第12話 ワキガ勇者が赤面する
「王女様!ご無事ですかっ!」
駆けつけてきたポルファス王国の騎士たち。
それは、機動力に勝っている竜騎士の一団であった。
騎士たちの報告によれば、空に放たれた魔法の合図を確認して、すぐにここに駆けつけたそうである。
そして、上空には数多くの飛空艇が待機しているらしい。
この場から逃げ出したマルカーノの腹心ら残党は、古井戸の外で捕らえたとのことであった。
どうやら、これで無事に解決したようである。
因みにミカズキは、ヨシハルの胸元にある黒い簪に戻っていた。
無闇やたらに幽霊騒ぎを起こす必要はない。
その辺りの気を遣えるのがミカズキである。
その時。
「あぁあ・・・あ・・・。」
壁際でへたり込んでいたマルカーノが呻き声を上げた。
ぶくぶくと太った身体が更に膨れ上がると、その場に生じたのは空間の歪み。
只事とは思えない状況だ。
「何だ!?」
警戒したヨシハルは、両手にヘクスカリバーを握った。
空間の歪みから現れたのは丸く黒い影。
細い目と大きな口だけが白く、口の左右には鯰のように黒く長い髭が2本垂れさがっている。
「なっ!?」
「魔王の使い!?」
「闇の婢僕!?」
「神出鬼没の亡者!?」
口々に叫ぶ騎士たち。
ヨシハルの頭の上には?(ハテナ)が浮かんだ。
皆がバラバラのことを叫んだのでよく分からないが、魔王の使いで闇の婢僕で神出鬼没の亡者であるということなのだろう。
「ギャギャギャギャッ。」
不気味に笑う丸く黒い影。
「うぇ・・うぉ・・・あぁ・・・。」
マルカーノが、苦しみ悶えてえずく。
その口の中からは、気色の悪い色をしたものが這い出てきた。
でろん
這い出てきたものは、芋虫のような何か。
その芋虫の触手には、白く光り輝いた揺らめくものが握られている。
その芋虫のような何かを手で掴むと、丸く黒い影は口を開いた。
「チノチギリニヨリ、タマシイヲモライウケル」
丸く黒い影は、白く輝いた揺らめくものを握る芋虫を空間の歪みの中に放り投げた。
マルカーノは、大きく口を開けたまま白眼をむいている。
どうやら絶命しているようだ。
丸く黒い影は、自分の漆黒の身体の中に手を入れると1枚の紙を取り出した。
それをその場に投げ捨てる。
ヒラヒラと舞い落ちたその紙には、血の契りと呼ばれる判が押されてあった。
「マルカーノの奴め、魔王と契約してやがったようだな・・・。」
その紙を手に拾ったウォーレンが呟く。
ヨシハルに一瞥をくれた丸く黒い影。
そして、ニヤリと不敵に笑うと空間の歪みの中にその身体を投じようとした。
その時。
「バウッ!」
バウが吼えた。
そして、丸く黒い影に飛び掛かっていく。
ガブッ。
「ンギャ?」
細い目を大きく見開いた丸く黒い影。
ガブガブ。
「チョッ!? ワタシ、タベラレテマスケド!?」
丸く黒いにバウがかぶりつく。
「チョッ!ウソ!?ダメ・・・イヤン・・・ハァンw」
ゲフッ。
丸く黒い影をバウは豪快に全部食べきってしまった。
それと共に消えた空間の歪み。
・・・・・・。
・・・・・・。
おいおい。
あれを食べちゃったぞ?
大丈夫なのか??
全員がキョトンとしてバウの姿を見る。
王女アナーシアは、驚きと心配でへなへなとその場に座り込んだ。
バウは、腹一杯で満足という顔をしている。
そして、テコテコとヨシハルの下に歩いていった。
『おい、下僕。』
??
ヨシハルには、どこからともなく声が聞こえた。
首を傾げるヨシハル。
『俺様だ。下僕。』
まさか・・・。
ヨシハルは、足元に歩いて来たバウの顔を見た。
『姫がもう限界だ。お前の家に戻るぞ。』
バウだ。
間違いなくこいつが喋っている。
それも、ヨシハルの心の中なのか頭の中なのか、耳から聞こえる声ではない不思議な声で喋りかけてくる。
「お、お前・・・と、とりあえず・・・あれを食って大丈夫なのか?」
『心配には及ばん。俺様は聖獣だ。闇なら幾らでも食える。』
「へ?」
『さっきの闇は、なかなかの力を持っていたようだ。俺様のような聖獣は、闇を食えば自分の力に変えることができる。』
んな、アホなーーーー!
