第15話 ワキガ勇者が嘆息する
とても、気まずい。
ミカズキは人ではなく、付喪神である。
だから、ヨシハルはミカズキのことを異性として意識していない。
……はず。
でも、すっごく元気になっちゃった。
何でだろうなぁ~w
ヨシハルは、何だか自分が情けなくなってきた。
ミカズキの裸を見ると、転移前に見た叡智系動画が頭に浮かぶ。
見ている最中は良いのだが、その後になぜか無性に切なくなるのが男。
そんな感覚を思い出してしまうので、ミカズキの裸を見ても嬉しいとは思わない。
でも、元気。
一方のミカズキは、半透明の顔をほのかに赤らめていた。
そして、何かを期待するようにソワソワしている。
期待したところで、透ける身体では触れることさえ出来やしないのだが。
ミカズキは、自分の恋心が叶わないことを知っている。
でも、一途。
ありんす言葉の話し方が多少ウザいだけで、外見も中身も素敵な女性である。
しかし、人ではない。
「はあw」
小さく溜息をついたヨシハルは、自分の腰にタオルを巻いた。
「もう…終わりでありんすか?」
「終わりも何も、はじめから何もないだろ。お前も早く服を着ろよ。」
ヨシハルに素っ気なく言われて、シュンとするミカズキ。
自分のことをモノと同じように思われていることは、何となく感じている。
事実、ミカズキは黒い簪。
モノである。
でも、ヨシハルを一目見た時からミカズキは恋に落ちた。
その想いは、昨日よりも今日、より強く深まっている自分がいる。
昨日の夜は、ずっとヨシハルの寝顔を見ていた。
それが嬉しかった。
すっと一人で寂しかった真っ暗な夜。
とても嫌な時間だった。
それが、あんなにも早く朝が訪れる時間へと変わるなんて…。
あちきは今、きっと幸せなのだろう。
好き。
しかし、その想いの矢が、ヨシハルに刺さることはない。
ヨシハルのヨシハルは、すでにノーマルモードに戻っている。
そして、やっとこさ、ヨシハルは足元に気付いた。
幼げな女の子が倒れている。
その赤毛の頭にはケモミミ。
……。
「誰?」
ヨシハルはケモナーではない。
だから、ケモミミを見てテンションが上がるタイプではない。
どちらかと言えば、大人の女性が好み…と、思い込んでいるタイプである。
しかし、男が言う好きな女性のタイプというものほど、信用ならないものはない。
大抵はただの思い込み。
結局、好きになる人は、全く違うタイプでしたというのがセオリーである。
ましてや、ヨシハルは異性と付き合った経験すらない。
だから、いつ、どこで、誰に恋してしまうのか分からないものである。
唯一の障害はヨシハル自身の心。
だって、゛がつく悩める勇者だもん。
とはいえ、今のところは、ヨシハルはケモミミに全く興味がない。
そして、ロリコンでもなかった。
「ミカズキ、この子を知っているのか?」
「いいえ、あちきも初めて見たでありんす。」
「参ったな…。とりあえず、ここに寝かせておくのは可哀想だな。」
「屋敷の中に運ぶでありんすか?」
「ああ。悪いけど頼めるか?」
「承知したでありんす。」
ミカズキが念力で、ニチカの身体を宙に浮かした。
「おーい! ウォーレン! 俺は先に出るぞ…って、あいつ…寝てないか??」
風呂イスに腰を掛けたまま、前のめりになってウォーレンは眠っている。
豪快なイビキが風呂場の中には響いていた。
ぶっ!
