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何とかなりましたとさ

「はぁ……しんど。背景が分からん以上、殺せないのは仕方の無いことでありんすが、女性に二人も運ばせるんはいただけんわぁ」


 精神を捕縛しているケイスとセレナの身体を、闇を纏わせ移動中、藤紅が誰に言うわけでもなく愚痴を漏らす。

 ケイス達に『烏の目(スケアクロウ)』を与えたのが誰なのか、警戒の為に殺さないという選択肢をとったはいいが、どうにも割に合わないと考え始めているようだ。


「そもそもここまでの契約はしてへんかった筈やし……戻ったらあんの小僧に吹っ掛けてやらねばあきまへんなぁ」


 また適当な森に、そう考えていた藤紅の懐から――いや、谷間から。

 二つの光の玉が漂い出てきて……。

 今運んでいる最中の二つの身体に、それぞれ吸い込まれていく。


「いや嘘やんか!? セレナはまだしも人間が精神の捕縛破るんは聞いてへんで!?」


 咄嗟に闇を引き剥がし、警戒態勢を取る藤紅。

 どう考えても一般人には出来ない芸当をした人間の方を、二つ名のある白龍よりも気にしながら……。



 随分久しぶりな感覚が近付いてくる。

 精神世界に居たからか感慨深くなってしまうが……。

 実際の感覚なんて夢から覚めた程度。

 その夢がただの夢か、それとも明晰夢(めいせきむ)かどうか程度の違い。

 しかし、ようやくとも思える目覚めに、真っ先に感じたのは――違和感。

 相も変わらず視界はダブったままで。

 何やら警戒態勢を取っている目の前の藤紅は、人間の姿ではなく狐の姿に見える。

 あれが魔物状態の姿なのか……?


「ほんのちぃとばかし見ならん内に、えろぅ格好良うなって。中で何があったんや?」


 警戒心ダダ漏れで、セレナよりも俺に警戒を向ける藤紅は、思考が読めるからとそんな質問を投げてきて。


「っ!?」


 苦虫を噛み潰したような表情を向けてきた。

 表情から察するに、俺の思考が読めてないのか?


(パパの頭の中はしっかり『がーど』してるよ~?)

(『降魔』状態って、基本的に精神面に強力なバフが掛かるんすよ。それも相まってんじゃないですかねぇ)


 と、俺に『降魔』しているツキからと、何故だか知ってるトゥオンからの解説。

 今ならば、と藤紅を攻撃しようと動くと――。


「させるわけあらへんやろ!!」


 と、即座に反応されて俺に闇を纏わり付かせてくる。

 ……これにもデバフ掛けれんのかね?

 精神世界で行ったように、周囲に漂う闇を指さすと――。

 一瞬で霧散し、どこかへとかき消えてしまう。


「なっ!? そんなん、聞いてないでありんすよ!!」


 露骨に慌てて距離を取ろうとする藤紅だったが、逃げるのと指さすの、どちらが早いかは明らかで。


「は? えっ!? な、なんなんこのデバフ……。種類も量もデタラメやんか!?」


 指さされた直後にその場で膝を折り、動けなくなった藤紅に対して……。


「妾を無視し過ぎなのじゃ!!」


 何やら私怨が混じったセレナの膝蹴りが顔面に入り、もんどり打って吹っ飛ぶ藤紅。

 追撃の為に俺も寄り、トゥオンを繰り出すが……。


「それは堪忍やわぁ」


 手を添えられただけでトゥオンを止められてしまう。

 ……いや、それは精神世界の視界か。

 現実世界だとしっかり掴んで止めてるわ。

 やっぱまだ慣れねぇし、不便だな……この視界。


「だから妾を忘れておるのじゃ!!」


 トゥオンを掴んで手が塞がった事で、分かっていてもセレナの蹴りを受けることは叶わず。

 今度は脇腹に一撃を食らい、身体を仰け反らせた時にトゥオンを掴む力が緩む。

 今だ! と踏ん張りトゥオンを押して、藤紅を貫かんと力を込めると……。


「ま、今回は勝ち譲ったるわ。次、あればやな。そん時はあてが勝たせて貰うえ?」


 そうにっこり呟いて、トゥオンに、真っ正面から貫かれた。



「とりあえずは、一安心かの」

「勝っちまったな……」


 トゥオンで藤紅を貫いた直後、闇となって霧散した藤紅の肉体は、どうやら精神世界へと逃げ込んだらしい。

 しかし、ダメージは通ったらしく、セレナ曰く、しばらくこっちの世界に顔を出せないとのこと。

 まさか二天精霊の眷属を退ける日が来るなんてな……。


「まぁ、あやつは本来戦闘向きでは無いからの。あらゆる手を尽くし、謀略によって嵌めるのがあやつのやり方じゃ」

「確かに戦ってて直接的に攻撃はあまりしてこなかったな……」

「謀略によって嵌め、嵌めた相手を使って別のヤツを嵌める。故に、あのように傷つけずに捕縛しようとする傾向が多いのじゃ」

「本来はもっと面倒なやつなのな?」

「万全に準備されておれば無理だったじゃろうな。……例えばほれ、ケイスの元同行者を操り人数差を作るとかの?」


 藤紅の事を撃退してから教えてくれ、さらには嫌な発案をするセレナだが、マジで勘弁してくれ。


「まぁとりあえず、少しだけ休憩するのじゃ。精神世界で力を使いすぎたのじゃ。丁度日も昇ってきたしの」


 木の根元に腰を掛け、空を指さすセレナ。

 言われたとおり、空は僅かに白んでいて――――直後、俺の身体を猛烈な虚脱感が襲った。


「あ、『降魔』が解除されちゃったの~」

「夜じゃなくなったからですかい? あ、旦那。『降魔』ってのは基本的に限定的な時間の間しか出来ないんでさぁ。ツキの場合それが夜ってことみたいですぜ?」


 トゥオンが何やら説明してくれているが、もう俺の耳には届かない。

 虚脱感に身を任せ、正面から地に倒れた俺は、その後で襲ってきた疲労感に逆らわず、意識を手放した。

 手放す直前にぼんやりと。

 珍しい幾重にも重なった服を着たツキ、精神世界で見たハーピィの格好のシズ、本を携えたシエラ、火を纏う鳥と、恐ろしく大きな狼に見つめられている映像が、一瞬だけ、流れた。

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