法を掛けてみた。

「バウ?」


一瞬驚いたバウ。

しかし、それも束の間、すごい速さで街中を駆けていく。


必死で食らいつくようにその後をつけるヨシハルとウォーレン。


これは、どこかで制汗タイムにしないとアウトだな。

ヨシハルとウォーレンはそう思っていた。


王女アナーシアを救うべく走り出したワキガ勇者とワキガ戦士、それと付喪神ツクモガミ

もし、ウォーレンが二日酔いで寝過ごしていなければ、彼らはすでに南部の街へと向かっていたであろう。

だが、バウと勇者はここにいる。


全ては運命。

この運命の結末は如何に。

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