ウォーレンがおならした。
「おいおい。すぐに出ないといけないだろ。呑気な奴だな…。」
すでに夕暮れ時である。
しかし、ワキガ勇者とワキガ戦士には、新たな用事が出来てしまった。
しかも、本来であれば、すぐに行く必要がある用事である。
それなのに、先にお風呂に入っちゃうところが、絶望の脇臭持ちのお茶目なところ。
もちろん、風呂上がりの制汗タイムもきっちりと。
「ミカズキ…悪いけど、ウォーレンも頼めるか?」
「承知したでありんす。」
ぐったりとしたウォーレンとニチカの身体が、ふわふわと宙を浮遊して動く。
この後、ミカズキの存在をまだ知らされていなかった仲間たちが、大声で発狂してしまうことは言うまでもない。
しばらくして。
「ん…ん?」
ニチカは目を覚ました。
すぐにハッと我に返って、焦って辺りを見回そうとする。
その目の前にいたのはミカズキ。
あっ、はっ。やっぱオバケw
ちょっと悩ましい声を出したニチカ。
そして、また気絶した。
その頃。
ヨシハルとウォーレンは、衛兵の詰所に向かっていた。
半分寝ぼけているウォーレンの足取りは、若干の千鳥足でフラついている。
「おいおい、義憤のウォーレン。どうした?疲れてるのか?」
「うむ? うむ~。どうも眠くて仕方ないぞ。何でだろうな?」
「2日続けて、謁見の間で大勢の人に囲まれてしまったからな。 俺たちの疲れは人一倍……まあ、疲れが出ても不思議じゃないな。」
「うむ。あれは、本当にギリだな。そういえば…。」
「どうした?」
「我は…風呂場でちゃんと二度洗いしたかな?」
「大丈夫だろ。三度洗いするとか言ってたぞ。」
「そうか…寝てしまったから、どうも記憶にないな。」
周囲の目線を気にしながら、さり気なく距離を縮める2人。
決して怪しくない程度にくっついた。
もちろん、チェックするためである。
「大丈夫だ。安心しろ。」
「そうか?なら良かった」
【絶望の脇臭レベル】
――――――――――――――
Lv.0 □□□□□□□□□□ Lv.10
――――――――――――――
レベル0。
今のところは無臭。
どちらかといえば、石鹸のほのかな良い香り。
だが、しかし!!
次の日の朝、ウォーレンは大きな絶望で頭を抱えることとなる。
それは、絶望の脇臭持ちの誰もが経験する苦難であり、悩めるワキガ戦士も当然のこと経験する道なのであった。
そして、ヨシハル。
そのヨシハルも、次の日の朝に小さな苦難が訪れる。
゛がつく悩みは色々とあるものだ。
それは明日の朝の話。
明日の朝のことなど知る由もない2人は、今のところまだ幸せ。
そんなこんなで、衛兵の詰所に到着した。
新たな用事。
ここに来なければならなかった理由。
それは、ビッツが逮捕されていたのである。
時はお昼まで遡る。
キラン☆
ビッツのつるっぱげ頭は、今日も光り輝いている。
お昼に食べたお肉が、すきっ歯に挟まっているのだが、そんなの気にしない。
それがビッツである。
「じゃあ、俺は行ってくるぜぇ~!」
「お前一人で、本当に大丈夫か??」
「おいおい。ガキじゃあるめぇし、変な心配すんなや。」
「何かなあ…。」
「まあ、ちゃちゃっと行って、ちゃちゃっと帰ってくるからよ。」
「何か…さっきから、フラッグが立っている気がするんだよな~。」
仲間たちの不安そうな目を全身で浴びながら、ビッツは屋敷から外に出た。
ビッツのお使いである。
そのお使いは、深紅乃奇跡の換金であった。
賑わっている王都の街中をキョロキョロしながらビッツが歩く。
あちらこちらで出店が出ており、食べ物の良い香りがところどころから漂ってくる。
しかし、ビッツは大人。
そんな寄り道なんてするわけ……あった。
お昼を食べたばかりなのに、屋台で買い食いをするビッツ。
この男にお使いを任せた仲間たちの判断が、すべての元凶であった。
モグモグと口を頬張らせながら、深紅乃奇跡を売るのに良さげな商店を探す。
深紅乃奇跡の価値は、その葉1枚で金貨200枚は下らない。
だから、ある程度は大きな商店でなければ、モノを買い取ってもらえないのだ。
「よし。あれに決めた。」
指に残った食べかすをしゃぶると、ビッツは目星を付けた。
- 六ツ星商会 -
看板にはそう書かれている。
