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戦場にて

2019年、今年最後の投稿です。

どうぞ。


 「怯むな、迎え撃て!!」


 後ろから怒声が響く。

 隊長ってやつはいつもそうだ。

 自分は安全なところにいながら、俺らには怒声を浴びせ死地へと向かわせる。

 俺達はただの一般兵、目の前の死に立ち向かうのを諦めた者から死んでいく。


 「おい、大丈夫か」

 「ああ、まだ死ぬわけにはいかねぇからな」


 俺達が戦っているのは、ラーマとかいう商業国。

 相手さんはその豊富な魔術師を前線に引っ張ってきたようだ。

 そして、その非常識な作戦が俺達をより苦しめている。


 「あ、あああああっ」

 「ああ、熱い熱い熱い……」

 「…………」


 仲間達は皆、焼かれ凍え、切り刻まれ、潰される。

 ほら、また横の奴が流れ弾に被弾した。

 ここは地獄だ。

 俺達は帰れるのだろうか、この地獄から。


 「我等、獣人の誇りをとくと見せてやれ!!」


 「なら、自分が敵の本陣に突っ込んでいきやがれ」

 「おいおい、聞こえたら不敬罪で殺されるぞ」

 「隊長には聞こえないって、こんな一般兵の声なんて」


 横にいるこいつは誰か知らない。

 だが、こいつもむなしく徴兵された玉だろう。

 少し前までは大きな戦争なんてものは起きないだろうと言っていたのだが、あれは嘘だったのだろうか。

 その解は出せそうになく、必死に魔法を避ける。

 そして、相手の首を刎ねとばす。


 「こりゃあ、ちょっとよろしくないな」

 「何がよろしくないんだ。まだ、こっちの方が数は上だろうが」


 まだ、俺達の後ろには数万の兵が残っている。

 いくら、魔術師の攻撃が強力だといってもいつかは魔力が底をつき、その時は物量差によっていとも簡単に押し切れるだろう。

 相手は人間族、俺達よりもステータスは圧倒的に低い。


 「おいおい、何だありゃ」


 気を紛らわせるための会話が止まる。

 いや、会話だけじゃない鉄と鉄を叩きあう音も消えた。

 俺も気になり、相手を警戒しながらも皆が向いてる方向を確認する。


 「な……」


 空に雷が舞っている。

 あれは魔法なのか……?

 いままで向けられてきた魔法とは常軌を逸している。

 なんなんだあの大きさは、まさかラーマの魔術師はこんなこともできるのか?

