ゴーレム戦決着
前の話にダンジョン編はもうすぐで終わります、と言いましたがもう少しだけお付き合いお願いします。
≪俺が助けてやろうか、トワ≫
頭の中に直接語りかけてくるように声が聞こえる。
ミアに魔石を食べさせるのを催促したのもこの声だった。
「お前は誰なんだ」
≪そんな事気にしている場合か?今の状況をどうにかしたいんだろ≫
確かに今はリーシャ達を助けるのが優先である。
だが、力の無い自分がどうやってリーシャ達を助けることができるだろうか?
そして、この声に従っても良いのかという疑問さえ浮かんでくる。
≪迷ってる暇はない、一回しか言わないからよく聞け。あの大きなゴーレムがいるだろう、あのゴーレムのうなじあたりにはあいつを殺せる仕掛けがある。それを機動させろ≫
「どうやったら機動するんだ」
≪そこまで、教えてやる義理はねえよ。まあ、がんばんな、じゃあ≫
「あ、おい」
その声はもう聞こえてこない。
しかし、その声の言うとおりなら自分でもあのゴーレムを倒すことができるかもしれない。
自分に残された道は声を信じることだけ。
「よし、いくぞ」
なけなしの勇気を振り絞り、大きなゴーレムに向かって走る。
大きなゴーレムはリーシャとミアを殴った態勢のまま動かず、小さなゴーレムはメルを少しずつ追い詰めていく。
早くしなければ。
まず大きなゴーレムが動いていないことを確認し、背中をよじ登っていく。
筋力がないため途中何回か落ちそうになりながらも何とかうなじのところまで来れた。
「うなじに一体どんな仕掛けが……」
うなじのところにはプレートみたいなのが張られており、土やほこりを被っているがそのプレートに何かが書かれていることが分かった。
土やほこりを手で払いのけ、再度プレートを見る。
「E M E T H」
そこにはアルファベットでそう記されている。
自分の言語理解というスキルでそう見えているだけかもしれないが、この仕組みなら見たことがあった。
それは地球の神話の一つ。
ある律法学者が土人形に羊皮紙を当て、そこにEMETHと書いた。確か意味は真実だったと思うがそれは置いておこう。
問題はそれからだ、ゴーレムは生み出されてからどんどんと大きくなり手が付けられなくなった律法学者はゴーレムに自分の靴を履かせるよう命令する。
そして、命令を受理したゴーレムがしゃがんだ時、律法学者は羊皮紙に書かれたEMETHの字の最初のEを消してしまった。
すると文字はMETHとなり、意味としては『死』という事になってしまいゴーレムは崩れ落ちしんでしまう。
確かこんな感じの話だったと思う。
それがこのゴーレムにも当てはまるとしたら――。
「最初のEを消したら倒せるはず」
地球の神話と同じという偶然を信じ、アイテムポーチからナイフを取り出した瞬間。
大きなゴーレムが再び動き出した。
「うわっ」
リーシャとミアの方向に歩き始めたゴーレムは、まるで処刑者のようだ。
悠然とした態度で歩くのは余裕の表れなのか、早く急がないとリーシャとミアが殺されてしまう。
歩く揺れでなかなかEの文字に狙いが定まらず、違うところをひっかく。
一度でもいいから止まってくれ……。
その願いは通じ合ったのか、はたまた偶然か、いまだ戦っている仲間が叶えてくれた。
「や、らせる、わけには、いかないんですよ……」
メルを中心にして風が吹き込む。
魔力が見えない自分でも見えるぐらいの魔力がミアの辺りに集まっているのが分かる。
メルは最後の全魔力をここで使うつもりなのだろう。
大きなゴーレムも危険を感じとったのか振り返る。
「食らいやがれ、風の狂乱」
放たれた魔力の渦は荒れ狂う風となり前方にいた小ゴーレムを数体粉々に消しとばし、自分が登っている大きなゴーレムの右足を吹き飛ばした。
比重が偏ったために右に傾く大きなゴーレム。
メルは力尽き床に前から倒れ伏す。
小ゴーレムはやられたゴーレムの破片を吸収していた。
「ここだ!」
メルがくれたこの機会を失う訳にはいかない。
右にゆっくりと傾いていくゴーレムにしがみ付きながら、左手に持ったナイフでEの文字を削り取ることに成功した。
「ウ、ウゴアアアア」
残されたMETHという文字が発光し、大きなゴーレムは足から崩れていく。
「ちょ、ちょっと待ってええええ」
ゴーレムが崩れていくのに則し、自分も三メートルという高さから落下する。
たかが三メートルだが、それでも落ちるのはすごく怖い。
最終的には尻を強めに打った程度に済んだ。
尻をさすりながら、『気配遮断』を解きまずはメルのところに向かう。
「おい、メル大丈夫か」
「うっ」
メルの肩を揺さぶりながら大きな声で呼びかける。
メルは多くの血を失ったた事と魔力を全て使ったことにより気を失ったいるようだ。
辺りには大きなゴーレムとともに崩れた小ゴーレムのドロップ品が散々と散らばっている。
メルを仰向けに寝かせ、リーシャとミアが飛ばされた方向を見るとミアとリーシャが互いを支えこちらに向け歩いて来ていた。
「ゴーレムは一体どうなったんだ?」
「そうです、私達が起きているときに崩れているのを見ました」
「ああ、あれはだな……」
頭に直接響いた声のことを含め、リーシャ達に説明をする。
説明し終えた時、リーシャとミアはなぜそんな危険なことをしたのか、と怒っていたが最後には助けてくれたことに感謝していた。
今のところ無事といえるのは自分一人だけなのでドロップ品を一人でかき集め、メルが起きるまで十九階層で休むことにする。
十分後。
「ううう、あっ」
「メル、大丈夫か」
「ああ、トワさん、ゴーレムは、皆は……」
「大丈夫だよ、ほら」
「ああ、メル、体は大丈夫ですか」
「大丈夫かのう、メル」
メルが斗和の力を借り上半身を起こすとそこには、ぼろぼろだがそれでも生きているリーシャとミアが見える。
良かった……。
安堵すると急激な眠気が襲ってきた。
「すみません、また寝かしてもらっていいですか」
「ああ、ゆっくりお休み」
メルは重い瞼を落とし、数秒後には寝息を立てていた。
「ミアとリーシャには悪いがこのまま二十階層に行こうと思っている」
「ふむ」
「確か、ガバンさんの話では二十階層のボスは戦闘するのではなくて、質問に答えたら次の階層に行かせてくれるそうでしたよね」
「そうだ、だからすぐに質問に答えてから地上に戻ろうと思う」
二十階層に向かうことに決定し、斗和はメルをおんぶしミアとリーシャは歩けるまで回復したのか、自分の足で歩き二十階層に続く階段を降りた。