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戦闘中ですとさ

 冗談じゃねぇ! 寝てるアイナ達や足となる馬には目もくれずに真っ先に俺らに狙いを据えてるってどういうことだよ!

 と、心の中で文句を言ったところで、相手が動きを止めるはずも無く……。

 即座に再度俺へと斬りつけてくる。

 得物は手につけた爪。個人的にはあまり評価していない武器なのだが、対モンスターでは無く対人――そして狭い空間という条件ならば話が変わってくる。

 周りに馬車やアイナが居るせいで満足にスペースを取れないこの場所ならば、である。

 斧や大剣、俺の槍のように振り回す系の武器は動きを制限される一方、手首の動きですら手軽に素早く攻撃となる爪は、局地戦において無類の強さを発揮する。


「クッソ! うざっちぃなぁっ!!」


 辛うじて避けてはいるが、それが長く続かない事は自分がよく知っている。

 ならばとトゥオンを振るい、追い払おうとするが、相手はあざ笑うかのように上体を反らして回避し攻撃を続けてくる。

 セレナが援護に入ろうとすると、その気配をすぐに察知して振り返りながら一閃。

 一瞬前までセレナがいた空間を切り裂く爪に警戒し、セレナは下手に援護に入れないでいた。

 一対多に慣れていて、おまけに動ける俺たちからまず始末しようとするこの暗殺者。

 誰に、何の目的で、誰を始末するために依頼を受けたというのか……。


「狙いは誰だ!?」


 セレナを警戒してくれた事で少しだけ広がった間合いに、盾と槍とをねじ込み、ようやく臨戦態勢を取れた俺は、無視されるであろう質問をあえて大声で放つ。


「…………」


 当然黙殺されるが、俺の狙いは答えて貰うことじゃない。

 大声で、寝ているアイナ達が目を覚まさないかと期待したが――。


「ZZZzzzz」


 思いは届かなかったらしい。


「面倒なのじゃ! 一気に行くぞ!!」


 そんな発言をして、音を立てて手を合わせたセレナに、当然の様に視線を向ける暗殺者。

 その瞬間を逃さずに暗殺者へと襲いかかる気配を向け、暗殺者の気を一瞬だけこちらに向けさせ――。

 俺が向かってこないことを確認して慌ててセレナへと意識を向けた暗殺者に……。

 セレナの放った、辺り一帯を眩しく照らすだけの魔法が、暗殺者の瞳を灼いた。


「グォォォッ!?」


 咄嗟に目を覆った俺でさえ、視界が純白に染まったんだ。

 無警戒で直視した暗殺者の目はしばらく使い物にならんだろう。


「ふっ! はぁっ!!」


 そんなセレナの声と共に、俺の耳に届くのは激しい戦闘音。

 ――いや、待て。セレナに武器の類いは持たせてねぇんだけど、あいつ一体何で打ち合ってんだ?

 んでもってセレナの攻撃を視界が機能してない状態で凌いでるって、あの暗殺者何者だよ。


「セレナ! 今行く!!」

「視界潰れていても油断するななのじゃ! 変わらず動きよるぞ!!」


 何でただの護衛依頼の筈なのに、こんなことになるのか。

 そんな思いを心の隅に蹴り飛ばし、ようやく戻って来た視力で状況の確認を行う。

 セレナの言うとおり、当たり前の様にセレナといい勝負を繰り広げている暗殺者――と、未だに眠っているアイナ達。

 なんつーか、もうツッコむのもダルい。

 無視して起きてから色々言ってやろ。


「メルヴィ! シエラ! 手荒になるぞ!」

「任せな相棒! 魔法以外なら全部受け止めてやんぜ!! HAHAHA」

「なるだけ、シエラ、で。鎧は、最後の、壁だから」


 被弾します宣言を装備達へ行い、覚悟させた上で二人の間に突っ込んでいく。

 当然反応して俺の方へと爪が振るわれるが――さっきまでとは違うんだよ!

 シエラで迫り来る爪を防ぎ、シエラという呪われた装備に秘められた能力を発動。

 受けた衝撃をそのまま返し、爪を弾く事で、全く身構えていなかった暗殺者の体勢が一瞬崩れる。


「っ!?」


 その一瞬を見逃さず、大地を踏みしめたシズの魔法により爆発的な初速で暗殺者へと体当たりを仕掛ける。

 もしかしたら情報が手に入るかもしれないので、トゥオンでの攻撃は控えておく。

 下手するとわざと致命傷になるように攻撃を受け、即死することで情報を与えないようにする者とかいやがるしな。


「舐メ……ルナ!」


 体当たりを食らいながら動かせる場所は――手首程度。

 そして、食らいながら狙える箇所は背中や横腹くらいなもんだ。

 案の定背中を標的としたらしい暗殺者が爪を振るうが……。

 メルヴィに阻まれ、金属音を上げただけで俺の体には一切傷を負わせられていない。

 んでもってこいつも初体験だろ!! 食らいやがれ!!

 メルヴィに衝撃が伝わったことで、呪いの鎧の能力が発動する。

 攻撃を受けた背中から、暗殺者の腕に絡みつくように火柱が上がり――。

 そのまま体を離して暗殺者を蹴飛ばし、距離を取る。


「無茶し過ぎたか?」

「あの程度なら朝飯前だぜ! まだその時間にゃ早えがな! HAHAHA」

「割と、痛かった。にい様、許さ、ない」

「主ら中々強いのじゃな。あやつは妾の動きにもついてきたというのに……」


 警戒は解かず、軽口を言って気を改めていると、セレナがそんなことを言ってきた。


「初見で見切られてたまるかよ。こちとら全身呪いの装備なんだぜ? 一個一個の能力で不意つけばある程度は戦えるさ」


 暗殺者は身軽を好む。あらゆる場面を想定したときに、速さこそが重要だからだ。

 当然鎧と呼べるものは精々革装備程度。

 がっつり重量のある蹴りを食らって伸びてくれてるといいが……。


「面白イ」


 ま、そう簡単じゃねぇわな。


「光魔法ヲ使ウナラ、コチラハコレヲ使ワセテ貰ウ」


 そう言って寝そべったままの体勢で体を起こし、爪同士を擦り合わせて音を立てた暗殺者から――。

 ゆっくりと、闇が吐き出された。

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