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悪魔メフィル


 「きゃはははは」


 前にいる悪魔は大きな笑い声を上げる。

 姿はただの子供に見えるが、その存在は常軌を逸していた。

 魔力は感じないが、なにか別の禍々しさがどろどろとこの場にあふれ、息が重く感じる。


 「こいつよ、こいつが私の国に現れた悪魔……」


 ダリルは震えながら、指を向ける。

 そうか、こいつが獣人族の国を貶めた悪魔。

 しかし、その姿は無垢な子供のそれだ。


 「子供だからといって、相手は容赦はせん。トワ様よ、油断するでない」

 「あ、ああ」


 確かにリーシャの言っていることは正しいのかもしれない。

 だが、リヒトの記憶では悪魔族に乗っ取られている者もいた。

 もしかすると、その子供の体は乗っ取った体かもしれないのだ。


 「攻撃もせずに待っているのに、攻撃してこないのですか?もしかして、この体を気にしています?」


 なんて人間達は優しいのだろう。

 馬鹿にするように、哀れむように言う。


 「大丈夫ですよ、この体の主はもうすでに死んでいます」

 「死んでいる……」

 「そう死んでいる、私が殺したわけじゃないですよ、だから、その殺気を納めなよ」


 どうも殺気が漏れていたようだ。

 だが、ではなぜその体を使っているのか。


 「トワ様、話を聞くのは無駄です。倒してあの戦いを止めに行きましょう」

 「そうです、私達全員でかかれば悪魔族でも勝てます」


 そうだ、あのむなしい戦いを止めなくては。

 ダリルには少し離れてもらい、臨戦態勢となる。


 「そうでした、私は足止めに来ていたんでした。私メフィルはそれが役目なので」


 男の子の姿をした悪魔族――メフィルが正面を向き、俺たちを見る。

 その身からはどろどろとした何かが溢れていた。


 「では、行きます」


 ミアが亜音速を超えた速さでメフィルへと突っ込んでいく。

 それに援護する形で、メルが風の刃を追随させる。

 それは一秒にも満たない攻防。

 ミアが切る、風の刃が猛威を振るう、切る、振るう。


 「なぜ、切れない」

 「単純な剣技では私を切ることはできませんよ」


 見えたのは、ミアが切る際に何もないところで弾かれるところ。

 まるでそこに何かがあるかのように、風の刃も同様にすべて弾かれる。

 その何かが分からないが。


 「魔法、ではないのう」

 「確かに魔力の動きは感じませんでした」


 次は俺が試してみる。

 拳にリーシャの竜撃魔法の炎を込め、剣と足に風魔法を込める。

 早く動き、剣の切れ味を高め、拳で破壊力抜群の攻撃を見舞うという算段だ。


 「次は君の番かな」

 「ふっ」


 ミアより早く動き、背中に回り切りつける。

 が、何かに阻まれ後ろに飛ぶ。

 右、左交互に剣を振るう、その姿は分身したかのように見えるほどの速さだ。

 だが、それでも弾かれてしまった。


 「最後に、食らえ!!」


 力を込めた左手を顔に当てる。

 当たった瞬間に龍人族の炎が吹き出る、それは恐ろしい熱量によってすべてを溶かし吹き飛ばす。

 だが、これもメフィルには効かなかったようだ。


 「なんで、お前は攻撃しないんだ」

 「いや、まあ、足止めなんで」


 至極当然かのように言う。

 攻撃されてこられたら、こちらはすぐに負ける可能性は高い。

 だが、メフィルはそれをしようとしない、それに何か意味があるのか。


 「ミア、少しこっちへ来てくれ」

 「はい、なんですか」


 少し試したいことがあり、作戦をミアに伝える。

 その作戦を不思議に思ったようだが、すぐに了解してくれた。

 一応、リーシャやメル、コマチにも手伝ってもらえるように伝える。


 「では、作戦通りに」

 「作戦会議はもう、終わりですか。その作戦で私を倒せるのでしょうかね」


 相手が油断してくれているのなら、それでいい。

 今がチャンスだから。

 コマチが魔法によって、霧を発生させる。

 メルが風魔法で、その霧をこの一帯にだけ限定して漂わせ、霧を濃くする。

 リーシャが両手を竜のそれにし、霧の中にいるメフィルに向かって突進する。

 そして、俺とミアはそのリーシャの後ろに追随した。


 「霧による動揺を誘う作戦ですか、それともその中なら攻撃を当てられると思ってますか?」


 いや、これでも当たらないだろう。

 でもそれでいい、狙いはそれではない。


 「食らうのじゃ」


 本家竜撃パンチを連続でメフィルに浴びせる。

 爆裂と衝撃で粉塵が舞う。

 よく見ると、メフィルに当たる数センチ手前で拳が止まっている。

 それを観察して、俺とミアはメフィルの横を通り過ぎた。


 「おっと、危ないな~」


 横を過ぎてからすぐのこと。

 何かに体が触れて後ろに飛ばされる。

 だが、体に傷がついたわけではなく、ただ単に体を戻されただけ。


 「そんな卑怯なことをするのかな、最近の勇者は」

 「残念ながら勇者ではないんだがな」


 勇者になれなかったんだが。

 それを聞いて目を少し見開くメフィル。


 「うん?勇者ではない?そうか、君は勇者にならなかったのか」

 「?」


 さっきから勇者とか、どうも俺が人間の国の勇者(なれなかったが)として召還されたことを知ってそうだ。


 「まあ、いいさ。君たちに邪魔されたらまずいからね」


 さて、どうするか。

 メフィルの力の正体が分からなくては対処のしようがない。

 それに攻撃してこないのが気になる。

 ミアもただ単に押し返されただけのようだし、もしかしたら攻撃自体できないかもしれない。

 今は予想の範疇にすぎないので、あまり決めつけてはいけないが。


 「さて、君たちが止めたい争いは佳境に入ったようだよ」


 メフィルの後ろの光景を見ると、攻撃の勢いが増しているように見える。

 どちらも命など無視しているかのような突撃だ。

 両軍、特効を繰り返す兵士が後を絶たない。


 「一体どうなっているんだ」


 隊長と思われる者は怒声をあげて止めようとしているが、それを聞かない者が多い。


 「さあさあ、どうするよ」


 攻略の手口が見えてこない状況で、戦場は悪化する。

 死体は積み重なる。

 死者は獣人族の方が圧倒的に多いが、押されているのはラーマの方だ。


 「さあさあさあ」


 皆死んでいくぞ……。


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