そしてクラスメイトは……
少し短いですが、どうぞ。
斗和達がダンジョン攻略に勤しんでいる頃、他のクラスメイト達は――。
亜里沙&芽衣&美貴の場合。
彼女達は三嶋悠太の裏切りと黒田和也の死を受け入れずにいた。
三人は亜里沙の部屋に集まって世間話に花を咲かせようとしているのだが、どこかぎこちない。
誰もがクラスメイトの裏切りと死に関して触れないようにしている。
「でさぁ、あそこの食堂がおいしかったんだよう」
「そ、そうなんだ。私もあそこ良いかなと思ってたんだよねぇ」
「へー、皆と一緒に行きたい……あっ、ごめん」
その皆の中には消えたクラスメイトも入っているのだろう。
そこで会話は再度途切れた。
この状態に対してマルバーン王国に関しては触れず、今は傷が癒えるまで待つという方針としている。
それに今は王国では王族が病に伏せるという事態が起こっておりそれどころではないのだ。
原因は王族が使用する井戸水の中にあった毒。
そして、その毒を入れたのが同じ勇者である三嶋悠太であると分かるとともに、他の勇者達には監視がつけられ見張られている。
彼女達はその事に関して納得はしていないが、自分達の中から裏切り者が出てしまったために仕方ないと思っていた。
今日も彼女達はぎこちない会話を続ける。
日向&充の場合。
彼らは朝早くから修練場にいた。
日向と充は訓練として模擬戦を繰り返している。
「おらぁ、これでどうだ」
「ふん、あまいな」
日向の手から数百ものファイヤーボールが充目掛けて飛んでいくが、それを充は難なくかわす。
そして、お返しとして剣に宿らせていた風の魔法を斬撃として日向へと放った。
「ファイヤーウォール」
日向の前に出現した炎の壁は風の斬撃を焼き尽くす。
そして、お返しに次は追尾する炎の矢を十本充に向けて放つ。
「くっ」
「これで決まった、かな、はぁはぁ」
今のレベルでは追尾式の炎の矢は十本が日向の限界でそれ以上増やすと魔力操作を誤ってしまう。
それの対処に追われる充は、職業が魔法戦士なので純粋な魔法勝負では日向に勝てない。
そのため、魔法を使わず今は逃げに徹する。
「くそ、一か八かだ。はあっ」
自分を追尾してきた十本の炎の矢に対して、ガスベル団長から教わった技を試す。
それは魔法を切るという業である。
練習しているが一回も成功したことが無く、稀に魔法をそらすことはできたのだが。
「なっ……」
今回初めて成功したようだ。
追尾していた炎の矢の一本を真っ二つに割ることに成功し、その後二本、三本と成功していったが目の前が歪み始めた。
自分で限界が来たのだと悟る。
この魔法を切るという荒業は過度な集中力が必要で、それゆえにスタミナもがんがん削られる。
まだ後七本も残っているのに情けないと感じたときには、視界がブラックアウトしていた。
「今回は俺の勝ちのよう、だ、な……がふっ」
充が倒れたのを確認して炎の矢を寸前で止めたが、ここで魔力的にも体力的にも限界が来ていた日向もそのまま前に倒れ気を失ってしまった。
そして、それを確認した彼らのメイド達は彼らを部屋のベッドへと運んでいく。
「もう、最近はこんなことばかりね」
「ほんと、でも、努力して強くなろうとしているのは分かるから」
「そうね」
彼女達は日向と充の専属メイドのミルフィとベルである。
彼らのメイド達は文句を言いながらも、その顔は優しげであった。
宗太の場合。
宗太は朝早くから王城にある図書館で探し物をしていた。
それはこの世界の歴史について。
今調べているところだが、本にはこの世界は元々人間のために作られただとか、他種族は人間の失敗作だとか根拠のないことばかり書かれておりなかなか真実にたどり着かない。
「はあ……」
やはり人間に不利益な情報はあえて規制されているのだろう。
自分の専属メイドはそんな自分に助けることはしない、ただ入り口から見張るだけだ。
「もう少し探してみるかっと」
そう言い立ち上がった瞬間、本棚に横向きで置かれている本に気が付いた。
その本は自分が探している歴史書ではないが、なぜか気になってしまう。
「えっと、本の題名は『勇者バンの冒険』か」
それは子供が読みそうな絵本だった。
絵もすごく雑で、日本の絵本より本の素材が悪い。
そこまで本は厚くないので、休憩がてら読むことにした。
「…………」
本の内容としては単純で、勇者であるバンが魔王を倒して国を救うというもの。
魔王を倒すなかでさまざまな困難が勇者を襲い、時に魔物に襲撃され時に仲間が死に冒険は苦難なものになっていくが勇者は諦めず魔王を討ち果たす。
そこで物語は終わってしまう。
絵本なのにまるで本当に起こったかのように書かれているこの本は、とても迫力があり楽しめた。
しかし、とても古いのかところどころ絵がかすれていたのは残念だ。
特に勇者の仲間達はどんな姿をしていたのかがこの絵本からは分からなかった。
「残念だが仕方ない、さて本当の歴史書探しに戻りますか」
宗太は他の本棚へと移った。
????の場合。
「ああ、もうすぐで始まるんでしゅね」
それは恍惚とした表情をしていた。
目の前には悠太が立っている。
だがその悠太にはその異物を見ても何の感慨も浮かんではこない。
まず自分はどうしてここにいるのかが分からないのだ。
「あらぁ、お目覚めでしゅか」
その異物は気持ち悪い手のようなもので頬に触れてきた。
しかし、何も感じない。
「おい、やめなよぅ。それは僕のしもべになった悠太君だよ、その汚い手をどけてくれないかな」
「まあ、失礼でしゅね。この手は万能なんでしゅよ、それよりメフィルは一体どこに行ってたんでしゅか」
「まあ、その話は後でするよ」
十歳ぐらいの少年はその異物と軽快に話している。
それにしても体が動かない。
「あ、悠太君おはよう。良い朝だね、あのクソ王族達も病気で倒れているし万々歳だよ」
「う、うぁ」
「うんうん、分かってるって体が動かないんでしょ、またいつか命令してあげるからそれまでお休み」
「う、ぐわっ……」
そこで悠太の意識が途切れる。
その様子を確認したメフィルは微笑みながら異物へと言った。
「準備もここまで終わったし、次のフェーズ2に移行しちゃおっか」
「そうでしゅね」
二人は見つめ合ってはにかんだ。