始まりの合奏
昔、古典の授業で様々な擬古物語を習い、自分も書いてみたいと思い始めました。
よろしくお願いいたします。
「三宮様、こちらでございます」
「全く、俺が好き好んでやったことなんだから礼なんていらないのに」
「いえいえ、私がしたくてしていることなので」
現帝の三男、皇位継承権第二位の三宮が、故中納言の嫡男、浦風のもとに呼ばれたには、二人の関係によるものである。
この浦風という青年、琴の腕は宮中指折り。大の音楽好きの三宮に気に入られ、彼の口添えで、一気に大蔵少輔から右中将にまで出世できたのだ。
今でいうと、地方支社の経理部課長から本社の営業部長になるようなもんだ。
位でいっても、従五位下から従四位下と、おおいにランクアップ。
浦風からすれば、感謝しまくりなのである。
また、三宮は、浦風のこの実直な人柄も気に入っており、実の弟同然にかわいがっている。
二人が家で宴を開くのは、まあ当然の成り行きと言えるだろう。
ただ、この何気ない出来事が、後に宮中に嵐を呼ぶこととなる。
「それでは、ここで私と妹二人との琴の合奏を披露いたします」
浦風、三宮がリラックスしてきたところでメインの出し物を始める。
中央に浦風、両隣に御簾を置いて妹たちが準備をする。
「では、出雲秘曲と伊勢秘曲、そこに宮中に伝わる伝統曲を組み合わせた三部合奏、ごゆるりとお楽しみください」
ペコリと一礼。浦風楽団のオリジナル合奏が始まる。
浦風の右手で神秘的な伊勢秘曲を奏でるのは、桜の君。
伊勢神宮の分社でスパルタ教育を受けさせられるのに耐えられず逃亡。餓死寸前だったのを志摩守だった浦風に保護され、以後、妹として浦風に強い忠節を抱いている。
左手で荘厳な出雲秘曲を演奏するのは、紅葉の君。
出雲介だった浦風の、琴に関する噂を聞き、押しかけ同然で妹になった元出雲大社の下っ端巫女だ。和歌の才もあり、浦風に色々コツを教える多彩な妹である。
11歳で父を亡くし、志摩守、出雲介、大蔵大丞、大蔵少輔とまずまずのペースで出世していく中、この二人の妹は、浦風の心の支えとなっていった。
3人の兄妹仲は、実の家族以上にいい。
そんな3人だからこそ、流れるような連携の取れた合奏を作り出せるのだ。
三宮は、この素晴らしい披露に大いに満足していた。そして、左側を向いて、新たな願望を持ち始めるのだった。
長い合奏が終わった頃には、既に夜も更け、宴も終盤を迎えていた。
浦風は、妹たちに労いの言葉をかけてから下がらせ、従者に三宮の寝床を用意させる。
「浦風、さすがだな」
「お褒めに預かり、恐縮です」
浦風と三宮の和やかな会話。
「いつか、お前を一族悲願の大臣にしてやるぞ!」
「それはそれは、楽しみにしています」
浦風の一族は、もとを辿れば大和の農民。曾祖父が大学に入って蔵人頭にまで出世し、祖父が参議、叔父は大納言、父は30歳の若さで中納言と、年を追うごとに出世を続ける新鋭なのだ。
ただ、やはり大臣になった者はいない。祖父はこれを一族の悲願とせよと言い残して世を去った。これを三宮が叶えようとしている。これ程嬉しいことはない。
「それで、一つ提案があるのだが」
と、ここで三宮、少しトーンを落とし浦風に話しかける。
「何でしょう?」
予想がつかないので、続きを促す浦風。
「あの、お前の右で伊勢秘曲弾いてた、桜の君だっけ。そいつを俺の妻にしていいか?」
「あ、ええ。彼女も結婚適齢期ですし、本人さえ良ければ」
唐突な提案だが、三宮ならいいだろうと思い、同意の意を示す浦風。
だが、その後ついでのように出てくる三宮の一言と、浦風の優しさが、この後起こる嵐の引き金となることを、二人はまだ知らない。
浦風って何となく思いついた自然描写なので、採用しました。
女性陣には、花の中で、源氏物語と被らないような名前の人が多く出ます。
本名は、一切出しません。それが平安の慣わしですので。
それでは
里見レイ




