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伝えましたとさ

 刃は俺に突き刺さる寸前で止められていて、そこまで来てようやく得物が分かる。

 手に握られたそれはナイフ。

 ただし、刃には波紋があしらわれていて、どう見てもただのナイフでない事が分かる。

 フードから覗くのは下手すればツキと見た目が対して変わらない幼女であり、実際俺に乗るその体重は全く苦にならないほど軽い。

 けれども、彼女から放たれている静かな殺気は、威圧感は、どこまでも重く、思わず呼吸を忘れるほど。

 咄嗟のことで動けず、額から冷や汗が頬を伝うほどの時間が経過し。

 ふと、刃の波紋が変化したように見受けられた。

 目線だけを動かし、その気付きを確認してみると……。


『情報を教えろ』


 と波紋が文字を作っていた。


「いや喋らねぇのかよ!!」


 思わずツッコんでしまい、それが(しゃく)(さわ)ったのか、ナイフの位置が先ほどよりも皮膚に近くなる。

 刃には、


『はやく』


 と文字が浮かび上がり……。

 思わずシューリッヒの情報を言おうとしたが、すんでのところで踏みとどまる。

 まだ俺は、こいつがもう一人の虎の子だと確認していないことに気付いたからだ。


「情報を言う前に素性を明かして貰おうか。持ってるだろ? 赤いヤツじゃあ無くて青いやつを」


 これで無関係なら、意味が分からないか、分かったとしても本物は出せないだろう。

 何せ、エポーヌ国が発行している“特別な冒険者証”は今の所二つしか無いのだから。

 相手の反応は如何に、と待つこと少し。

 ナイフの波紋をこまめに確認しても変化することは無く。

 かといって取り出す様子も無い目の前の刺客に、若干の苛立ちを覚え始めた頃。

 不意に。


「合格ご~かっく。そのまま情報をベラベラ喋るようなら八つ裂いていたのに……惜しいなぁ」


 ご機嫌そうな女の子の声が、頭上から響いた。

 しかし俺にはナイフが突きつけられている手前、そっちを確認するのは――、


「姿を現すのじゃ!!」


 セレナの仕事。

 と、セレナが突撃した先から、一人の少女が飛び出てきた。

 手には、青緑色で八咫烏の判を押された冒険者証を持っており、しっかりと素性を示している。

 少女が出てきた先からは、一人の付き人のような青年が後を追って出てきて、俺にナイフを突き立てていたしろフードも少女の傍へと跳ぶ。


「初にお目に掛かる。と言っても、肩書き位は知られてるかもかも? 私、『白頭巾』その人だったりしなかったり~?」

「お嬢、ふざけていると時間ばかりが過ぎますし、目標の情報を頂けないかも知れませんよ?」


 ふざけた口調でポーズを取って自己紹介らしい物をした少女を、冷静に、淡々と諫める付き人。

 白頭巾……ねぇ。

 戦地で語られる一つの言い伝えとして、こんなものがある。

 たった一人で籠城し、いかなる大群をも押し返し、千日以上守り通した化け物がいる。

 姿形は不明だが、白い頭巾を常に被っていた、という。

 そんな化け物が目の前の少女? 流石に嘘だろ。


「一応言っておきますが、誰しもが知る白頭巾その人で間違いありません。とはいえ、『白頭巾』という肩書きは世襲制。彼女が何代目かは伏せますが、ちゃんと継承された正真正銘の本物です」

「あ、んで私達はずっとあんたら見てたから、あんたの素性は分かってるつもり。だから話すんだけど、あの白頭巾は傀儡ね?」


 思考でも読まれたのか、いつものこと、と言うように説明を始めた付き人と、何故か俺に恐らく秘密であろう事を暴露する白頭巾。

 やべぇ、こいつらの意図が分からねぇ。

 何で俺にこんな話をするんだ?


「流石にキックスターの依頼ミスるのはやだから、多少なりとも信頼してくれたんなら、さっさとシューリッヒの情報欲しいんだけど?」


 どうやら俺の疑問は何代目か分からない白頭巾さんが答えてくれたようだ。

 キックスターの依頼をミスるわけにはいかない。

 全く持て同意しよう。国のお偉いさんからの依頼はミスはすなわち死に直結するからな。

 だから逸る気持ちは分かる。

 分かるが……何故俺に情報を渡す?


「お嬢。どうやらケイスさんは理解に及んでいないようですが?」

「はぁ? ここまで懇切丁寧に説明したのに理解してないとかもうボケ始めてんの?」

「誰がボケ始めてるだコラ! ちげーよ! 何で俺に白頭巾の情報を与えたか不思議に思ってんだよ!!」


 この餓鬼は……どう考えても俺がボケてるんじゃなくて、お前の思考が飛んでるんだろうが……。


「だってフェアじゃないじゃん」

「フェア?」

「そ。言ったでしょ? 私、あんたら見てたって。『降魔』だっけ? 初めて見たんだよね~」


 あぁ、ようやく合点がいった。

 つまりこいつらは、あの『降魔』が俺の食い扶持だと考え、それを一方的に知っていたのでは対等では無いと思ったらしい。

 そこで、自分らの『降魔』に匹敵する『白頭巾』を明かすことで、俺らと対等になろうとしたと。

 なるほどなるほど。

 …………だからといって口悪過ぎね?

 初対面の年上に向かって頭ボケてるはねぇだろ……。


「言いたいことは分かった。んじゃあもう一個教えるべきだ」

「? 何を?」

「呼び名。お前ら俺のことをケイスって呼んだだろ? じゃあ、俺はお前らのことを何と呼べばいい?」

「あー、……白頭巾以外にも必要か。……ん~――――んじゃあヴァイスって呼んで。んでこっちはスカーって呼んでいいよ」


 名前を尋ねられ、しばらく腕を組んで頭を捻り、ようやく出てきた名前は、まぁどう考えても偽名であろう。

 というか付き人もいきなりスカーとか呼ばれても反応できないと思うのだが……。


「まぁ、それでいいや。んじゃあヴァイス、シューリッヒの情報だ。よく聞けよ?」


 とはいうものの、こんなどこで誰が聞いてるかも分からない場所で言うはずも無く、俺はヴァイスの頭へと手を乗せる。

 スカーが何やら懐に手を突っ込むが、それをヴァイスは制止して。

 俺はそのまま、トゥオンに無理矢理ヴァイスを脳内会議に参加させ、頭の中で、シューリッヒの情報を伝えたのだった。

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