テンプレではあるのだが、このタイミングは予想だにしていなかった。
『それよりも、今すぐお前の家に帰るぞ。』
「い、いや・・・今すぐ帰ると言ってもだな・・・。」
『さっきの闇から得た力の一つがこれだ。とても便利だぞ。』
バウは、ヨシハルの目の前に空間の歪みを作り出した。
『これに入れば、お前の家まで一瞬だ。便利だろう?』
舌を出して得意そうな顔をするバウ。
『俺様についてこい!』
そう言って、バウは空間の歪みの中に飛び込むと姿を消した。
キョロキョロと周りを見回したヨシハル。
状況が全く理解できず、呆気に取られながら立ち尽くしている周りの騎士たち。
その時、ヨシハルは見た。
ウォーレンだけは、陰に隠れて自分の脇の匂いを確認してやがる。
あいつ。
ここぞとばかりに1人で抜け駆けしてやがるな。
ヨシハルは、恐る恐る空間の歪みに足を踏み入れてみた。
一瞬だけ眩い光に包まれる。
すると、その場にいたのはビッツであった。
手に持っていたと思われる色々な物を床にぶちまけており、腰を抜かした姿で怯えている。
「ひっ!あっ!? ヨシハルの旦那??」
どうやら、間違いなくここは我が家のようである。
『おい、下僕。』
「す、すごいな。瞬間移動じゃないか・・・。」
『だろう? だから、お前は早く姫を連れてこい。』
「あ・・あぁ。分かった。」
『それとな。』
「何だ?」
『俺様が聖獣であることは姫には言うな。内緒だ。この力は下僕、お前の力だということにしておけ。』
「お? おう・・・ちょっと待て・・今思ったが、何で俺はお前に下僕扱いされてんだ?」
『そんなことより、早くしろ。お前もだいぶやばいぞ?』
「何がだ?」
『お前が気にしている絶望の脇臭に決まっているだろう。』
「それはいかん!!」
すぐにまた、ヨシハルは空間の歪みの中に飛び込んだ。
そこはもちろん、古井戸の底である。
かなり苦しい説明ではなるが、ヨシハルは急ぎ口調で騎士たちに状況を伝えた。
勇者の新たな力で自分の家に瞬間移動することが出来るみたい。
だから、王女様を先に我が家に連れて保護することにするね。
だから、我が家まで王女様を迎えに来てちょうだい。
我が家の住所は知らないから、情報屋ヘイブルで聞いてちょうだい。
じゃあ、お先に!
絶望の脇臭を隠すには、もはや限界が来ている。
これ以上、ここでモタモタしているわけにはいかないのだ。
ヨシハルは、空間の歪みの中に嫌がるウォーレンを蹴り入れた。
そして、アナーシアの手を引くと自分も空間の歪みにその身を投じたのであった。
それと共に消え去った空間の歪み。
唖然として立ち尽くしていた騎士たちであったが、すぐに我に返ると各々が行動を起こすことにした。
キョロキョロと家の中を見回すウォーレン。
バウにしがみつく王女アナーシア。
まだ腰を抜かしているビッツ。
ヨシハルは、アナーシアに笑顔を向けて優しく語り掛けた。
「ここは我が家です。安心して下さい。」
「は・・・はい・・。」
「我が家には天然温泉があります。もし宜しければ、今から入られますか?」
「は・・・はい・・ぜひ・・。」
アナーシアを浴場まで案内するヨシハル。
その足元では、バウがウッキウキで飛び跳ねながら尻尾を振り回している。
さすがに王女様と混浴というわけにはいかない。
王女とバウだけで、先に風呂に入ってもらうこととなった。
身に纏っていたシーツを丁寧に折り畳むアナーシア。
