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神の存在

 斗和達がドワーフの国へと向かっている頃、マルバーン王国では。

 マルバーン王国は今日も変わらず人の往来が賑やかで、誰もが明るい表情で日々を暮らしている。

 何も変わらないのだ、表面上は。

 その様子をマルバーン王は見下ろしていた。


 「何も知らずに、何とも愚かなものだ」

 「お父様、それ以上は言ってはなりません」

 「ああ、分かっておる。だが、知らぬというのはなんと幸せなことか」


 父の様子をリビル・マルバーンは心配そうに見る。

 この国にはもうすぐ大きな災いが降りかかるだろう。

 それは、この父が起こしたことであり、それはしょうがないことだったのかもしれない。


 「それで、調子はどうなんですか?」

 「調子か。怒っているよ、今回は許してくれそうにない」

 「そうですか。ではメフィアだけでもどこか遠くに逃げらせることはできませんか?」

 「それも難しいだろう」


 この国の下には神が眠っている。そして、その神は皆を見守っているのだ。

 そうおとぎ話として民衆には伝わっているのだが、現実は違う。

 見守っているのではない。

 その事実を最初知った時、驚きと恐怖に慄いた。


 「メフィアを救いたいのだがな」


 父の独り言が漏れる。

 メフィアはこの国の真実を知らない。

 ゆえに、あのように天真爛漫に過ごすことができるのだ。

 それを一時期妬ましいと思ったこともあったが、今はその笑顔に救われている気がする。


 「やはり、勇者を行かせたのは父上なんですね」

 「ああ、彼らにこれ以上は迷惑をかけることはできない」


 違う世界から勇者として召喚したのも。

 彼らを強く育て上げたのも。

 それは指示に従ったものだ。

 召喚自体うまくいくはずがないと思っていたのに……。

 彼らは来てしまった、いや、連れてこられたというのが正しいか。


 「それで、これからどうするんですか」

 「どうもせんよ。何をしたってどうともならん、神とはそういう存在だ」

 「彼らも今回の旅で違和感を覚えたはずです。素直に帰ってきはしない。また誰か召喚するしかないのでは」

 「それはできないのだ。神がおっしゃった場所、時間、魔力量でないと発動すらしないだろう」


 詰んでいるというわけだ。

 国民を見下ろす。

 彼らは知らず知らずの内に災害に巻き込まれることとなる。

 それは世界の変革とも言えるべき現象。

 混沌が生まれるのだ。おぞましき混沌が。

 意識の埒外から全てを飲み込み、そして気づけば世界が変わっている。

 それが末恐ろしい。


 「歴代の王達も苦悩していたそうだ。お前にはこの役目は回したくはないな」

 「ええ、私もごめんです」


 そうは言っても継がない選択はないだろう。

 マルバーンは最後にちらっと民衆を見て、執務室に戻る。

 リビルはそれを見届けると、嫌な思いを払拭するべく訓練場へと向かった。






 メフィア・マルバーンは庭園でお茶を楽しんでいた。

 だが、この優雅な生活も長くは続かないと知っている。


 「私が知らないとでも」

 「どうしましたか?」

 「いえ、何もありませんよ」


 メフィアはいつも浮かべている笑顔をメイドに向ける。

 この顔も板についたものだ。

 自然と笑えるようになったのは、何歳頃からだろうか。

 庭に咲く綺麗な花々を眺めながらお茶を楽しむのはメフィアの趣味の一つだ。

 そして、考え事をするときにもこうやって過ごす。

 今回考えていることは、神の啓示に父が逆らったことだ。

 まさか父上がここまで無能だとは思わなかった。


 「神に逆らうなんて馬鹿馬鹿しい」


 神に逆らうということは、この世界全てに逆らうということだ。

 私達は神の恩情で生きている。

 昔、人間族が力を持たず死に瀕していた頃に、一人の男が奇跡を起こした。

 神という名の悪魔を召喚したのだ。

 その悪魔は人間族の願いを叶えていき、人間はいつしか一大勢力へと変貌していった。

 だが、大きな力に代償がないわけがない。

 悪魔を召喚した人間は王とされ、その家系は神に仕える一族となった。

