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悪魔族の少女、ソル


 「実はよ。俺は――悪魔族っつう、そらぁ珍しい種族なんだぜ」


 その言葉を言った瞬間、目の前の男からはすさまじいほどの殺気が迸った。

 実体を持ったかのような殺気に当てられた悪魔族の少女は腰を抜かしてしまう。

 男からの殺気は途絶えることはない。


 「お、おい、何怒ってんだよ。俺は何もしてねぇだろ……」


 目の前の男が怖すぎてその先の言葉が詰まる。

 バキン。

 どこからか硬質な物が壊れた音が響く。

 一体どこから……。


 「お前も悪魔族の一人なのか?」


 ない。

 唯一男を縛っていた鎖が砕け、床に散らばっていた。

 確かあれって大型の魔物でも引きちぎれない代物のはず――、と困惑している間に男は自分の前に立っていた。

 この俺を見下ろす形で。


 「お前はメフィルの仲間なのか?」

 「だ、誰だそいつ。知らねぇよそんなやつ!!」

 「そうか、じゃあ関係ないわけだ……」


 質問に答えた瞬間に収まる殺気。

 強張っていた筋肉も少しずつ緊張が解けていく。


 「な、なあ、お前は何者なんだ?」

 「ん?俺か。俺は住山斗和だよ」

 「いや、名前じゃなくて……」


 殺気が解けて、見る男はあまりに普通の人間族だった。

 そのギャップがとても恐ろしい。

 腰が抜けて立てないので、座ったまま彼を見ることしかできないようだ。











 目の前には悪魔族と名乗った少女が座っている。

 しかし、どうもメフィルとは関係がなさそうだ。

 これといった確証はないのだが、もしメフィルの仲間である場合にこんなところで捕まっているだろうか、という疑問があることと、彼女からそれほど強い気配を感じない。

 うまく気配を隠されている可能性は捨てきれないが。


 「さて、どうしようかな。まだ出る気は無かったんだけど」

 「おい、俺を置いていくなよ」

 「うん?」


 座っている少女が置いていくなとはこれ如何に?


 「いや置いていくって言ったって、連れていく意味もないし」


 それにこれからやろうとしていることは、彼女にとってはとても危険だと思う。

 そう言うと、彼女は顔を顰める。


 「俺が牢を開けてやらねえと出られなかっただろ」


 という言葉に、ゆっくりと檻の一部を曲げるという行動で答える。

 彼女の目が見開き、驚いているのが分かった。

 実は出ることはいつでもできましたという証明だ。


 「じゃ、じゃあ何でお前は出ようとしなかったんだよ。そんな力があれば逃げることもできるだろ」

 「いや、様子見にちょっと牢屋生活を楽しんでたんだけど」

 「楽しむっておかしいだろ!!」


 確かに普通の人なら楽しめないかもしれないが、それを自力で突破できる俺にとっては初めての体験だな、という感覚で入っていたにすぎない。

 納得がいかないのか、悪魔族の少女はぷりぷりと怒り出す。


 「てか、何で座ったまんまなんだ?」

 「お前のせいで腰が抜けちゃったんだよ」

 「は?」


 殺気をぶつけた結果、腰が抜けちゃったと。

 そっか、じゃあこのまま置いていこう。


 「じゃあ、そういことなら」

 「おいおいおいおい、何がそういうことならだ。俺も連れて行けよ」

 「いや、足手まといにしかならないし」

 「俺はこの国の地理を知っているから案内できるぜ。お前がどこに行きたいのかは知らないが」


 うーん、それは悩みどころだ。

 実はエルフの国はあまり詳しくは知らないため、手探りで状況調査しようと考えていたところだ。

 しかし、それでは時間がかかりすぎる。

 もし本当に知っているのなら有用だと思う。


 「なんでも教えてやるから、なあ」


 悩んでいることが分かって追い打ちをかけてくる。

 彼女の知識を借りるのもいいかもしれない。

 まあ、もしも嘘であった場合はそのまま牢屋に帰ってもらおうと思うが。


 「分かった。連れて行ってやろう」

 「本当か!!なら負ぶってくれないか?」


 仕方なく負ぶってやることにする。


 「変なことしたらそのまま叩き落とすからな」

 「そんなことしねぇって、安心しな、そしてガイドは任せろ」


 その言葉を信じ、牢獄の部屋から抜け出す。

 抜けだした先は長い廊下だった。

 俺が出てきた入口の上には「03」と書かれている。

 その左横に「02」「01」と続き、右横にも順番に番号が振られている入口が並んでいた。


 「全部牢屋さ」

 「そうか、じゃあこの中に俺の仲間もいるのかな?」

 「いんや、牢屋はまだここの他にもう一か所に設置されているからそっちの方にもいるかもな」

 「そうか、まあ一応調べておくか」


 そして、地道に01~12まで全てしらべた結果。


 「ありがとうございます」

 「ありがとう」


 俺と同じように筋トレをしていたミアと、コマチが見つかった。

 てか、ミアに関しては俺とマル被りなんだが。


 「やはり、トワ様も同じく筋トレをしていたんですか?」

 「ああ、まあな」

 「脳筋コンビ」

 「誰が脳筋コンビじゃ」


 コマチの言葉に聞き捨てならなかった。

 俺はミアよりはそんなに脳筋ではない、はず。

 そして、俺は魔法を使うよりそのまま拳や剣で攻撃していたことを思い出した。

 魔法も結構使えるのに。


 「やっぱり脳筋コンビ」

 「否定できそうにない……」

 「それにしても、トワ様その負ぶわれている少女は一体なんですか?」

 「ああ、えっと悪魔族?の少女らしい」

 「なんで疑問形なんだ、そして俺にはソルという立派な名前があるんだぞ」


 そう聞くとミアは首をかしげる。

 コマチはすでにこの悪魔族の少女を魔法で調べて終わっていた。


 「確かに悪魔族かもしれない」

 「しかし、メフィルほどの強さは感じませんよ」

 「知らない魔力の波動を感じた」

 「なるほど、メフィルとも違う波動なのか」

 「違う」


 では本当は何の種族なのだろうか?

 すごい疑問に思うが、後の仲間達も助けてあげたいし先を急ぐことにする。


 「おい、俺のことガン無視か?」

 「耳元でうるさいな」

 「ソルだ、俺の名前はソル」


 自分の名前を連呼する悪魔族の少女――ソルをなだめる。


 「それに悪魔族にメフィルなんて奴はいねぇ」

 「どういうことだ?」

 「まずだが、悪魔族はもう俺しか残ってねぇんだ」


 耳元で聞こえる声には悲しさが含まれていた。

 その言葉にコマチが反応する。


 「メフィルは悪魔族ではない……あなたが最後の悪魔族だという証拠は?」

 「証拠なんてねぇが、悪魔族は様々な国から迫害を受けて一部の地域にしか住まなくなったんだ、だがそこも最終的にはエルフやドワーフ、龍人族の勢力争いに巻き込まれて木っ端みじんさ。生き残ったのは俺ただ一人だったというわけさ」

 「なんで悪魔族が迫害されなくてはいけなくなったんだろうな?」

 「そんなの知らねぇよ。俺達が邪魔だったんだろ」


 なんだろう、なぜかその争いに違和感を感じる。

 それがなんなのか分からないまま、その話は終わった。

 つまり残った悪魔族の中にメフィルがいなかったとソルは言っているらしい。

 コマチもそれで納得したのか、それ以上聞かなかった。

 ソルも無言になる。

 俺は思う。

 いつまでソルをおんぶしなくてはいけないのだろう。

 そのまま音を立てずに次の部屋へと向かった。



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