そして、その場に置かれていたタオルを1枚手に取ると、浴場の中に足を踏み入れた。
「素敵・・・。」
浴場の中を見て、アナーシアは目を輝かせる。
その横で、真っ先に湯船に向かって駆けだそうとしたバウを引き留めた。
「バウ、だめよ!ちゃんと身体を洗ってから!」
シュンとするバウ。
アナーシアは、バウの身体を石鹸で泡立ててから丁寧に洗った。
最後にバウの口を両手で大きく開けると、口の中を隅々まで覗き見る。
「バウッ?」
不思議そうにするバウ。
「異常はなさそうね。もう、変なものは食べちゃだめよ!分かった?」
「バウッw」
バウは湯船に豪快にダイブしすると、楽しそうに犬かきで泳ぎはじめた。
それを見てほほ笑んだアナーシアは、自分の身体を洗うことにした。
真っ先に洗うのは、顔でも頭でもあそこでもない。
もちろん脇だ。
きちんと二度洗いも忘れずに。
アナーシアは、自分がワキガであることを知っている。
だから、絶望の脇臭持ちの入浴に於ける掟を弁えているのだ。
全身を洗い終えたアナーシアは、和風のしつらえになっている露天風呂に浸かることにした。
お湯の中に肩まで浸かる。
身体が温まると、自ずと色々なことを思い出してしまう。
バウのこと。
悪漢に穢される寸前であったこと。
悪漢に蔑んだ目で臭いと笑われたこと・・・・。
両手首にある擦り傷を撫でる。
それは、鉄の錠で繋がれたことでできた傷である。
助かった。
助かったのに・・・。
どうしても気分は落ち込んでしまう。
そんなアナーシアの様子を心配したバウが、勢いよくダイブしてきた。
激しく飛び散った水飛沫がアナーシアの顔を濡らす。
「もうっ!」
頬を膨らませて怒りながらも、アナーシアがバウを自分に引き寄せる。
そして、もう一度強く抱きしめた。
「バウッ・・・。」
王女の手首の傷を舐めるバウ。
そして、チラッとアナーシアの後ろに視線を移すと、もう一度小さく吼えた。
「バウッ。(ありがとうな)」
「どういたしましてでありんす。」
その声を聞いて驚いたアナーシアは、すぐに後ろを振り向いた。
そこに立っていたのは半透明のミカズキである。
もちろん裸。
いや、なぜか裸。
ミカズキは、湯船のへりにある石の上に腰を掛けた。
そして、すらっと長く美しい脚を湯船の中に沈める。
湯船に沈んだ半透明の足は、水音がしなければ水面が揺らぐわけでもない。
「あの・・・危ないところを助けて下さいまして、本当にありがとうございました。」
「無事で何よりでありんす。」
「あの・・・私、アナーシアと言います。その・・・。」
「あちきの名前は、ミカズキでありんす。」
「ミカズキさんは・・・その・・・。」
「あちきは付喪神でありんす。」
「バウッ!(ただの変態だ)」
「変態ではないでありんす。」
「付喪神?」
「そうでありんす。そして、貴女とは恋のライバルでありんす。」
女の恋心は先手必勝。
先に行ったもん勝ちよ!という顔をするミカズキであった。
しかし、アナーシアの恋の暴走超特急も負けてはいない。
乙女同士の会話が続く。
そして、ワキガ勇者に恋する乙女同士、なぜか意気投合していく2人であった。
その浴場の外で、ずっとソワソワしているのはヨシハルとウォーレンである。
それは、王女の裸を覗きたいからではない。
自分たちも早く風呂に入りたいのだ。
美女の裸よりも脇を洗う方が大事。
それがワキガ。
風呂の中からは、キャッキャと楽し気な美女2人の笑い声が聞こえてくる。
まだかなぁ~?
まだかなぁ~?