 そう思い、ラーマの方を見るも彼ら彼女らもぽかんと空を見ている。

 彼らでは、ない……では一体誰が。

 そう思った時、戦場に大きな声が響いた。


 「聞け、獣人族の宝は無事だ。いますぐこの無駄な争いを止めろ!!」







 「聞け、獣人族の宝は無事だ。いますぐこの無駄な争いを止めろ!!」


 遠くに見える戦場に向かって声を発する。

 届くはずの無い声は、風に乗り拡散され、皆の耳へと伝わった。

 誰もがその声と上の雷の玉に集中している。


 「あなたは意外と無茶をするんですね」

 「けど、これで第一段階は完了だろ」


 呆れたような顔をしている獣人族の宝――ダリルに微笑む。

 向こうからは争う音が聞こえない。

 これが第一段階、そして第二段階として穏便に交渉を進めること。


 「今から獣人族の宝を返還する、それでこの戦場から引け」


 声が遠くまで響く。

 さて、返答はいかに。


 「我等の宝は無事なのだな、それを返してくれると、なるほど舐めた口を」


 あいつが総指揮を握っている大隊長っぽいな。

 陣の奥の方で野太い声が聞こえた。


 「今更引き返せる訳がなかろうが」

 「では、こちらはこの雷を降らせることになるが、貴君はそれで大切な兵を失うのを良しとするのか?」

 「く、だが……」

 「貴君も例外なく死ぬだろうな」

 「そんなのははったりだ、騙されるな、あれは幻影が何かだ」


 大隊長が突撃の命令を出すが、動く者はいない。

 皆分かっているのだ、あれが幻影のたぐいではないということを。

 その耳で、目で、肌で危険を感じている。

 あれはここにある全ての生命を刈り取れる何かであると。


 「ええい、命令を聞かぬやつは死罪だからな」

 「まあ、待たれよ」

 「は?王よなぜここに!!」


 厳格な雰囲気を醸し出している彼がダリルの父であり、王なのか。

 獣人族の王は大隊長の一歩手前に出る。


 「王よ危険です」

 「よい、下がっておれ。天の声よ、わが娘を返していただけるのは本当か?」


 臆する様子もなく、ただ空を見て問う。

 その顔はただ娘の安否を思うものだった。


 「もちろん、この争いを止めてもらえるのなら、すぐにでも引き渡そう」

 「そうか、なら一旦撤退をする。ラーマの者達よ、お前達もそれでよいか」

 「ああ、それでいい。引け」


 王の言葉に答えたのは、魔術師長であるシャルさん。

 そんな権限があるのかは不安だが、上の言葉に従うしかない兵達は素直に引き下がる。

 両軍引き下がっているなかで、一人不満を抱いている者もいるが。


 「反対、大はんたーい。やっちゃってくれよ、悠太君」


 引いていく獣人族の軍勢の中から一人、放たれた矢のようにラーマの軍勢へと向かっていく。

 今は撤退しており、背を見せている。

 そこに神速の剣は振り下ろされた。


 「な、何をやっているのだ」

 「だって、つまらないじゃないですか。こんな終わり方って」


 獣人族の王の横に現れた若い男。

 そして、仮面をつけていて確証を持てないが、その男が言うには彼はさらわれた悠太。

 あまり見たことがないが、確かに悠太が持っていた剣に似ている。


 「あいつです、獣人族の国にいる悪魔族です」

 「あいつが悪魔族」


 確かに理性的で、リヒトの記憶で見たやつとは大違いだ。

 姿は人間族と変わらない。


 「あいつをどうにかしないと、もしこの争いが解決したとしても火種は消えません」

 「そうかもしれないな、あれは俺達で何とかする」


 そう言って、悪魔族の男を見ると向こうもこちらを見ていた。

 結構距離が離れているはずだが、視線は逸らさず笑みを浮かべている。

 不気味だ。


 「気づかれておるのう」

 「やはり、そうなのか?」

 「トワ様、気を付けてください。あいつは少しおかしい」


 ミアが大剣を構え、警戒する。


 「そんなに警戒しなくてもいいじゃないか」


 一呼吸で距離を無くし、目の前には悪魔族の男が立っていた。

 まるで何事も無かったかのように、自然な感じにこちらへ歩いてくる。


 「させません」


 メルが上空に溜まっている雷をその悪魔族の男に向けて落とす。

 ドゴンドゴン、という地を振るわせるような轟音が鳴り響き、地面はそのたびに削り取られる。

 これで倒したと油断はしない、すぐさまこの場所から離れていく。


 「あらあら余計に警戒しましたか?そっちは悠太君に任せるとして、私はこのお邪魔虫と遊ぼうかな」

 「やはりな」


 嫌な予感はあったのだが、まさか無傷だとは思わなかった。

 そして、もう一つ悪いことは起こる。


 「死ね、殺せ、踏みつぶせ!!」


 まるで狂ったかのように兵達がぶつかり合う。

 それはラーマの兵も獣人族の兵も変わらない、等しく狂っている。


 「すごいすごい、さすがはサタ君だ。僕の喜ぶことが分かってるね」


 それを見て笑っているこいつは本当の悪魔だ。

 いかれてやがる。


 「どうにか早く……」


 このただ虚しいだけの戦争を終わらせなくては。


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