 時に生贄をささげ、時に勇者を迫害し、また罪を犯していく。

 でもそうするしかなかった、今もそうするしかない。


 「なのに、どうしてお父様は」


 ああ、腹が立つ。

 私は自分の命が一番大切だ。

 自分の命を守れるなら全てを渡してやってもいい。

 今回の失態はお父様一人捧げるだけで済むかも分からないため、対策を練る必要がある。

 お兄様もそうだ、なぜ止めなかったのか。

 考えるだけで腹が立つ。

 あんな異世界から来た奴らはこの国の者ではないのだから、生贄に捧げてしまえば良かったのに。


 「姫様?」

 「今日はもう、自分の部屋へと戻ろうと思います」

 「そうですか、分かりました」


 お付きのメイド達が私の後を着いてくる。

 そして、自分の部屋の前に来たらすぐさま去って行った。

 メイド達には自分の部屋には入らないように言ってあるため、忠実に守ってくれているのだ。

 自分の部屋の床の一部を動かし開ける。

 そこには一つの本が入っていた。


 「解決方法が載っているかもしれませんわ」


 この災いを回避する方法があるかもしれない。

 古めかしい表紙の本を片手に、ベットへと行く。

 この本には劣化防止の魔法がかけられているため、このような見た目でも全然頑丈だ。

 ぺらっとページをめくり、読んできたページを読み返す。

 それはある人物の悲嘆の物語だった。

 そして、神との戦いの記録。


 「私は神と出会った」


 冒頭は神と出会ったところから始まる。

 神と出会い、周りの人たちは疑問を抱かずに召喚された神に祈りを捧げる。

 俺だけだった圧倒的な違和感を感じていたのは。

 その頃の俺は何も力を持たないただのガキだった。


 「そして、俺は勇者となった」


 この物語の主人公は勇者となってしまう。

 勇者となって国民全員の期待を背負って、魔物や迫る異種族を殺す。

 時に敵対している異種族の国へと攻めたこともある。

 それが正しいことだとこの時は思っていた。

 だが、ある時に神へ抱いた違和感がふと蘇った。神は今も荘厳な教会で悩みを聞き、人々を導いている。

 その姿は神々しく、誰でさえひざまずきそうになるのだ。

 俺は別の何かに見える。…………悪魔だ。

 神の言葉を信じたりしない、聞き流してきた。

 そして、運命の日が来る。


 「殲滅戦ですか」

 「そうだ、前も行われた殲滅戦を再開する」

 「分かりました」


 いよいよおかしい。

 王も正気の沙汰ではない。それもこれも神のお告げだという。

 断ることもできないまま、俺は獣人国との戦いを始めることとなった。

 戦いは熾烈を極め、なかなか決着がつかず犠牲だけが増えていく。

 そして、ある日。俺は見てしまった。

 兵士達が凌辱する様を、楽しんでいる姿を見て俺は目の前が暗くなるようだった。

 気づけば俺は仲間の背中に剣を振り下ろしている。

 仲間の声が響く、他の仲間達が俺を見ていた。

 俺は止まらない。

 やはり違和感を感じていたのは合っていたのだ。

 一人一人切り落とす。

 最後の一人まで切り殺した俺は、すぐさま馬で自国へと戻る。

 その場にいた獣人族に目もくれずに。

 そして、俺は神と対峙した。そして、問うた。なぜこんなことを命令したのか。

 神は答えた。面白いから。

 俺は烈火の如く猛り、神に本気の一撃を見舞う。

 当たらない。だが、それでも当たるまで何度も何度も切りかかる。


 「そして、俺は神に負けた」


 そこで物語は終わる。

 彼でも神には勝てなかったのだ。

 神との戦闘を事細かく書かれているが、その神の攻撃のどれもが規格外であり、手の打ちようが無かった。

 彼は負けた後、どうなってしまったのだろうか。

 いつも読んだ後思うことだ。


 「メフィルはどうなってしまったんだろう」


 特に神に効く攻撃などはやはり書かれておらず、本をそのまま閉じてしまう。

 勇敢に立ち向かったメフィルは生きているはずではある。

 この本があるのが証拠。


 「生き延びる方法があるはず」


 メフィアは諦めはしない。



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