王女の着替えを買いに走ってきたビッツが、汗だくで戻ってきた。
「ふう。間に合ったようでやすね。」
ビッツは満面の笑みを見せた。
その手に持って広げて見せた着替えは・・・・センス最悪。
「お前、それは無いだろう・・・。」
「お前、もうちょっと考えろよ・・・。」
それは、たくさんのイチゴ柄がついたヒラヒラ盛りだくさんのワンピースである。
そんなこんなで王女と入れ替わると、ヨシハルとウォーレンは風呂に飛び込んでいった。
きちんと二度洗いも忘れずに。
しばらくして、ヨシハルたちの屋敷に仰々しい騎士の一団が訪れてきた。
先頭を歩いてきたのは、白髭の騎士マトバンである。
「勇者様、この度の・・・うおっ!?」
「お爺ちゃん邪魔っ!!」
ヨシハルに挨拶をしようとしたマトバンを激しく押しのけたのは若い女性。
その格好からすると侍女だ。
「姫様っ!!」
「エレンっ!!」
強く抱きしめ合う美女2人。
「失礼・・・この者は我が孫娘でして・・・その、あの・・・。」
モゴモゴするマトバン。
どうやら、孫娘には超甘いお爺ちゃんであるようだ。
「いえいえ。お気になさらず。」
「誠に面目ない。」
マトバンの説明によるとこうだ。
一度街外れの飛空艇発着場まで馬車で向かい、そこから飛空艇で王宮に戻る。
謁見の間では、すでに勇者様の功績を称える準備が進められているので、このままヨシハルたちにも同行してもらいたいとのことである。
またかw
ヨシハルとウォーレンは、正直なところウンザリであった。
仰々しい騎士の一団に護衛されて、街外れの飛空艇発着場まで移動した一行。
その場に待機してあった巨大な飛空艇に案内された。
その道中でマトバンに聞いたところ、マルカーノの子飼いの腹心が全てを白状したそうである。
マルカーノは王女を自分のものとする為に魔王と血の契りを交わしたらしい。
その他にも、勝手な徴税を課していることだけでなく、とことん悪事に手を染めていたようだ。
悪党は、どこまでも悪党である。
マルカーノが領主である南部の街には、すでに騎士の一団が向かっているそうだ。
これで、悪の手は全て根絶やしになるのであろう。
王都を飛び立った巨大な飛空艇。
王宮は王都の上空にある為、すぐに到着することは間違いない。
その巨大な飛空艇の中。
ヨシハルとウォーレンが寛ぐ部屋の扉がノックされた。
返事をしたヨシハルが扉を開ける。
そこには、王女アナーシアとマッチョ爺さんの孫娘である侍女のエレンが立っていた。
王女様は、ビッツが購入したイチゴ柄のワンピース姿。
センスが悪い服であっても、美女が着るとそれなり可愛く見える。
「失礼してもよろしいでしょうか?」
「どうぞ。」
ヨシハルは、王女と侍女を部屋に迎え入れた。
フェロモン脇臭の発生を危惧するヨシハルではあるが、さすがに拒否することは出来ない。
ヨシハルは、ポリポリと指で頬を掻いた。
「あの・・・。」
恥ずかしそうに俯き加減にして、アナーシアが口を開いた。
そのすぐ後ろでは、侍女のエレンが両手の拳を握りしめて、熱い応援の眼差しをこちらに向けている。
これは・・・まさか・・・。
ヨシハルは、すぐにピンと来た。
このシチュエーションは、元いた世界で何度か体験している。
告白だ。
告白されるのだ。
超イケメンのヨシハル。
元いた世界でも女子にはモテていた。
(プロローグ参照)
しかし、その全てを断ってきたのがヨシハルである。
その理由は、自分のワキガを知られることで、女子に嫌われるのが恐いからだ。
「あの・・・。」
「はい・・・。」
ヨシハルの胸元にある黒い簪が、勝手に震え始める。
それはミカズキ。
まずい!アナーシアに先を越されたでありんす!
ミカズキは動揺していた。
アナーシアの恋の暴走超特急は、ミカズキの想像を遥かに上回るスピードであった。
一方、ヨシハルの頭の中は大混乱。
どうしよう。
王女様もワキガだし、ワキガのことを理解しているから、俺がワキガでも嫌われないのかな?
でもワキガだし。
もしかして、俺がワキガだってことに気付いているのか?
いや、俺のワキガはバレていないはずだ。
でも、同じワキガなら、ワキガでも愛してくれるのだろうか?
こんな感じ。
一方のアナーシア。
ヨシハルに告白すると決意して、エレンに背中を押してもらって部屋に来たのである。
どうしよう。
もしかして、私がワキガだってこと勇者様にバレてるかな?
ワキガとは付き合えないとか言われちゃうかな?
ワキガは嫌いとか言われたらどうしよう?
泣いちゃうな。
こんな感じ。
2人とも頭の中はワキガワキガで一杯である。
「あの!」
「はい!」
アナーシアは覚悟を決めた。
そして、顔を上げるとヨシハルの顔を正面から見つめる。
その顔は2人とも真っ赤。
その時。
アナーシアの脳裏に浮かんだのは、悪漢の顔であった。
あの蔑んだ目。
馬鹿にされた笑い声。
アナーシアは、それを思い出してしまった。
自ずと決心は挫けてしまう。
「あの・・・助けて下さいまして、本当にありがとうございました。」
深々と頭を下げると、アナーシアは部屋を飛び出していった。
その目には涙が浮かんでいる。
エレンが急いで後を追いかけていく。
・・・・・・。
・・・・・・。
あれ?
