警戒を始めましたとさ
連休って何ソレ? 食べられるの?
モンスターというのは得てして群れを成すもので。
もちろん例外は居るが、基本的に下級なモンスターというのは群れで行動することが多い。
と言うわけでさっきのモンスター以外にも襲ってくるモンスターが居ないか警戒をしてはいたが……。
一向に襲ってこない事や、気配がまるでしないことから、どうやら珍しい個で動くモンスターのようだ。
「つかお前ら、もの凄い勢いで食ってるけどそんなに腹減ってたのか?」
「食えるときに食う。誰かさんからの教えの筈だけど? それに、さっきの取引内容考えたらしこたま食べないと損じゃない!」
「どんなに食べても、損だと思う」
「アトリア、そのツッコミはダメ。クリティカルヒット」
ワイワイガヤガヤ。人数が五人も一気に増えればやかましくなるというもので。
この辺りで気が付くべきだった。
無論、後からでなら何とでも言えるのだが、少しでも違和感を感じるべきだったのだ。
結局この時の俺は、どうやらアイナ達に引っ張られて気が緩んでいたらしい。
この仕事から手を引くのならば、もうこのタイミングしか無かったのだから――。
*
「嘘だと思うくらいに安らかな寝顔してんな」
「警戒という言葉を知らんと見える」
女子勢四人が寄り添い、少し離れる形のラグルフと共に、既に夢の世界に旅立った五人の顔をのぞき込みながらセレナと共に口にするが、そんな事をしても全く起きる気配がない。
こいつら食うだけ食って夜の警戒俺らに丸投げかよ。
良い身分だなちくしょう。
「妾は今のうちにこやつらの使っていた馬車と馬を探してこよう。そう遠くにも行っておるまいし。……無事ならの話じゃがな」
「そうしてくれると助かる。人間は夜になるとほとんど見えないからな」
(旦那は歳なんじゃないですかい? 見えないのは)
本来そこまでしてやる義理はないが、ここまで来ればその行動も些細なこと。
もし万一朝になって、宛てがないから付いてくるなんて言われた日には面倒になることが確定。
だったら一緒に来る選択肢だけでも潰しておくほうがいい、という考えを、どうやらセレナも持ってくれている様子。
あとトゥオン、しばらくお前手入れ無しな。
(酷いっすよ旦那! へそ曲げちまいますよ? ……なげやりになっちまいますよ?)
微妙な間のせいでお前の表情が手に取るように分かるわ!
どうせしたり顔してんだろうが!!
(あ、バレました?)
聞こえはしたけど無視。
んでもって、トゥオンには俺が楽するための手伝いをして貰おう。
トゥオンを構えて精神集中。
シズの力を借りて常人より少し高めにジャンプして、その高さから槍を振り回して氷塊を発生させ、火を焚いている場所を中心に円を描くように降り注がせる。
少しだけ音はするが――まぁ起きやしないだろ。
「こんなもんか」
「相変わらず雑っすねぇ。もっとこう、氷像とか出しましょうぜ? あっし頑張りますぜ?」
「どうせ溶けるし誰の目にも映らねぇのに無駄に魔力消費する意味ないだろ」
「身も蓋もないっすね!」
「あの~……言いにくいんですけど」
衝撃を殺した華麗な着地を決め、心の中で満点の評価をしていると、シズが恐る恐る声を掛けてきて。
「ん? どうした?」
と確認してみると。
「さっきの氷塊……セレナ様に掠ったように見えましたが――大丈夫ですか?」
――オイオイオイ、死んだわ、俺。
いや、待て落ち着け。落ち着いて状況を整理しよう。
まず言い訳を考えるために周囲を見渡す。
モンスターでも居ないかと思っての行動だったが、目に入ったのは走るでも駆けるでもなく、地面から僅かに浮いて俺のほうへ突進してくるセレナの姿。
あぁ、恥の多い生涯を送ってきました。
そのままぶん殴られるかと思ったが、セレナのした行動は俺の襟首を掴んで持ち上げる程度。
微妙に足が付かなく苦しくはあるが、即死じゃないだけ温情だと思う。
「言い訳はあるのじゃ?」
ここも、「言い残すことはあるか?」という言葉じゃない時点でセレナ様マジ天使。
だからその……一切笑ってない笑顔をヤメテ?
「スマン……不注意だ…………」
「次は一発ぶん殴るのじゃ」
「……善処する」
急に手を離され、地面に落ちるが、生きてるだけで儲けもんだよな……。
ただ本当に次は無いらしく、隠しきれていない殺気と魔力が怖いほどに伝わってくる。
――当然だけど誤射だとか、巻き込む攻撃なんかは絶対に御法度だな……。
(旦那が雑なのが悪いんすよ? 反省してくだせぇ)
(まぁ生きてるしいいじゃねぇの。ちったぁ灸になっただろ? HAHAHA)
(少しの、灸で……足りないと、思う)
(だ、誰しもに間違いはありますよ!)
相も変わらず脳内は俺を責めるような言葉ばかりだが、毎回フォローを入れてくれるシズが、最近は唯一の癒やしだったりする。
もっとも、結構な場面でフォローが間違えていたりするが、気にしない気にしない。
「ほれ、こやつらの馬車とはこれじゃろ?」
いつの間にか俺の前から消えていたセレナは、馬を引きながらそこそこ年季の入った馬車を持ってきた。
これが素直にこいつらの馬車なら良いんだが、嫌な予感がするのは気のせいか?