その建物は、周りの建物よりも明らかに豪華な造りで巨大である。
普通の人ならば、その扉を開けることさえ躊躇うほどの風格であるが、ビッツはそんなの気にしない。
普通に扉を開けて、普通に中に入り、普通にドカドカと奥へと進んだ。
その普通が、一流の商会では普通じゃないのだが…。
店内の警備係が組織的に動き出す。
そんなことお構いなしに、ビッツはカウンターまで歩くと、女性スタッフに声を掛けた。
「よう。調子はどうだい?」
改めて説明するが、ビッツは見た目と言葉遣いはあまり良くないが、とても気の良い奴である。
でも、世間的にはそう見られない。
どちらかと言えば、小悪党である。
「ご用件をお承りします。」
淡々と接客する六ツ星商会の女性スタッフ。
ふっくらした体系の中年女性。
ビッツの後ろでは、警備係が次々と集まってきているのだが、ビッツはそれに全く気付いていない。
いや、気にしていない。
「姉ちゃん。こいつを買い取ってくれるか?」
そう言って、ビッツはカウンターの上に深紅乃奇跡を1枚置いた。
それを見た女性スタッフが目を丸くする。
「お…お客様…。これをどこで?」
女性スタッフは、深紅乃奇跡を見て驚いたのではない。
どう見ても小悪党と思われる輩が、とても貴重な深紅乃奇跡を持っていたことに驚いているのである。
だが、ビッツは勘違いして得意気になってしまった。
「へへへ。まだあるんだぜぇ。」
そして、もう1枚持ってきていた深紅乃奇跡を、これ見よがしにカウンターの上に置く。
その後ろでは、警備係が大集合していた。
でも、全く気が付かない…気にしないビッツ。
女性スタッフの後ろから、上役と思われる身なりの良い男性スタッフが歩いてきた。
その男性スタッフがビッツに尋ねる。
「お客様。失礼ですが、これをどこで入手されたのでしょうか?」
「へ?」
ビッツは考えた。
ヨシハルの旦那の名前を出したら、もしかすると何か迷惑を掛けるかもな…。
よし、適当に誤魔化すとするか。
「まあ、小さいことは気にしなさんな。」
ますます怪訝そうな目をビッツに向ける男性スタッフ。
「いえ、とても大きなことです。大事なことですのでお答え願えますか。」
「ん~。そうだな‥。」
さすがにちょっとマズいかな?…と、ビッツは思った。
だが、そこはやはりビッツ。
「まあまあ。小さいことは気にしない。大きいことはわかんな~い。ってな。」
そう言って、笑顔でウインクをしたビッツ。
次の瞬間、その場で警備係に取り押さえられた。
「え? 何で? ちょっ? へっ?」
本当に憎めない奴である。
そのままビッツは、六ツ星商会から通報を受けた王国の衛兵に引き渡されることとなった。
後ろ手に縛られ、馬車の檻に詰め込まれてしまう。
「ちょっ!タンマッ!ごめん!ごめんって!!」
必死に訴えるビッツ。
悲しいかな、その姿は逮捕された小悪党にしか見えない。
檻に顔をねじ込んで必死に叫ぶビッツ。
しかし、誰も相手をしてくれる人はいない。
ゆっくりと馬車は動き出した。
THE END
ビッツの脳裏にその言葉が浮かぶ。
「ちょっ!旦那~!!ボス~~!!助けてぇ~~!!」
そのビッツに声を掛ける者がいた。
檻の中にはもう一人、捕らわれた者がいたのである。
「窃盗かい?」
「ち、ちゃうわい!」
その声の主は、年老いた男性であった。
白髪の長い髪はボサボサであり、皺だらけの顔は日に焼けて黒い。
深緑色の汚れたローブを身に纏っているが、所々に破れが目立っている。
「諦めなされや。これもまた運命。」
「いや、いやだーーー!!」
こうして、ビッツは衛兵の詰所まで連れていかれると、そこにある牢獄にぶち込まれた。
もちろん、皺だらけの老人も一緒。
必死に自分のことを衛兵に説明するビッツ。
だが、残念ながらワキガ勇者とワキガ戦士は、王女救出の真っ最中である。
すぐに迎えに来てくれることはない。
もしかしたら、数日、いや数週間先になるのかも。
そう考えると、不安が大きく込み上げてきて、しくしくと泣いてしまうビッツ。
救いにも、王女救出はその日のうちに達成された。
夕暮れに屋敷に戻ってきたワキガ勇者とワキガ戦士が、先にお風呂に入ってからここに来たことをビッツは知らない。
知らない方が幸せだ。