ヨシハルは首を傾げた。
王女様が自分に告白してくると思ったのは、単なる自意識過剰ですか??
自分が恥ずかしい・・・。
その顔はますます真っ赤になった。
ヨシハルは部屋の扉を静かに閉めた。
急に嫌な汗が噴き出してきて、脇汗が見事にびっちょびちょ。
椅子に座って無言で上着を脱ぐと、虚しく制汗タイムにすることにした。
告白タイムが起ころうとしていたシチュエーションに全く気付いていない男。
義憤のウォーレン。
目の前にある煎餅をバリバリと口に運んで、なぜか落ち込んでいるヨシハルを見ると首を傾げた。
あと少し。
あと少しの勇気があれば。
あと一歩。
あと一歩踏み出せれば。
2人はここで繋がったのかもしれない。
でも、そのあとちょっとが難しい。
それがワキガ。
とても切ないことである。
第6王子のヒーロが見ていたのは、この切ない結末であった。
着陸準備に入った巨大な飛空艇。
ヨシハルとウォーレンが寛ぐ部屋の扉が再びノックされた。
それに返事をして扉を開けたのは、落ち込んでいるヨシハルではなくウォーレンである。
そこには、侍女のエレンが1人で立っていた。
「失礼致します。」
エレンが部屋の中に入ってきた。
なぜか、ウォーレンの腕をぺたぺた触ってうっとりとした表情をしている。
「勇者様にお願いがあります。」
「何でしょうか?」
もしかして、王女様と付き合ってあげて下さいとか言われるのかな??
と、ちょっとだけ希望を膨らませるヨシハルであった。
「勇者様は、姫様の秘密にお気づきになられましたよね。」
そんな期待通りにはいかないよね。
残念。
「秘密ですか?・・・ああ、なるほど。」
ヨシハルは侍女の言葉で理解した。
この目の前の侍女が言う王女の秘密とは、きっとワキガのことだ。
そして、それをこの侍女は知っているのだと。
「どうか、くれぐれもご内密にお願いします。」
深々と頭を下げるエレン。
「大丈夫ですよ。誰にも言いません。」
エレンは、ほっとした表情を見せた。
「実は・・・王女様の苦悩を和らげるアドバイスが出来ますが、お聞きになりますか?」
「え?・・えぇ。それは是非・・・。」
ヨシハルは、椅子に腰をかけるようにエレンに促した。
そして、半透明な石をポシェットから取り出すとテーブルの上に置いた。
「これは?」
「これはアルム石と言います。簡単に説明しますのでよく聞いて下さい。」
ヨシハルは、アルム石について簡潔に説明をした。
そして、ワキガには厚着は逆効果であり、なるべく風通しをすることが重要であることを熱弁する。
「勇者様は、なぜそんなことまでご存知なのですか??」。
「それは、私が勇者だからです。」
いけしゃあしゃと、真顔でヨシハルは答えた。
勇者というキーワードは、異世界に於いては何でも通用する素敵なキーワードである。
「これがあれば、姫様の苦悩が少しでも安らぐのですね。」
「はい。このアルム石は差し上げます。」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
「それと、私から教えてもらったということは内緒にして下さい。貴女が調べたということにするのが望ましい。」
「よろしいのですか?」
「もちろん。それともう一つ。このアルム石は使う度に行きます擦り減っていきます。」
「えっ!? では、消えてなくなるのですか?」
「はい。ですが安心して下さい。これを定期的に入手出来るように手配しましょう。」
「お願いします!幾らでも、お代は幾らでも構いませんから!」
「そうですね・・・ラタの町にフクダンという商人がいます。彼にアルム石を取扱うように明日にでも手配しておきますから、そこから購入するようにして下さい。」
感謝感激で、エレンは部屋を後にしていった。
この後、すぐにフクダンはアルム石を取扱うこととなる。
王宮との取引は、一般の商人がどれだけ懇願したところで、簡単に叶うものではない。
それが、このアルム石という制汗アイテムによって、王宮との強固な関係が築かれることになろうとは、この時のフクダンは夢にも思っていないのであった。




